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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
14章 王都戦線

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斥候と襲撃準備

 魔族の獣操作とその道具の報告を王国軍の本陣へ伝える伝令兵を送りだした翌日、その伝令兵が戻ってきた。すぐに指揮官用の天幕に入ってアレックス隊長に面会しているようである。


 「本陣の様子はどうなってんだろうなぁ」

 「他も状況がよくなっているといいわよね」


 陣地内の自分のテント前で暖をとっているバリーとローラは、のんびりと感想を口にしていた。それぞれの隣にはライナスとメリッサがいる。

 色々検討した結果、今後襲撃してくる獣の集団が同規模ならもう恐れなくてもいいということがわかった。防壁に近づいてきた獣に対して、笛を使ってその動きを停止させてしまえばいいからだ。最初の一撃は受けないといけないが、防いでいればそのうち動かなくなるんだから今までよりも断然楽である。

 だからライナス達は、もう前日のように目の前の丘陵で待機する必要はない。なので陣地内にいる。


 「獣の大集団はまだ健在だから安心はできないよな」

 「逆にうちらが襲撃しに行ってもええんと違うか?」


 自分で出したお湯をちびちびと飲みながら、メリッサはライナスの懸念に提案をする。俺としてもやってみたいが、あの量はちょっとなぁ。

 そうやって漫然と休憩時間を過ごしていると、伝令兵がアレックス隊長の天幕から出てきた。何を話していたのかわからないが、随分と長かったな。

 しばらくするとアレックス隊長も天幕から出てきた。そしてその途端、体をほぐす。ああ、休憩するんだろう。


 「アレックス隊長、どうだったんすか?」

 「ん? バリーか」


 バリーが近づいて気軽に問いかけた。首を鳴らしながらアレックス隊長は体を向ける。


 「なんでも、他のいくつかの陣地でも魔族から笛を奪ったっていう報告は何件かあるらしい。本陣へ笛を送ったところもあるそうだ」

 「みんな自分のところで使わないんっすか?」

 「魔族から使い方を聞き出せたらそうしたいだろうよ」


 戦ってそのまま魔族を殺したところなんかは使えないだろう。


 「ただ、獣の集団の出撃陣地を探り当てたのは俺達だけのようだ。東側にももう1つあってもおかしくないはずなんだが」

 「たぶん、まだ斥候を出せてないんじゃないでしょうか?」


 ライナスも続いて質問を口にした。

 俺もそんな気がする。基本的には獣の襲撃を撃退するので精一杯だろうからな。俺達みたいな小集団の陣地なら尚更だ。


 「さぁなぁ。魔王軍本陣の様子に関しても変化なしって話だから、当面はこのままじゃないかな」

 「これからも笛を回収できたら、他の陣地に渡した方がいいですよね」


 確かにそうなんだが、各地で引率役の魔族が戻ってこないことが続くと、さすがに魔王軍も一旦中止して対策を練ってこないだろうか?


 「うちが魔王軍におったら、戻ってこん奴が多数出てきた時点で一旦作戦を中止するけどな。獣の被害はともかく、魔族の被害は困るし」

 「後が怖いけど、そうなったら一時は楽でいいな」


 ライナスが苦笑しつつメリッサの意見に感想をつける。


 「対策か。どんな手を打ってくるんだろうな」


 アレックス隊長はぼそりと呟いた。残念ながらその問いに答えられる者はいない。

 当面の獣対策が打てたせいか全体的に弛緩した空気が流れている。そのせいかこれといった案は出てこなかった。




 伝令が戻ってから10日が経過した。既に4月も近い。日増しに気温が上がってゆくため、一面に広がっていた雪原は急速にその姿を消してゆく。今では一部を残して一面泥濘だ。


 「来ねぇな」


 バリーが今日もぼそりと呟いた。槍斧ハルバードに寄りかかりながら目の前の丘陵を眺めている。

 歩哨の当番だというのに全くやる気がない態度だが、他の傭兵も似たような様子だ。最後の襲撃から10日以上も獣の襲撃がないからである。3月の前半は何度も襲ってきたというのにそれがぴったりと止んだのだから、不気味と言えば不気味だ


 「でも、昨日来た輜重部隊の兵士も言ってたな、どこもそうだって」


 隣にいるライナスが律儀に応えた。

 たまにやって来る輜重部隊から話を聞いたところ、今月の後半はどこも獣の襲撃がぱったりと止んでいるらしい。被害の大きい陣地は一息つけると喜んでいるそうだが、上層部は何か大規模な行動をする前触れではないかと疑っているそうだ。

 気になった俺は毎日前の方へ移動して怪しい動きがないか見ているが、こちらの様子を探りに来ている痕跡すらない。こんな端っこには用がないのか、それとも本当に何もしていないのかはわからなかった。


 「ん? なんだ?」


 尚もとりとめもないことを話していると、バリーが後ろを振り返った。ライナスも釣られて振り返る。


 「バリー、どうした?」

 「後ろから何か近づいてきている。馬か?」


 陣地の裏手は天幕があってよく見えない。俺は少し上昇して音のする方向を見てみた。


 (あ、確かに馬だ。本陣の伝令騎兵だろう。だいぶ急いでるな)


 解けた雪のせいで平原はちょっとした泥濘と化している。そのせいで走る馬がその泥を後方へ跳ね上げていた。


 「え、何? 急いでるの?」

 「ろくでもねぇな」


 2人とも眉をひそめる。こんな戦場の端っこにそんなものを急いで寄越すなんて普通じゃない。本陣で何か起きたんだろう。

 次第に大きくなるその足音を気にしていると、「部隊長殿はどこか!」と聞き慣れない声で問いかけるのが聞こえた。近くにいた聖騎士がアレックス隊長の天幕を指差すと、伝令騎兵は急いで馬を下りて中へ入っていく。


 (できればここでのんびりとしてたいんだけどな)

 「同感だけど、伝令騎兵があんなに急いでやって来て何もないってことはないだろうなぁ」


 俺とライナスは儚い望みは叶わないんだろうなと力なく笑った。

 しばらくすると、伝令騎兵とアレックス隊長が同時に天幕を出てくる。伝令騎兵はそのまま馬に乗って陣地の外へ去っていった。

 アレックス隊長は近くにいた3人の聖騎士を呼びつけると何かを伝えた。すると、3人は「集合!」と声を上げながら各地を回る。見張り以外はこれで全員アレックス隊長のところへ行かないといけない。


 (どんな話か聞いてくるよ)


 今は見張りの当番であるライナスとバリーにそう伝えると、俺もアレックス隊長のところへ向かった。


 アレックス隊長の話を要約すると、今朝本陣に数百頭からなる獣の大集団が襲いかかってきたそうだ。一応撃退できたが損害が馬鹿にならないので各陣地から人員を抽出するということだった。いよいよ魔王軍が攻めてくるのではと上層部は考えているらしい。尚、魔族から奪った笛は効果はあったものの、数が足りなくて成果が限定的とのことだ。よって各陣地の笛を本陣に集めることになった。

 以上が各陣地に共通の命令だった。そしてもう1つ、この部隊のみの命令が更に続く。それは、獣の集団の出撃陣地がどうなっているのか探れというものだった。アレックス隊長の部隊からしか報告が上がってないんだから、ある意味この指令がやって来るのも頷ける。


 「というわけで、ローラ殿達には再び斥候を頼みたい」


 本陣へ応援に行く人員が選ばれている横で、ライナス達はアレックス隊長に呼ばれていた。再度魔王軍の様子を探るためだ。まぁ、あの報告をしてきたのは俺達なんだからこの命令はみんな予想していた。


 「以前見た獣の大集団が現在どうなっているのか様子を探るんですね」

 「見るだけでいいんすか?」

 「はは、元気がいいな、バリーは。手を出せそうならやってくれてもいいぞ」


 バリーの発言を冗談と受け取ったアレックス隊長が朗らかに笑って応えた。バリーは本気で言ってるんだけどな。付き合いの長いライナスなんかはそれがわかっているから苦笑している。


 「でも、本陣を襲った獣の出所が私達の確認した敵の陣地だとしたら、今はほとんど空っぽなんじゃないかしら?」

 「せやな。数によっちゃ仕掛けられるかもしれんで? やられっ放しは好かんから、やれるんやったらやっとこうや」


 驚いたことにローラとメリッサもやる気だ。


 「みんなやる気があるのは結構なことだが、無理はするなよ。まだ今は探り合いの段階でしかないんだからな」


 3人のやる気を嬉しそうに眺めつつも、最後にアレックス隊長はそう締めて解散となる。

 そうして翌日、再度獣の大集団に向けて俺達は出発した。




 ライナス達は再び1日半かけて魔王軍の獣陣地へと向かって歩く。雪が泥に変わっただけで相変わらず歩きにくそうだった。

 そして例の魔族を捕らえた小川までやって来た。ここから丘2つ先が獣の大集団のいるところだ。


 「前回はユージに見てきてもらったのよね」

 (なら今回もそうしたらいいんじゃないか?)


 わざわざ危険を犯す必要はない。前と同様に小川伝いに動いてもらい、木々の裏手で待機してもらうことにした。

 そこから俺は300アーテムほど上昇してから獣の大集団がいるはずの場所に近づいた。


 (あれ? 前と違う?)


 そこで見たものは、獣の群れとは違った。いや、以前見た獣もいたのだが、他にもう1つ、柵に囲われた中に魔物の集団もいるのだ。

 どちらの集団も規模は以前よりもずっと小さい。数ははっきりとはわからないな。魔物が100頭くらいで、獣がその倍くらいか? 何にせよ、これは新たな兆候だ。


 (黒妖犬ブラックドッグ地獄の猟犬ヘルハウンド、うわ、あれ人間の腐乱死体ゾンビか? 白骨死体スケルトンもいるな……)


 他にも見たこともない魔物もいる。何だあれ、羽があるから飛べるのか?

 ともかく、俺は一旦みんなの元へ戻る。そして、見てきた内容を全て話した。


 「今度は魔物を集めているのか!」

 「くそう、何とかしてぇなぁ!」


 ライナスとバリーは悔しそうに唸る。前の獣の大集団を見ている俺としても、今回の規模は半分以下だから何とかしたいとは思う。


 「このまま魔物を集めさせたら、また魔王軍に好き勝手されてしまうわ。斥候役を命じられてたけれど、できれば何とかしたいものね」

 「ユージ、あんた範囲魔法は最大でどのくらいまで広げられるんや?」


 難しい顔をしながらメリッサが俺に問いかけてくる。明らかにやる気だ。今回はバリー並に好戦的だなぁ。


 (直径50アーテムの土石散弾アースショットを撃ったことならある)


 ノースフォートの魔物討伐のときだ。あれから修行は続けているので、今ならもっと広い範囲も可能なはず。


 「さっき見てきた魔物の集団を全部範囲内に収められそうなんか?」

 (100アーテム弱か……やったとしたら、余波でその周囲も大変なことになると思う)


 やるなら土石散弾アースショットだろう。あれなら広範囲で発動させても、範囲内の地面がいきなり吹き飛ぶから気づいたときには対応できない。


 「なら、うちは同時に範囲魔法で魔族を攻撃するわ」

 「獣の群れはどーすんだよ?」

 「もう一回ユージに範囲魔法で攻撃してもらう。無理やったらそのまま放っておこか」


 獣に関しては笛という対抗手段があるので二の次でいいとメリッサは説明してくれた。ともかく、今回は魔族と魔物に一撃を食らわせるのが重要とのことだ。


 「今回はうちとユージの魔法を中心に魔族を襲撃しようやん」


 攻める手立てがあるなら、思い通りにさせないという意思表示もこめて攻撃するとのことだった。この後全員で相談して、襲撃計画を練り上げた。

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