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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
14章 王都戦線

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陣地での生活

 ライナス達がアレックス隊長率いるノースフォート聖騎士団派遣部隊へと正式に所属したのは2月になってからである。このときから年内いっぱいまで行動を共にすることになった。

 また、部隊内での4人の扱いはローラが従軍司祭で他3人は護衛だ。立場としては、ローラはアレックス隊長の直下だと聞いている。ローラの聖女としての名声もさることながら、ライナス達の実績を評価してのことだ。恐らく数の少なさを俺達で補いたいんだろう。

 それと、年内いっぱいここにいることになったので、秋にロックホールへと行くことができなくなってしまった。そこで、メリッサにペイリン爺さんとグビッシュ氏にその旨を伝える手紙を書いてもらう。さすがに放っておくのはまずいからな。


 「うーん、こんなものかなぁ」

 「ライナスもちゃんとできとるやん。えいらいえらい」


 アレックス隊長率いる部隊に参加してからというもの、ライナスとメリッサは土の魔法を使って陣地を強化していた。具体的には土壁アースウォールを使って周辺に即席の防護壁を作っているのだ。周辺には木が少なく柵などの資材もなかなか届かないので、自分達で用意しているのだった。


 「いくらかは用意してあるとはいえ、さすがにちょっとした集団を全て守る規模となるとそう簡単にはいかないな」

 「ユージが大っぴらに手伝えたらもっと楽なんやけどなぁ」


 魔力にあかせて作らせようというわけか。

 2人が作業を始める前にも、なけなしの柵と部隊の魔法使いが少しずつ作った防壁があったが、質・量ともにとても役に立つものではなかった。そこで最初に俺達3人で今ある防壁を補強することにしたのだ。え、なんで俺が頭数に入っているのかって? ライナスの陰に隠れてこっそり手伝ってるんだ。おかげでライナスの評価は相変わらず過大ぎみである。


 「おー、かなりはかどっているじゃないか!」


 ライナスとメリッサが休憩していると、背後から雪を踏みしめる足音と共にアレックス隊長がやって来た。


 「アレックス隊長」

 「ふんふん、あの頼りなさそうな壁が立派になったなぁ」


 目の前の1.5アーテムの壁を見てアレックス隊長は満足そうに頷く。厚みも1アーテムあるので、ある程度の獣や魔物の突撃になら耐えられる。


 「壁の裏手に少し高めの足場を作ったら、城壁みたいに使えますよ」

 「そりゃいいな。だったら、壁は2人に作ってもらって部隊の傭兵に足場を作らせよう!」


 やっぱり丸裸状態は不安だったんだろう、立派な壁ができたことにアレックス隊長は上機嫌だ。


 「それで、どのくらいで完成しそうだ?」

 「今の規模やと、今月いっぱいはかかるんと違いますか」


 頭の中で計算しながらメリッサが答えた。名目上は2人で作っているということになっているので、その辺りの再計算をしてから時間をはじき出す。


 「それにしても、2人がかりでこれだけの物を作り上げるなんてとんでもないな」


 改めて俺達の作った壁を見てアレックスは感心したように呟いた。ここに部隊ごと着任してきたのが去年の12月だったらしいが、それから約2ヵ月近くかけて部隊が築き上げた防壁群を俺達が数日で強化したからだ。メリッサの持つ聖なる大木の杖や3人目の俺の存在あってこそできたことなんだが、おかげで早くも部隊内での評価は高い。


 「魔族の本格的な攻勢は春になってからって聞いてるから、それに間に合うんだったら構わない。そのままのペースで続けてくれ」


 そうしてしばらく雑談をした後に、再び天幕へと戻っていった。やっぱり仕事の合間の休憩だったのか。


 「それにしても、相変わらずローラは大人気やなぁ」

 「そうだね」


 2人が視線を向けたのは、ローラの前にできている列だった。

 基本的に軍隊や傭兵の集団というのは男社会である。冒険者がパーティ単位で参加している場合だとその限りではないが、普通は男ばかりだ。そのため、ローラのような見目麗しい女が現れると周囲の男が群がってくる。

 最初は慰問と称して怪我や病気をしている聖騎士や傭兵を治療して回っていた。しかし、常に人だかりができて危ないと判断したアレックスが、逆に用のある者だけがローラの元へ訪れるようにという形にしたのだ。

 その隣には常にバリーが護衛についている。ライナスとメリッサよりも、与えられた役職通りの仕事をしている2人であった。


 「でも不思議だな。ローラのやっていることって、他の僧侶達がやっていることと同じなんだろう? どうしてローラばっかりに集まるのかな?」

 「ライナスはわかっとらんなぁ。どうせやってもらうなら美人に頼む方がええやんか」


 部隊にはノースフォートから派遣されていた僧侶が30人いるのだが、全員男だ。こうなると、傭兵としては選択肢がないというわけである。


 「でも、他の僧侶に睨まれないかな?」

 「全員男やったんが幸いやな。みんな傭兵の気持ちはわかってるようやから苦笑いで済んでるようやわ」


 これで女僧侶が1人でも混じっていたら対応が面倒なことになっている可能性があった。

 そうだ、ちなみにこの30人の僧侶をとりまとめているのはジェフリーという中年司祭だ。ローラも司祭なので立場上は同列である。どちらもアレックス隊長の直下なので命令系統としては独立している。幸いローラの知り合いなので軋轢はなかった。

 こんな感じでライナス達の役割は部隊に来て早々決まった。聖騎士にも僧侶にも知り合いがいたというのが大きな助けになったといえる。




 基本的にはライナスとメリッサを手伝って壁作りをしている俺だが、たまに陣地内をうろうろすることがある。ある日、むさい男がたむろしていることがあった。輜重部隊とこっちの兵士達である。

 陣地には200人以上の人間が集まっているので、それを維持するために様々な物資が必要となる。その物資を運んでくるのが輜重部隊であるが、運んでくるのは物だけではない。

 運んできた荷物を届けてしまえばあとは帰るだけなのだが、話題にも飢えている者達にとっては貴重な情報源だ。これは聖騎士や傭兵といった区別はなく、みんな同じである。俺も何食わぬ顔で話を聞く。


 「なぁ、中央の様子はどうなんだ?」

 「どうもこうもねぇよ。最近はまた魔族の襲撃が増えてきてみんな大わらわさ」


 中央とは王国軍の主力部隊が駐屯している場所を差す。ライナス達はアレックス隊長の部隊の駐屯地まで来るのに半日かかった。しかし、これはいくつもの検問所で足止めを喰らったからだ。本来はそんなにかからない。

 そんな主力部隊のいる近辺は散発的な夜襲に頭を悩ましているらしい。


 「敵の攻勢が近いのか?」

 「そこまでは知らねぇよ。ただ、でっかい獣やたまに魔物を引き連れた魔族が嫌がらせをしてくるんだぜ。しかも夜によ。おかげでみんな寝不足になっちまって機嫌が悪いのなんの」


 輜重兵の1人は顔をしかめる。配下の雑役夫も頷いていた。


 「こっちにはそんなのは来てねぇなぁ」

 「つまりここは戦場にゃならねぇってことじゃないか。羨ましいなぁ」

 「ハーティア聖騎士団で何か気になる話はないか?」


 傭兵と輜重兵の会話にある聖騎士が入ってくる。上層部の動きが気になるらしい。


 「あーあそこかぁ。ちょっと微妙ですなぁ」

 「どういうことだ?」

 「去年の負け戦でほとんど被害を受けてなかったから色々言われてるでしょう? それで汚名を返上しようとやたら張り切っている聖騎士様がいたり、今度は正面からぶつかることになるって青い顔をしている聖騎士様がいたりって、人によって色々なんですよね」


 傭兵に対しているときと違って口調が丁寧になる。聖騎士団所属の輜重兵なので聖騎士と階級差があるからだ。

 そしてその話を聞いた聖騎士はため息をついた。そんな様子でしっかり戦えるのか不安なんだろう。


 「先が思いやられるな」

 「それよりも、王国軍も聖騎士団も傭兵が思うように集まらなくて頭を抱えていましたよ」

 「あー、そりゃぁなぁ」


 脇で聞いていた傭兵が苦笑する。傭兵は金と生活のために生きている人間が大半だから、負けそうな陣営にはつきたがらない。王国軍は昨秋に魔王軍と戦って負けてしまったため、傭兵から避けられ始めているようなのだ。


 「それでどんな対策を講じているんだ?」

 「冒険者ギルドを通じて冒険者をかき集めている最中ですよ。パーティ単位の戦いならともかく、戦争のような集団戦なんてできるとは思えないんですけどねぇ」


 王国は根こそぎ動員をしようとしているらしい。王侯貴族に聖騎士団はもうこれ以上増員できない上に傭兵の集まりが悪いので、最後に頼るのは冒険者ということか。


 「その冒険者はちゃんと集められてるのか?」

 「さぁそこまでは」


 そんな集められ方をした冒険者の扱われ方なんていいはずがない。そう思うと、俺達はかなり恵まれているのかもしれないな。

 そこまで考えたところで、ジャック達のことを急に思い出した。最後に会ったのはイーストフォートだったはずだが、次の契約で王都に戻るって言ってなかったか? もしかしたらもう中央の主力部隊に来ているのかもしれない。なんだか無性に気になってきた。

 その後、話は王都のことになったり酒や女の話になったりして解散となった。ちょっと気になることが出てきたので、みんなに相談してみるか。




 その日の夕方、ライナス達は宛がわれたテント内で夕飯を食べていた。ここに来てから4人とも割と忙しいので全員が集まれる機会があまりない。そのため、3度の飯時は集まろうと約束していた。


 「はぁ、今日も1日が終わったなぁ」


 木製の無骨なコップを両手で包み込むようにして持ちながら、メリッサが顔を弛緩させた。中に入っているお湯を飲んで人心地着いたのだ。


 「壁はどれだけ作れたんだ?」

 「3分の1くらいかな。まだまだこれからやで」


 まだやって来て日も浅いから、そんなにたくさんはできていない。今のところ魔王軍の姿はこちらに現れていないので、それでも問題にはなっていない。


 (そうだ、今日輜重兵の話を聞いてたんだ)

 「なんだ、どこに行ってたのかと思ったら、そっちにいたんだ」


 そういえば壁作りをサボることになったんだっけ。悪いことをした。

 それはともかく、俺は聞いたことを4人にも伝えた。今の王国軍の主力部隊の様子や散発的な魔族の夜襲などについてだ。みんなも話題には飢えているらしく、食いつきはいい。


 (ということなんだけどな、そこでジャック達のことを思い出したんだ。あいつら今頃どうしてるのかなって)

 「そういや王都に戻るって言ってたよなぁ」


 ジャックと聞いてバリーも思い出したらしい。


 「最後に会ったのはイーストフォートだから……もう1年以上会ってないわね」

 「一昨年の秋か冬やったよね、確か」


 もう随分と昔の気がする。俺達も色々とあったからな。


 (それで、王国がやっている冒険者の募集に引っかかってるのか気になったんだ)

 「さっきの話だと、王国軍の主力部隊に回されるっていうのは危険だよな」

 「だな、間違いなく最前列の露払いに回されるぜ」


 ライナスの話にバリーも同意した。やっぱりみんなもそう思うか。


 「わかったわ。メイジャーさんに手紙を書いて、ジャック達がどうなってるのか調べてもらいましょう」

 「で、見つけられたらどうすんだ?」

 「見つけた状況によるんと違うか? 既に最前線に回されている場合とまだ王都にいる場合やと対応の仕方は全然変わるやろ」


 メリッサの言う通りだ。それを踏まえた上でローラに手紙を書いてもらう。後はメイジャーさん次第だ。

 こうして寒い陣地での生活は淡々と過ぎていった。

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