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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
14章 王都戦線

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対陣する両軍

 敵の襲撃を警戒して慎重に進んだ結果、アッピア伯爵の支援部隊が魔王軍の本陣がある戦場へたどり着いたのは、2日目の夕方だった。斥候の情報からまだ王国軍の主力部隊は到着しておらず、魔王軍にも動きはないそうだ。

 しかし、だからといって魔王軍がなにもしていないわけではない。こちらの動きを探るために陸だけではなく空からも斥候を繰り返し送り込んできていた。


 「これじゃこっちの動きは丸見えだな」

 「本当、やりにくいわね」


 ライナスとローラは空を悠然と飛び回る魔族を見ながら言葉を交わす。俺なら近づいて倒すことができるけど、あいつだけ倒しても焼け石に水だからなぁ。結局じっと我慢している。

 アッピア伯爵は、魔王軍の陣地から直線で1オリク程度離れている丘に陣地を敷くことを決めた。丘の頂にである。いくら魔法攻撃でも1オリクも離れていると届かないし、空からの攻撃はどこにいても受けるので、それなら見晴らしの良いところに陣地を敷いた方がいいということだそうだ。

 魔王軍の陣地からは更に魔族2人が空からやって来る。血気に逸る聖騎士や魔法使いが追い払おうと魔法で攻撃を仕掛けるが、簡単に躱されていた。

 その魔族に刺激を受けて、どうせなら俺もということで魔王軍の陣地を偵察しに行くことにした。引き上げてゆく空飛ぶ魔族の後をついて行く。陣地へ着く頃には上空200アーテムくらいまで上がって陣地全体を眺めた。


 (要塞みたいにはしてないんだな)


 あくまでもここで王国軍に勝って王都に進むつもりらしく、基本的に周囲をがっちりと守っているわけではないようだ。ただ、魔王軍の本陣には魔物と獣が多数いる。これを昨年のように使われたらどうなるだろうか。ちなみに、兵数は数えられなかった。概算だとしても、みんな一体どうやって数を数えるんだろう。

 戻ってから見てきた様子をライナス達に伝える。大ざっぱな話ではあるが、相手の陣容をある程度知ることができてみんな興奮していた。


 「これ、アレックス隊長に知らせようぜ!」

 「でも、どうやってこれを知ったことにするんや?」


 そうなんだよな。いつもそこで引っかかる。


 「メリッサが詳細不明の使い魔を送り込んだっていうのはどうだろう?」

 「詳細不明ってなんやねん……」


 確かにライナス達以外からすると俺の存在はそうなんだが、まぁいいか。結局、最終的にはかなり使用制限のある使い魔ということで落ち着いた。話を聞いていると、まるで自分が別の生き物になったみたいな感じがしたよ。

 それはともかく、この話をアレックス隊長に伝えるとすぐに飛びついてきた。ライナス達の説明を聞くとすぐに副官を呼んできて、地面に書かれた陣地の概要図を書き写させる。


 「もっと詳しくわかるのか?」

 「陣地の見方なんかを教えてもらえたらある程度はできますけど」


 ということで、アレックス隊長は主だった者達をすぐに集めて、メリッサ相手に何が知りたいのかということを次々と伝えてきた。とりあえず望む情報を全て吐き出してもらわないとな。日が暮れてしばらくしてからようやく解放された。


 (あんなの全部覚えきれないよ……)


 思わず愚痴ってしまう。魔法の本に書き写した要求の数を見てげんなりした。


 「ユージ、それじゃ任せたよ」

 (おう。まだ気づかれないといいんだけどな)


 いい加減そろそろ気づかれそうな気もするんで少し怖い。危ないと感じたらすぐに逃げよう。

 報告は日の出前の早い段階という約束をしていたので、今度は時間をかけてゆっくりと見てくることにした。




 草木も眠る丑三つ時、なのかどうかは正確な時間がわからないので断言できないが、俺が戻ってきたのはかなり遅い時間だった。これだけ時間がかかったのは頼まれたことが多かったというのと探し回って時間を食ったせいだ。

 ともかく、俺は土の精霊を呼び出して記録した内容を地面に描かせた。この作業は結構時間がかかることが昨夕わかったので、あらかじめ準備しておくことにしたのだ。描くことは最小限にして、後はライナス達にメモってもらおう。

 準備ができると今度は4人を起こす。俺は代表してライナスの顔に水球を落とした。冒険に出て以来の慣例である。6時間以上寝たら充分だと思うんだ。


 「これが魔王軍の陣容か」


 小さい光明ライトで周囲を少し明るくしたライナスが呟く。割と細かく描いているので感心してくれているようだ。

 バリーにアレックス隊長を呼んできてもらっている間に、俺は3人へ簡単な説明をしておく。特にメリッサは説明役となるので手にしている紙へ書き写すのに必死だ。


 「おう、おはよう。待たせたな。ほう、これが魔王軍の陣容か!」


 寝起きでもアレックス隊長は元気だ。ライナスと同じ言葉を口にしながら熱心に地面に描かれた図を見入る。その間に副官を始め主だった者が集まってきた。


 「みんな集まりましたか? それじゃうちが説明しますね」


 ようやく書き終えたメリッサが、一息ついてからアレックス隊長達に説明を始めた。副官を始め数人がメリッサと同じようにその言葉を記録してゆく。

 説明が終わると今度は質疑応答だ。熱心に色々と聞いてくる。俺が補佐できるところはこっそりメリッサに教えていたが、専門的なところまではさすがに手助けできない。こちらとしては見てきたことをそのまま伝えるだけだ。


 「これを本隊に伝えたら、この戦いに勝てるぞ……!」


 今まで個々の魔族の強さや魔物の厄介さに苦労してきた王国軍であったが、これだけはっきりと相手の手の内がわかれば話は変わってくる。

 興奮した面持ちでアレックス隊長達は戦術的なことを話し合い始めた。


 「ありがとう、メリッサ。早速アッピア伯爵と話をしてくる!」


 上機嫌でアレックス隊長達は打ち合わせをするために去っていった。

 その後、日の出直後にアレックス隊長がアッピア伯爵の部隊へと向かって行くのが見えた。ここからは偉い人同士の話なので俺達は待つだけだ。いい反応が返ってくることを願うばかりである。




 俺達が丘の上で一晩過ごした翌日、昼前から魔王軍の陣地の南側に王国軍の姿が現れてきた。それに合わせて魔族が空からその様子を確認している。やっぱり上から偵察できるっていうのは大きいよなぁ。

 一方、魔王軍の陣地の西側に陣取っている俺達のところでは、アッピア伯爵の天幕の中でさっきまで議論が交わされていた。戻ってきたアレックス隊長は随分と上機嫌である。


 「どうでした?」

 「おお、ローラ殿! メリッサが報告してくれた話は、全面的に受け入れられてもらえました!」


 出所が怪しいから貴族に受け入れてもらえるのか心配していたが、はねつけられなかったのか。


 「メリッサはローラ殿の親友ですからな。その話は信用に値するでしょう。もちろん、私も全面的に推薦しておりましたぞ!」


 やっぱりしかるべき地位の人と看板の効果は大きいなぁ。


 「いやぁ、聖女様々やなぁ~」

 「……そういう言い方はやめてよ」


 当然そんなローラの意見をメリッサが聞くはずもない。


 「それで、この魔王軍の陣容は本隊にも届けることになりました」

 「そうでしょうね。本隊にこそこの話は必要でしょうから」


 ローラの言う通りだ。俺達だけで隠し持っていていい情報じゃない。本気で勝ちにいくなら全ての情報は共有すべきだ。


 「これからどうなるんすか?」

 「本隊の体勢が整ってから攻撃開始だろう。場合によっては、俺達が先に攻撃して注意を引きつける役になるかもしれん」


 アッピア伯爵のような支援部隊は東側にもいるらしい。やるなら同時にということになるのだろう。


 「我が軍が9000に対して、魔王軍がおよそ3000程度だろう。獣と魔物を入れても5000には届かないはず。そこに相手陣地の詳細が手に入るのだ。今回は勝てるだろう」


 空飛ぶ悪魔のせいで、毎回こちらの手の内を早い段階で読まれて対応されて苦慮していたそうだ。今回もその点は同じだが、初期配置がわかっているだけでも全然違うと言われた。


 「小競り合いはこれからあるだろうが、決戦は明後日以降だな」


 主力部隊の動向からアレックス隊長はそう予想する。俺達は軍事的な素養がないのでそれに頷くしかないが、その明るい様子から何とかなるんじゃないのかと思った。




 翌日、主力部隊へ魔王軍の陣容を説明しに行った一団が戻ってきた。本隊でもこの情報は喜ばれたらしく、今後の作戦の参考にすることになったそうだ。

 アッピア伯爵の部隊が布陣している丘の上から周囲一帯を見渡すと、左手約1オリク先に魔王軍の本陣、右手約1.5オリク先に王国軍の本陣がある。東側の支援部隊は魔王軍の本陣を挟んで2から3オリク先にあった。

 アレックス隊長の話だと、魔王軍は魔族が3000で獣と魔物を入れて5000弱だと言っていた。そして王国軍は俺達も含んたアッピア伯爵の部隊が660程度、反対側の支援部隊が1000程度、そして本陣が7300らしい。数の上では有利だが、人間対魔族でどこまで戦えるのかということと、獣と魔物をどう使うのかということが気になる。


 「あ~、やっぱり嫌がらせはしてくるよな」


 人の前で歩哨の当番をしているライナスが対陣の様子を見ながら呟く。布陣が完成しつつある王国軍の本陣に対して、上空から魔族が魔法で攻撃を仕掛けていた。偵察を兼ねた嫌がらせなんだろう。

 それに対して地上から応戦する様子も見えるが、一向に当たる気配がない。うーん、やっぱり対空戦闘は分が悪いか。

 一方、地上でも斥候隊同士の小競り合いが散発している。個体差がはっきりと出る少数同士の戦いだと魔王軍側が優勢のようだが、兵力差を考えると案外帳尻は合っているのかもしれないな。


 「おお、見ていてもどかしいぜ!」


 数百アーテム先で行われている斥候隊同士の戦闘を見ながらバリーが呟いた。2対2の同数にもかかわらず珍しく互角に戦っている。

 俺としても助けたいが、こういった小競り合いでは陣地からの直接支援はしないことになっている。戦場でのお作法というやつだ。ただし、別の小隊が助けるのはいいらしい。


 「お、1人倒した?」


 戦士っぽい男が相手の魔法をぎりぎり避けて剣を肩に叩きつけた。相手の魔族はそのまま後方に倒れ込む。そのとき、こっちでその様子を見ていた騎士や傭兵が歓声を上げた。

 しかし、もう片方の戦いでは腹を切り裂かれた人間の男が倒れる。今度は魔王軍の陣地から歓声が上がった。やっぱり向こうも見てるんだ。

 勝ち残った人間の戦士と魔族はしばらく睨み合う。しかし何か示し合わせたのか、そのまま武器をしまうと互いに倒れた仲間を担いで陣地に戻ってゆく。


 「いやぁ、いい勝負だったな!」

 「そうだったな」


 途中からその様子を見ていたライナスもバリーに賛同する。

 仲間を担いで戻ってきた戦士は、アッピア伯爵の陣地へと入っていった。

 そのすぐ後に、他とは明らかに違う上質な鎧を身につけた騎士が、数名の部下を引き連れて同じ陣地へと入ってゆく。あれがアッピア伯爵らしい。確か本陣から戻ってきたんだよな。そうなると、またアレックス隊長が呼ばれるんだろう。


 そうして戦場に着いて2日目は終わってゆく。戦いが始まるのも近い。

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