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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
15章 終わりの始まり

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新たな武具

 俺達は一抹の不安を抱えながらも一路レサシガムに向かった。直接ロックホールへと向かわなかったのは、代金をペイリン爺さんに預けたままだからだ。こんな形になるのならばーさんから直接もらったらよかった。

 隊商護衛をしながら1ヶ月半かけてレサシガムに到着する。冒険者ギルドで報酬を受け取ってからライナス達はメリッサの実家に寄った。


 「おお~! 麗しの我が実家や!」


 大きな屋敷を目の前に、メリッサは両手をいっぱいに広げて喜びを表現した。これって毎回しないといけないんだろうか。


 「おおぉぉぉ! メリッサぁ! よう帰ってきたなぁ! 無事で何よりやぁ!」


 邸内でペイリン爺さんが派手にメリッサを出迎える。そして熱烈な抱擁をしようとするが、メリッサは避けた。


 「なんっ!」

 「もうええっちゅーに!」


 今回は全部しゃべらせずに、じーさんの頭へ手刀を入れた。もちろん全力ではない。しかし、次第にじーさんの扱いがいい加減になってきたな。

 ともかく、ライナス達はとりあえず旅の垢を拭わせてもらい、食堂で夕飯をいただく。その後、食後の酒を片手に去年のことをじーさんに報告した。


 「聖女の奇跡によって王国軍が魔王軍に大勝したとは聞いとったけど、実際はそうやったんか」


 レサシガムにも王都方面での勝利は既に広まっていた。もちろん詳しい話は伝わっていない上に細部はでたらめだ。


 「メリッサも活躍しててなによりや」

 「聖女の奇跡ほどやないけどな」

 「メリッサ、まだ言うの?!」


 ほんのり顔を赤くしたローラがすかさず突っ込んだ。メリッサはにやにや笑ってる。


 「あー、それで、ゲイブリエルさん、アレブさんから送られた武具の代金はありますか? 俺達、今度はロックホールに行くつもりなんです」

 「おお、そうか。わかった。ここ出て行くときに渡したるわ。そんときにもういっぺんゆーてくれ」

 (それならメリッサに渡しておいてください。大切な物を預かる係なんで)

 「お、そーなんか。よっしゃ、わかった」


 まぁ、後は2人でやり取りしてくれるだろう。


 「それで、その後はどーするんや?」

 「一旦ここに戻ってきて、ライナスが星幽剣アストラル・ソードを使えるまで修行するんや」


 じーさんの隣に座っているメリッサが答える。あ、じーさんに修行する許可をもらわないといけないんだった。


 「ここって、わしの家でか?」

 「うん、あそこの広場を使わせてーな」

 「そらええけど、あそこで修行できるもんなんか?」

 「こちらのお宅でさせてもらう修行っていうのは、星幽剣アストラル・ソードの出力を調整することなんです」


 今のままだと、思いっきり魔力を放出して星幽剣アストラル・ソードを作り出すだけで燃費が悪いので、注ぎ込む魔力を調整できるように訓練するのだ。まずはこれができないとまともに使えない。


 「他にはせんでええんか?」

 「出力の調整ができるようになったら、今度はきちんと使いこなせるように最北の森で修行することになってます」

 「あそこは魔王軍がおるぞ?」

 「それが、アレブさんの話によると、あそこの魔王軍は規模が小さいから私達だけでも対処できるって言ってるんです」


 ペイリン爺さんは渋い顔をする。俺達だって実際に行ってみるまでわからないもんな。そりゃ不審に思うだろう。

 俺達は更に最終試験と魔王討伐の話についてもそのまま話す。


 「ほんま、あのばばぁは無茶なことばっかりさせるな」


 じーさんはため息をついた。

 確かにその通りだ。しかし腹立たしいことに、絶対にできないようなことは要求してこないんだよな。だからたぶん、魔王の討伐もできるんじゃないのかって思うようになってきている。


 「気の進まん話やけど、とりあえずは武具を引き取ってからやな」

 「せやな」


 じーさんがこの話を締めると、再びたわいない雑談が始まった。




 ペイリン爺さんの屋敷で数日間休んだ後、ライナス達はロックホールを目指して歩き始めた。せめてドワーフ山脈の麓にあるダルドの街まで隊商護衛の仕事があればよかったのだが、残念ながら今回も見つからずに徒歩だ。そのせいでレサシガムから1ヵ月もかかった。


 「うわ、相変わらずだな」


 ロックホール近くまでやって来ると4人とも顔をしかめる。金属や薬品の混じった独特な臭いのせいだ。中に入ると工房から伝わる熱気のせいで山中の春先にもかかわらず、かなり暖かかった。

 武具の作成を依頼していたグビッシュ氏の工房がどこにあるかは、全員ある程度覚えていた。多少迷いつつも工房にたどり着くと声をかける。すると、ドワーフにしては大きなグビッシュ氏が出てきた。


 「おう、お前らか! 待ってたぞ!」

 「お久しぶりです」


 俺達を見た瞬間、破顔したグビッシュ氏が上機嫌で迎え入れてくれた。この様子だと武具は期待できそうだ。


 「グビッシュさん、俺達、武具を取りに来たっす!」

 「おう、今持ってきてやる。ちょっと待ってろ!」


 そういうと奥に戻っていって再び出てくる。その手には長剣ロングソード槍斧ハルバードを携えていた。


 「こっちはバリーの槍斧ハルバード、こっちはライナスの長剣ロングソードだ」


 そう説明されながら差し出された武器を2人は受け取る。どちらも造りは非常に簡素だ。形状そのものは今2人が持っているものとほぼ同じで、飾り気はない。しかし、刀身や刃など、真銀ミスリルの部分の輝きは全く違う。金属なんて色が違うだけで輝き方なんて似たようなものだと思っていたら大間違いだ。上品であるにもかかわらず力強さを感じる。


 「うわぁ」

 「すげぇ!」


 2人は手にした武器にしばらく魅入っていた。その様子を満足そうにグビッシュ氏が眺める。


 「どうだ、気に入ったか?」

 「「はい!」」


 どちらも嬉しそうに頷く。グビッシュ氏も上機嫌に首を縦に振っていた。

 さて、やっと手に入ったんだから、早速試しておきたいな。


 (ライナス、星幽剣アストラル・ソードを試してみよう)

 「ああ、そうだな!」


 うん、これならきっと成功するに違いない。俺達はそう確信しながら1つに重なる。

 すると、やっぱりごっそりと魔力を抜き取られる感じがした。あれ、前と同じ?

 真銀ミスリル製の長剣ロングソードは俺の魔力が抜けると同時に淡く光った。


 「ユージ、どう?」

 (うーん、前と変わらな……ん?)


 おや、ごっそりと魔力が抜けたのは最初だけで、今はそれ程でもないな。かなり消費が抑えられている。


 (魔力を大量消費するのは最初だけのようだ。この状態で使い物になるのなら、消費の問題は解決だな)

 「あとはこの状態で使えるかですね」

 「よし、それじゃこの鉄の塊を切ってみろ」


 そう言って指し示されたのは、20イトゥネック四方の鉄塊だった。このときのために作ってくれたらしい。

 ライナスは頷くと真銀ミスリル製の長剣ロングソードを構える。そして、軽く鉄塊を叩いてみた。すると、驚くほどあっさりと刀身が鉄塊を切断した。俺もライナスも驚愕で目を見開く。


 「お、簡単に切れたな」

 「ああ、本当に簡単に切れたよ。まるで柔らかい土を切ったみたいだ」

 「ふむ、どうやら成功らしいな。これからしばらくは使いこなせるように練習してくれ。問題が出てきたらまた来たらいいぞ!」


 当然だと言わんばかりの顔でグビッシュ氏は頷いている。余程の自信作なんだろうな。あとはペイリン爺さんの屋敷と最北の森でしっかりと訓練しよう。


 「あの~、それで、防具の方はどうなんでしょうか?」


 俺も鉄塊を切ると騒いでいるバリーを尻目に、ローラが控えめにグビッシュ氏へ問いかけた。


 「おう、そうだそうだ! ちゃんと4人分作ったぞ!」


 グビッシュ氏は再び工房の奥とこちらを何往復かした。そうして4人分の鎧が出てくる。


 「これは今お前達が身につけているものと同じ革の鎧に真銀ミスリルを打ち付けたものだ。軽量化と静音性を優先するということだったから防御力はその分落ちるが、それでも元が真銀ミスリルだからな。そこいらの下手な鎧よりもよっぽど丈夫だぞ!」


 大きく稼働する関節部分の防護は期待できないが、胴体のように細かく稼働する部分については金属の擦過音がしないように工夫されている。板金鎧プレートアーマーのような安心感はないが、革の鎧よりも断然しっかりしてそうだ。


 「そうだ、お前ら魔族と戦うんだよな。なら、武具のどちらにも光の魔法で保護しておけ。闇の魔法を使うあいつらと相性がいいぞ」


 ライナス達が新しい真銀ミスリル製の鎧に着替えている最中に、グビッシュ氏から助言が送られてくる。うん、それはもう知ってるよ。

 普段身につけている革の鎧の延長線上なので、全員がすぐに取り替えられた。おう、銀色に輝く部分が眩しい。


 「こ、これはちょっと派手だなぁ」

 「そうか? いいんじゃねぇの?」


 ライナスはさすがに恥ずかしそうだ。グビッシュ氏は苦笑している。


 「光を反射しやすい金属製の鎧を身につけている奴は、外套マントで体を覆っていることが多いぞ。天気のいい日なんて眩しくてかなわねぇからな」


 そういえば、騎士なんかだと外套マントを羽織っていることが多いよな。あれはそういう意味もあったんだ。単にかっこつけてただけじゃないのか。


 「さて、ここでしばらく体を動かしておかしいところがないか確認してくれ。なければそれで終わりだ」


 ライナス達は工房内で色々動いて試してみる。4人とも念入りにだ。その結果、特にこれといった問題はなさそうだった。


 「ありがとうございます。助かりました」

 「へへ、気に入ったぜ」

 「ありがとうございます」

 「ま、なんかあったらいつでも寄ってきな! お前達はゲイブリエルよりかは見込みがあるぞ!」


 何の見込みなのかはわからないが、ともかく気に入られたようだ。余計なことを言わなかったからだろう。


 「あ、グビッシュさん、これ、代金ですわ」

 「ん? おお、そうか、もらっておこう」


 メリッサが差し出した大きめの袋を受け取る。そして、中の金貨を1枚ずつ確認し始めた。

 しばらく待っていると代金の確認作業も終わる。いくらかの金貨を袋に入れて返してきた。腰にぶら下げた水袋と一緒に。


 「この水袋は、精霊の水が入っていたやつだ。貴重なものだから返しておくぞ」

 「はい」


 こうして、無事真銀ミスリル製の武具の引き取りが終わった。

 俺達は一旦レサシガムのペイリン邸に戻ることにした。

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