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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
13章 武具を求めて

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こちらの事情とあちらの事情

 ノースフォートから王都までは、聖騎士団が所有している馬車を利用することになっていた。これはメイジャーさんが移動するためだ。俺達も一緒にそれに乗り込む。


 「年末に王都から戻ってきたと思ったらまた行かないといけないなんて、全然落ち着かないわ」


 王国軍の敗北を受けて晩秋に王都で本部と出兵の交渉をしてきたらしい。そのときついでにローラのために身を守れるものを探していたら、ローラの帰還が話として持ち上がったそうだ。


 「ローラの話はなくなりそうになかったから、どうせならと思ってゲイブリエルから頼まれてたことも話の中にいれたのよ」


 曰く、危険な戦場に送り出すなら相応の身を守る手段が必要ということで相手に呑ませたらしい。ローラが最終的にノースフォート預かりになっていたのと、メイジャーさんが後見人だったからこそ交渉できたことだろう。

 しかし、そこで相手側は調子に乗って、ライナス達も招集するべきだと唱えた。さすがに部外者には命じられないとメイジャーさんが反論したものの、国難と聖戦には無条件で応じるべきと相手にされなかったという。


 「そこであの3人を動かすにはアレブ殿の許可が必要だから相談してきてって言ってやったら、みんな一斉に黙ったのよねぇ」


 相当恐れられているらしい。そのため、ばーさんとの交渉を一任されたメイジャーさんは話を持ちかけると、ライナス達と相談するように言われたそうだ。


 「あなた達が参戦するのを了承するなら構わない。ただし、ローラも含めてライナス達の意思を最優先することっていう条件をつけられたわ」

 (俺達に有利すぎないですか?)


 それだと戦地に着いた瞬間に帰りますって言っても許されるっていうことだよな。さすがにそんなことはしないけど、相手側がこの条件を飲めるとは思えない。


 「最終的にどうするのかっていう交渉も含めてあなた達に任せているそうよ。まぁ、交渉なんて最初はふっかけるものだから、これくらいでちょうどいいのかもしれないわね」


 メイジャーさんは笑顔でそう言ってくれたが、こっちとしてはどうしていいかわからない。少なくとも最新の情報をばーさんにはまだ伝えていないので、その話をしてから交渉に臨みたい。

 そんな思いを秘めながら、俺達はメイジャーさんと一緒に馬車で王都に向かう。このとき初めて知ったが、教団も王国公路に駅伝を設けていた。そのため、12日間で王都に着いた。まさか1月中に王都へ着くとは思わなかった。




 久しぶりにやって来た王都は、以前とはどことなく様子が違っていた。魔族と戦争しているとはいえどこか他人事のような雰囲気だったのが、今では落ち着かない感じになっている。それと、以前より兵士の姿をよく見るようになった。

 馬車は大神殿の前で止まり、ライナス達はメイジャーさんとそこで降りる。すぐに案内係の教団関係者が近づいてくると、俺達をメイジャーさんの宿泊する部屋へと案内してくれた。


 「やっと着いたわね。私はここで泊まることになるけど、あなた達はどうするの? 私が頼めば部屋は借りられると思うけど?」

 「いえ、いつも泊まっている宿に行きます。ここからだとアレブさんに会いに行きにくいですし」

 「私も宿に泊まります」


 ローラが先回りしてメイジャーさんに伝えた。パーティの一員として一緒に行動したいというだけでなく、みんなで相談するためには一緒にいた方がいいからだ。


 「わかったわ。それじゃ、明日の夕方にここで会いましょう」


 既にばーさんとは明日の朝に会うことになっている。その上でこちらの意見をとりまとめて、メイジャーさんと相談する手はずだ。メイジャーさんもそれまでに関係者と会って感触を確かめるらしい。

 俺達は大神殿を出ると、いつも使っている宿り木亭へ向かった。




 翌朝、腹ごしらえをした後に例の寂れた倉庫へと向かう。事前に緊急連絡用の水晶を使って約束する日時を決めていたので間違いはない。


 「よう来たの」


 ばーさんはいつもの通り俺達を迎え入れた。王都の雰囲気とは違ってばーさんは何も変わってないなぁ。

 ライナス達も挨拶をすると早速本題に入った。まずは最後に連絡したときから今までに関して報告する。ロックホールでグビッシュ氏に武具の作成依頼をしてきたこと、途中で貴族の手先みたいな冒険者に襲われたこと、メリッサが新たに身を守るための服をペイリン爺さんから譲り受けたこと、そしてローラに関するメイジャーさんとの話も全て話した。


 「ドワーフ山脈で襲ってきた冒険者というのが少し気になるが、今はええじゃろう。それよりもローラの方じゃな」

 「メリッサのように身を守るためのものをもらうための交換条件として、俺達も王都方面の対魔族戦線に出るよう言われています。アレブさんは俺達次第だとメイジャーさんに伝えていたようですが」


 聞いた話だと判断をこっちに丸投げしている様子だ。さっきの報告を聞いてばーさんの意見が変わらなければ、俺達が好きに決めていいことになる。


 「わしとしては魔王討伐隊の糧になるなら参加しても構わんと思うておる。王都方面の魔王軍は魔族と魔物が主体じゃ。経験を積むという意味では悪くないが、戦じゃからの、死ぬ可能性もある。お主らはそれをどう判断しておる?」

 「さっきも言いましたが、ローラの身を守るための何かをもらうための交換条件ですから、参戦しないといけないんじゃないですか?」

 「それに、私は光の教団から戦地へ赴くように要請されています。さすがにこれを拒否することはできません」


 戦争に参加するとなるとそれだけ死ぬリスクが高くなる。だから、それに見合う価値が教団からローラに提供されるのかということも問われているんだろう。


 (死ぬ危険が高くなるんだからそれに見合うものを教団から引き出せるのか、それと魔王討伐隊としての仕事に支障が出ない範囲で抜け出せるのかを聞いているのか?)

 「ほう、気づいとったか」


 メイジャーさんの話だと、ばーさんはローラも含めて俺達の意思を最優先するっていう条件をつけたんだよな。だから、今俺が言ったことを相手に呑ませないといけない。ただ、相手は魔王軍を撃破し、戦線を北に押し上げるまでは俺達を拘束したがるだろう。向こうとしては少しでも長く引き止めたいだろうから、それをどう避けるかだよな。


 「ローラにどんなものをくれるのかは、交渉の段階ではっきりとするからええとして、問題はいつ戦線から抜けるかやな」

 「こちらとしては早い方がいいけど、向こうは結果が出るまでに抜けられると困るよなぁ」


 そうなんだよな、結局のところ戦線から抜け出すための条件交渉が中心となる。俺達としては、戦場で王国軍の勝利に貢献するのが目的じゃないからな。


 「そういえば、真銀ミスリル製の武具が仕上がるのは今年の秋じゃったな」

 「ああ、正確には11月だぜ」

 「ならば、それを交渉材料にできるじゃろう」


 みんなはばーさんの言葉に首をかしげる。相手からすれば関係ない話だ。しかし、ここで俺はピンときた。


 (そうか、ばーさんの命令で武具を受け取りにいかないといけないということにすればいいんだ)


 みんなばーさんを恐れてるんだから、その感情を利用してやればいい。ばーさんも頷いている。


 「アレブさん、武具の引き取りは多少遅れてもいいんでしょうか? 来年にずれ込んだりなんかですけど」

 「わしは構わん」

 (夏頃までに魔王軍を北側に押し返せれば問題ないんだけどな)


 決戦がいつ発生するのか、挑んだ決戦に勝てるのかという2点が不明確だからこそ困っているわけだ。


 「そうや、肝心なことを聞き忘れとったわ。アレブさん、魔王軍は年内にまた攻めてきそうなんですか?」

 「可能性はあるの。何しろ去年の秋に王国軍を大きく後退させておるから、今年中に再度攻めてくると王国の上層部は考えておる」


 勢いのあるうちに押し切ってしまいたいよな。そうか、その考えが正しいならあんまり考える必要はないのかもしれん。


 (年内に魔王軍が攻めてくるっていう前提が成り立つなら、魔王軍との決戦が終わるまでいるっていうことでいいんじゃないか? 勝敗に関係なく)

 「負けた後に離れるっていうのは後味が悪いけど、少なくとも義理は果たせるってことか」


 ライナスが微妙な表情となる。どうせなら勝って終わらせたいが、軍の勝敗は俺達の関知するところではない。そもそもできないし。


 「それやったら条件として、『今年中、ただし決戦が発生した場合はそれが終了した時点でお終い』っちゅーのはどうやろ?」

 「決戦が起きなかったらどーすんだ?」

 「来年の春頃まで延長して終わりにするべきやろう。いつまでもだらだら軍におるわけにはいかんしな」


 こっちの条件としてはこんなものだろう。武具を受け取りに行くのが遅れるようなら、ペイリン爺さんに手紙を出して代金を先払いしてもらえばいい。


 「わしとしてもその案でよいと思う。もし交渉が決裂したときは、わしが頼んでやろう」


 みんなの表情が引きつる。頼もしい支援者には違いないんだが、どうにも安心できないんだよなぁ。

 ともかく、こちらの方針は決まった。今度はこれを基にしてメイジャーさんと相談してから交渉に臨むことになる。




 その日の夕方、約束通り俺達は大神殿でメイジャーさんと会った。そこでばーさんと一緒にまとめたこちらの条件を伝える。


 「そうねぇ、あなた達の立場だとそうなるのよねぇ」

 「大神殿側はこの条件を受け入れてくれるでしょうか?」


 目を閉じて考えているメイジャーさんにローラが問いかける。


 「魔王軍が1年以内に攻めてくるっていう前提なのよね。それと、勝敗にかかわらず戦闘後に抜ける……ここを突かれると辛いわね」

 「何かええ案でもあるんですか?」

 「いい案っていうより、このままじゃ教団側が条件を呑まない可能性があるから、もう少し詰めた方がいいわね」


 何となくわかるが、メイジャーさんから話を聞いてみる。


 「まず、来年の春までに魔王軍との大きな戦いがなければ戦場から抜けるっていうけど、それじゃ教団はローラに何かを与えただけで丸損っていうのが問題ね。最終的には、この場合だとローラが与えられた物を返すってことになる可能性があるわね」

 (つまり、何も働いていないと見做されるわけですか)

 「その通り。そして、負けた場合も返せって言われるかもしれないわ」

 「あれ? でも、最初の話ですとあくまでも参戦すればいいだけっていう話でしたよね? 戦いの勝敗は関係ないんじゃないですか?」


 おや、そういえば確かにそうだ。いつの間に勝敗のことを気にするようになってたんだろう。ライナス、よく気づいた。


 「そうやん! うちら4人に参加を要請してただけやん! だったら、最初のこっちの条件は『アレブさんの仕事があるから年内いっぱいまで参加』だけでええんと違うか? どうせ大規模な戦闘ってそう何回もあるわけやないんやし」

 「確かに、年2回もあるとは思えねぇよな」

 (ということは、うまくいけば参加するだけでローラに何か与えてもらえるわけか)


 実際はそんなに甘くはないだろうけど、何もこちらから条件の幅を狭める必要はないよな。


 「どうやら自分で自分を追い込んでいたようね。危ないわね」


 メイジャーさんも苦笑する。

 この後、いくつか相手の要求パターンを考えてこちらの条件をまとめ上げた。それと、交渉役はローラとメイジャーさんの2人に任せることにした。教団内の話し合いは関係者に任せることにしたのだ。


 2日後、2人は教団の関係者と話し合いの場を持った。意外と早くそんな場を持てたのは、ひとえに戦況が逼迫しているからだ。

 その結果、なんとあっさり年内のみの参加という案が受け入れられた。どうも教団側も魔王軍が年内に攻めてくると予想しているらしい。ただし、決戦と呼べるような大規模な戦闘が発生しなかった場合は、ローラに与えられたものを返すということになった。さすがにただ取りというわけにはいかないようだ。尚、戦いの勝敗については特に触れられなかった。気にしていないのか忘れているのかはわからないが、話題に上らなかったらしい。

 また、ライナス達3人はローラの護衛という形で聖騎士団へ臨時に所属することになった。ノースフォート以来、軍事行動に参加するときは何かと聖騎士団に縁があるな。

 尚、メイジャーさんは当面大神殿で働くことになったそうだ。優秀な癒し手でもあるので、本部で色々と動き回ることになっているらしい。お互いに大変である。




 ローラとメイジャーさんの臨んだ交渉が終わって数日後、ようやくローラは教団から俺達が望んだものをもらえた。

 今回、教団から提供されたのは『御手の守り』という僧衣だ。何でも100年ほど前に実在した高名な司祭が魔族討伐のときに身につけていたらしい。神様から魔族討伐の啓示を受けたときに、その高名な司祭が纏っていた僧衣に神様が加護を与えてくれたんだそうだ。

 ぱっと見は通常の司祭が身につける僧衣をいくらかアレンジしただけのように見える。多生色褪せているのは100年前の人のお古だからだろう。そういえば、メリッサといいお古ばっかりだな。


 「これが、『御手の守り』?」


 実物を目の前にしてローラが呟いた。

 今、俺達はメイジャーさんとともに応接室の1つで、その『御手の守り』という僧衣をテーブル上で広げて眺めていた。


 「それで、これはどんな効果があるんや?」

 「記録によると、闇属性はほぼ効かないそうよ」

 「他は?」

 「四大属性と無属性が効果半減らしいわよ」


 メイジャーさんが説明してくれる。説明を聞いている限りではなかなかの効果に思えるんだが、実際はどうなのか試してみないとわからない。


 「性能は、メリッサがもらった服といい勝負なんじゃねぇの?」

 「せやな。これで戦争に参加せんといかんって言われるともやもやしたもんが残るねんけど」


 所々煤けたりしているのは魔族討伐をしたときのものなんだろう。そういう意味ではある程度信用できるんだろうが、こういうものを渡してくるというところに教団の本心が推し量れる。


 「あの条件だとこれになるっていうことかな」

 「うーん、無条件で受け入れてもこれのような気がするなぁ。むしろ参戦条件をつけておまけでこれをもらえただけでもましと思うしかないんとちゃうか?」


 俺もメリッサの意見に賛成だ。これだと戦地へ行っても扱いの程度がわかろうというものである。先が思いやられるとはこのことか。


 (この僧衣って、本当にさっき言ったような効果はあるんですか?)

 「それは信用していいわよ。いずれ誰かに与えて何かさせるために保存してあるんだから」


 メイジャーさんによれば、こういった特別に加護のある物というのは、いざ使うときのためにその効果は正確に記録されているらしい。そのため、こと性能や効果に関しては信じられるということだ。


 「だったらいいわ。さっさとお勤めを果たして自由になりましょう」


 覚悟を決めたのか、ローラがいい笑顔でみんなに宣言をする。翌日からローラはこの僧衣を身につけた。

 これで不安だった交渉は終わったが、再び魔王軍と対峙する日々が始まろうとしていた。今度はどんな戦いになるんだろうか。

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