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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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冒険者ごっこ

 ロビンソンが村にやって来てからというもの、バリー達はことある毎に冒険譚を聞きにロビンソンの家に押しかけている。一方、その当人は普段は村の雑用をこなしつつ時々狩りに出かけたり、剣術の修行をしたり、そして子供に冒険譚を語ったりしていた。さすがに毎日は無理だが、3日に1度くらいは村の子供に冒険譚を語っている。

 もちろんその中にはライナスも混じっているのだが、最近、バリーのグループに新しい女の子が入ってきた。周りの子と同じように少し汚れているが、それでも随分かわいらしい。将来は美人になるだろう。


 「よし、それじゃ、ロビンソンさんのところにいくか!」

 「うん、いこ、ローラ」

 「うん!」


 その新入りの女の子ローラは、ライナスに手を引っ張られて集団の最後尾を歩いて行った。

 それにしても自然に女の子の手を引っ張るとはやるな、ライナス。俺には無理だな。やっぱイケメン候補は違うな、くっそ。

 ローラを加えたバリー達は今日もロビンソンの家のそばで冒険譚を聞いていた。最近は仕事の都合上、ロビンソンも2つか3つの冒険譚を離して切り上げることが多い。バリー達は残念がるがさすがに仕事の邪魔まではできなかった。


 ロビンソンの話を聞いているとき以外は基本的に村内で遊んでいることが多いのだが、近頃はその遊びの内容に変化が起きていた。今まではかくれんぼや虫取り、それに悪戯などだったのが、冒険者ごっこに変わったのだ。子供は周囲に影響されやすいけれど、これについては俺も気持ちはわかる。ロビンソンの話は聞いていて面白かったもんな。


 「それじゃ、きょうもぼうけんしゃごっこをするぞ! おれ、せんしな!」

 「ぼくもせんし!」

 「わたしまほうつかい!」


 というように、冒険者ごっこをするときに自分のなりたい職業を選ぶ。毎回同じ職業をみんな選ぶんだけど、たまにいつもと違う職業を選ぶ奴も出てくる。そうして、次にロビンソンの話を基にして冒険者グループを作っていくのだ。もちろん振り分け役はバリーが中心になってやる。


 「おれんところは、ライナス、トム、ローラだな。残りはジェフのところにあつまれ!」


 バリーのところは戦士2人に魔法使い2人か。ちょっと偏ってるな。一方、ジェフのグループは戦士2人に魔法使いと僧侶か。僧侶役は相変わらず人気がないな。やっぱり地味だからか。エディスン先生によると職業としては手堅くて人気があるらしいのにな。まぁ、光系統以外にも回復魔法はあるからいいけど。

 今日のライナスは魔法使いか。前回戦士役をしていて蜘蛛の巣を被ったのを嫌ったか? あれは周りの子供と同じように笑ったなぁ。


 「よし、ちゃんとわかれたな! きょうは、むらのはずれにあるもりにいく!」


 元気よくバリーが宣言する。ライナスは初めて村の外へ行くことになるな。

 畑の先にある森か。あんまり大きくはないらしいけど、安全なのか?


 (先生、勇治です。今からライナス達が村の南東にある森に行くんですけど、大丈夫なんでしょうか?)


 ライナスが1人で歩き回るようになってからというもの、エディスン先生はライナスの家に止まることが多くなった。何でも自分は一通り教えたので、後は自分で対処する術を俺に学ばせるためらしい。そのため、緊急連絡のために精神感応テレパシーで遠距離でも通話できるようあらかじめ訓練していた。距離が長くなると消費する魔力も多くなるが、今のところ村内ならば気にするほどでもない。


 (ああ、あそこですか。たまに野犬がいるようですが問題ないでしょう。何かあったら君がさりげなく対処してください)

 (さりげなく、ですか?)

 (ええ。間違いなく旅に出た後に役立ちますよ。君の本来の仕事ですから)


 確かにそうだな。となると、これは俺にとっても良い機会というわけか。


 (わかりました。やってみます)

 (森の中ですから隠れる場所は多いでしょう。それを利用するといいですよ)


 エディスン先生からちょっとした助言をもらって、俺も気合いを入れ直す。あれ、実はこれ、俺の本格的な仕事じゃないか? おお、そう思うと緊張してきた!

 そんな俺の様子を知るはずもないバリー達は楽しそうに森へ向かう。もちろんライナスも上機嫌だ。前にいるバリーや隣にいるローラと楽しくしゃべっている。

 30分ほどかけてバリー達は森の外れにまでやって来た。普段からあちこちを走り回っている子供でも、さすがにあるきづめは少しきつい。年少者の中には疲れが顔に出ている者もいた。


 「よし、ここですこしやすもう。ぼうけんしゃたるもの、つねにたいちょうをばんぜんにしておかないとな!」


 ロビンソンの受け売りを得意そうに宣言したバリーは、仲間に適当に座るよう伝えた。さすがに仲間をまとめているだけあって、友達の様子をよく見ているなぁ。


 「はぁ、つかれたね」

 「うん、ローラはだいじょうぶ?」

 「だいじょうぶだよ。やすんだらすぐなおるから」


 みんなが好きなように休んでいる中、ライナスとローラは並んで座っていた。

 端から見ているのでわかるのだが、何かと気遣ってくれているライナスにローラは懐いている。気にかけているという点ではバリーも同じなのだが、豪快というか大ざっぱな態度なのでローラの受けがいまいちだったのだ。逆にライナスは自分もバリーに振り回された経験があったので、色々とフォローしているうちにローラに好かれたようである。

 なるほど、こういう細かいフォローが大切なのか。まだ幼稚園児程度でしかないというのに末恐ろしい奴だな、ライナスは。

 それはともかく、しばらくすると疲れが取れた子供から次々と出発しようという声が上がる。それに押されるような形でバリーは森に入ることにした。


 「それじゃ、もりのなかをたんけんしようぜ!」

 「よーし、じんけいをくめ!」


 バリーの宣言を合図に、子供はそれぞれに与えられた役割に沿って隊形らしきものを組む。戦士役が前衛で魔法使い役と僧侶役が後衛だ。その隊形のまま2組のパーティは並列して森の中に入ってゆく。

 各パーティの戦士役は右手に木の棒、左手に壊れた鍋ぶたや木の板を持って慎重に前へと進む。剣と盾を持っているつもりだ。一方、魔法使い役や僧侶役は長めの棒を持っている。棒使い、ではなくて杖のつもりである。ロビンソンが見ていたらほほえましいと思うことだろう。

 森の中は意外と閑散としていた。もっと鬱蒼としていると思っていたが、これならどちらかというと雑木林と言った方が正しいな。割と視界がいいので不意打ちを食らう可能性が低いというのは嬉しい。


 「みんな、まわりにきをつけろよ!」

 「うん!」

 「わかってる!」


 もう1組のパーティをまとめているジェフが仲間に注意すると、元気な反応が返ってきた。

 俺はライナスの少し上から子供の周囲を警戒した。まずは捜索サーチを使って周囲に危険がないかを確認する。条件設定は小型動物以上だ。特に野犬や猪などを警戒した。魔法を使った結果、半径200アーテム以内にはこれといった危険はなさそうだった。まぁ、しばらくは放っておいてもいいだろう。

 しかし、これは見ていてなかなか楽しいなぁ。俺はみんなの後方上空から見下ろしているので、ちょっとしたRPGやシミュレーションゲームを眺めているみたいな気分になる。


 「ぜんぽうにおおきないわをはっけん!」

 「どかしてみようぜ!」


 森の中に初めて入ったという興奮と8人もいるので気が大きくなったバリー達は、手当たり次第に岩をひっくり返したり木を叩いたりしていた。これだけ騒ぐと野生の動物を呼び寄せてしまいそうに思えて俺は不安になる。だから何度か捜索サーチをかけて周囲を警戒していたが、幸い近寄ってくる危険な動物はいなかった。


 (ライナス、聞こえるか?)


 遊びに夢中のバリー達は、どのくらい時間が経過しているのかを全く気にしていなかった。森の上空へ一旦出て日の傾きを確認した俺は、そろそろ帰った方がいいだろうと判断し、こっそりとライナスに呼びかける。

 一瞬びくっとしたライナスではあったが、後衛の魔法使い役だったおかげで誰にもその様子を見られることはなかった。


 (え、ユージ? どうしたの?)

 (もうそろそろ帰った方がいいぞ。日が大きく傾き始めてる)

 (そうなんだ。わかった)


 夢などで頻繁に会っている俺とライナスにとって、こうやって精神感応テレパシーで会話をすることは当たり前のことになっていた。だから、ライナスも俺の注意を素直に受け入れてくれるようになっている。うん、日頃からの信頼関係はやっぱり重要だな。


 「ねぇ、バリー、そろそろくらくなってきてないかな?」

 「え?」


 夢中で遊んでいたバリーは、突然ライナスに声をかけられて少し驚いた。しかし、その言っていることを理解すると周囲を見渡す。

 森の中は日差しが枝葉に遮られて暗くなる。それ程密度の高くないこの森でも程度の差はあれそれは変わりない。そして、本格的に暗くなり始めると一気に夜のとばりが降りてくる。

 父親である村長からそのことを聞いたことがあるバリーは、先程よりも若干暗くなり始めている森の様子に気づいた。


 「よし、それじゃくらくなるまえに、いちどむらへてったいするぞ!」

 「え、もうかえるのか?」

 「もりはきゅうにくらくなるからあぶないんだ。ぼうけんしゃのじょうしきだぞ」


 父親の受け売りを偉そうに伝えたバリーは、渋る仲間を促して村の方へ歩き出した。変な方向に歩き出したら誘導しようかと思っていたが、思っていたよりも方向感覚はしっかりしているらしい。

 こうして20分ほどかけて、バリー達は森の端まで戻ってきた。空を見上げると、赤く染まり始めている。時間としては結構ぎりぎりっぽかったな。今度はもっと早めに注意するとしよう。


 「それじゃ、すこしやすんでからむらにもどろう」


 バリーは全員が揃っているのを確認して休憩するように促す。

 それから約1時間後、8人は無事村へ戻る。こうしてライナスにとって初めての村外への冒険は終わった。




 「はぁ、やっと終わった」


 ライナスが家に帰ってくると、俺も自動的に家の近くまでやって来ていた。別に自分の家というわけではないのだが、ここにはエディスン先生もいるので、何かあったときに心強いのだ。

 今回初めてライナスが森の外へと行くことになったので緊張したが、何もなくてよかった。子供を預かる幼稚園の先生の気分はこんな感じなんだろうか。


 「おや、随分と疲れているようですね」

 「ええ。結果的に何もなかったんで単なる気疲れで済んでますけどね」

 「どうです、良い経験になったでしょう」


 少なくともライナスを初めて本格的に護衛したのだ。間違いなく重要な経験には違いない。エディスン先生からしたら大したことはないんだろうけどね。


 「具体的に護衛をするということについてわかったことは大きいですね。何かあったらと思うと、あんな遊びでも緊張します」


 子供の様子を見て面白がっていたことは間違いないが、それは危険がないと明確に判断できたからだ。そうでなければあそこまで余裕をかましてはいられない。


 「それが理解できたことは良いことですね。ちなみに、具体的にはどのようなことをしていたんですか?」

 「森に入った直後に捜索サーチをかけて危険な動物が近くにいないか確認した後、子供の後方上空から見守ってました。子供が騒がしかったんで危険な動物を呼び寄せてないか不安でしたが、たまに捜索サーチをかけて周囲の状況は見ていましたよ」

 「ほう、悪くないですね。詳しい護衛の仕方などはいずれ教えますが、今はその調子でお願いします」


 とりあえず及第点ということか。慎重にやって正解というわけだ。幸先がいいねぇ。


 「それと、気づいていないようですので言っておきますが、君、移動範囲が広がってますよ」

 「え?」

 「目測ですが、ライナス君を中心とした半径30アーテムくらいに移動範囲が広がってます」


 驚いた俺は本当にそうなのか今すぐ試してみた。現在はライナスの家の隣にいるが、大体20アーテムがどの辺りなのかは以前試したので知っている。そこでひたすらまっすぐ移動してみると、驚いたことに以前の境界線を軽く突破した。


 「あれ?!」


 うお、ほんとだ!

 俺は驚きつつも更に進んでみると、確かにエディスン先生の言うとおり、大体30アーテムくらいのところで止まった。


 「でもどうして行動範囲が広がったんだ?」


 俺は特に何かしたわけじゃないし、ライナスも何かしたようには見えない。これは一体何だろうか。


 「仲良くなったから?」

 「案外そうかもしれませんね。はっきりとはわかりませんが、信頼関係を築いておくというのは思った以上に重要なのかもしれません」


 マジか! こりゃうかつに喧嘩なんてできないな!

 ともかく、意外な事実が判明したことで、俺はますますライナスと仲良くならないといけないことになった。

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