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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
13章 武具を求めて

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受け継がれる衣服

 秋にもかかわらず暖かいのはいいが、さすがに金属や薬品の混じった独特な臭いは辛かったらしい。ライナス達はグビッシュ氏に真銀ミスリルと『精霊の水』を渡して武具の作製を依頼すると、すぐにロックホールを出発した。昼頃に街を出たので野宿は確定することになったが、まだ寒い方がいいという判断らしい。

 暦上は11月に入ったばかりなので秋真っ盛りであるが、ここは山の中だ。雪こそ降らないものの寒風吹きすさぶ厳しい環境には違いない。そんな中を2週間かけて下山してゆく。登りよりも1週間近く早い。

 ダルドの街に着くと一行はようやく気を緩めることができた。寒いことには違いないが、山ほど天候は変わらないので安心できるのだ。ここから先はいつもと同じ旅路である。3週間かけてレサシガムに戻ってきたときは12月になっていた。

 早速ペイリン邸へと向かう。


 「おお~! 麗しの我が実家や!」


 大きな屋敷を目の前に、メリッサは両手をいっぱいに広げて喜びを表現した。以前聞いたことのある感想だ。


 「おおぉぉぉ! メリッサぁ! よう帰ってきたなぁ! 無事で何よりやぁ!」


 邸内でペイリン爺さんが派手にメリッサを出迎える。そして熱烈な抱擁をしようとするが、メリッサは避けた。お、前とは違う展開か。


 「なんで避けるんや?!」

 「暑苦しいわ!」


 いつも通り仲が良さそうで何よりである。

 そうやって孫との会話を楽しみながら、ペイリン爺さんは俺達を応接室へと案内した。前とは違って今回は先に仕事の話を片付けるようだ。


 「よう戻ってきた。ホルストには会えたか?」

 「うん、ちゃんと真銀ミスリルと『精霊の水』を渡してライナスとバリーの武具を作ってもらう約束してきたで」

 「それと、私とメリッサの防具も作ってもらえそうなんです」

 「ほう、あの量でそんだけ作れるんか。やるな、あいつ」


 この報告は意外だったらしく、じーさんは顎に手を当てながら軽く驚いた。ローラとメリッサの分は期待できないと思ったからこそ、メイジャーさんなどに協力を仰ぐことにしたんだからな。嬉しい誤算といえる。


 「ただ、全部が完成するのは1年後だそうなんで、しばらくはこのままです」

 「あー、2人分の武器に4人分の防具やからな。それくらいかかるか」

 「それまで武者修行してようぜ!」


 バリーとしては念願の武器が手に入るということでずっと機嫌がいい。今まで以上に旅中でも訓練をしていたもんな。


 「他には何かあったんか?」

 「えーっと……あ、そうや! ドワーフ山脈で冒険者に襲われたんやった!」

 「なんやと? どういうことや?」


 じーさんは表情を真剣なものに変えてメリッサを問いただす。

 そこで主にメリッサとライナスが山中で会った襲撃についてじーさんに説明をした。特に、襲撃者が貴族とつながりがありそうなことや、真銀ミスリルを手に入れていることが知られていたことを丁寧に話す。


 「話がどっかから漏れとるんか。そりゃまずいな」

 「何か対策できればいいんですけれど……」

 「相手が見えんことには手の打ちようがないわ」


 もっともである。だからこそ漠然とした不安を抱えているわけだが。


 「こうなると、赤の他人で近づいてくる奴は全部疑わしく思えてしまうわな。更にいうと闇討ちも警戒せんといかん」


 盗賊の襲撃に見せかけて殺しにかかってくることだってあり得るわけだ。面倒なことになったな。


 「でも、俺達の顔を知ってる奴なんてそういないはずなのに、どうしてすぐわかったんだろう?」

 「私が比較的有名だからでしょうね。前にも言ったけど、外で救済活動もよくやってたし、王都とノースフォートとレサシガムだと私の顔を知っている人は割といるはずよ」

 「レサシガム限定ならうちも面は割れとるなぁ」

 「だったら、俺とライナスはノースフォートとイーストフォートが危ねぇな」


 こうして思い返してみると、意外にライナス達は有名人なのかもしれない。


 「まぁ、知らん奴には注意するしかないな」

 (夜襲なんかは俺が見張っていたらある程度はどうにかなるだろう)


 基本的に24時間営業だしな。少しは休みがほしい。

 ともかく、見えない相手は今のところどうにもならない。その相手が貴族となると更に厄介だ。当面は目立たないように気をつけるとしよう。


 「そうや、メリッサ。お前のために新しい旅の服を用意したで」

 「え、ほんまに? どんなやつなん?」


 ロックホールに行く前に用意しておくって言ってたっけ。あれから3ヵ月も経っているから用意ができていてもおかしくないか。


 「わしが現役の頃に着ていた服を仕立て直したんや。なかなか苦労したで」


 呼び鈴でメイドを呼びつけながらじーさんはメリッサに説明をする。拳で語る魔法使いの身につけていた服っていうのが微妙に不安だな。どんな服なんだろう。


 「みんなも聞いていると思うけど、わしは現役のときは魔法使いとしてだけでなく、前衛で戦士と肩を並べて敵と殴り合っとった」


 もうこの時点で既におかしいが、今更なので誰も突っ込まない。一緒にパーティを組んでいた仲間はどんな人だったのか気になるが。


 「だから、魔法に対する耐性だけでなく、武器の攻撃にも備える必要があった。そのための服があれや」


 1人のメイドが応接室に入ってきて1つの包みをテーブルの上に置く。その包みを開けるといつもの旅装とほとんど変わらない服が現れた。


 「おじーちゃん、見た目はうちが今着てる旅装と変わらへんみたいやけど……」

 「見た目は変わらんよ。あくまでも冒険者として活動するためのものやから、そんなキンキラキンの服を着るわけにはいかんやろ。でも、丈夫で上質な糸を精霊の水に漬けながら魔法で加工処理をし、その糸を使って作った生地を使つこうてるさかい、大抵の武器は通さん。まぁ、武器が当たったときの衝撃はいくらか通るけど、それは体を鍛えて耐えるしかないわ」


 つまり、戦士系の攻撃はある程度防いでくれるってことか。隙を突かれてメリッサを攻撃されることもあるだろうから、これは心強い。


 「魔法の攻撃はどうなん?」

 「四大属性の魔法はその効果を半分くらいまで抑えてくれる。闇属性と光属性なら4分の1くらいやったかな。ただし、無属性は効果がなかったわ。なんでこんなふうになるのかまではわからんけどな」


 じーさんの語り口だと実際に試したようだな。現実は前衛で戦っている最中に喰らってしまったっていうのが正解の気はするが。


 「闇属性の効果が4分の1になるのは重要よね。魔王が魔法を使うとしたら闇属性でしょうし」

 「せやな。うちがみんなの盾になったるわ!」


 メリッサは上機嫌にじーさんが用意してくれた旅装を胸に抱いた。


 「そうそう、以前ローラの服をどうにかするようメイジャーに手紙を出しとったけど、その返事が数日前に届いたで」

 「なんて書いてあったんでしょうか?」

 「ノースフォートまで来てほしいとあった。そんで、そこから一緒に王都まで行くらしいで?」


 王都? ローラ用の服は王都にあるのか?


 「確かに、王都の大神殿の方がありそうな気はしますけど……」

 「どうせ俺達の武具ができるまで1年かかるんだから、行ってもいいんじゃねぇの?」


 バリーの言う通りなんだが、この場合気にしているのは期間じゃないんだよな。


 「それ以上のことは書いとらんかったから、後は実際にデリアと会うしかないな」

 「わかりました。それではこの後ノースフォートに向かいますね」


 どうなっているのかわからないが、行くという選択肢しかないので素直に従っておくことにした。


 お互い必要なことを話し終えた頃には、すっかり日が暮れていた。昼以来何も食べていないライナス達は空腹だ。


 「よっしゃ、話はこれでしまいや。今から飯を食おか!」


 ペイリン爺さんは勢いよく立つとそう宣言した。特にバリーが嬉しそうだ。

 食堂にいどうしたライナス達は前回と同じように席へと座る。そして次々と運ばれてくる料理に目を見開いた。

 料理が全て並ぶと早速じーさんはみんなに勧める。それを合図にバリーをはじめ全員が料理に手を出した。テーブルには、豚の丸焼き、ハム、ソーセージ、チーズ、卵焼き、パン、各種果物や野菜などが置かれていた。

 みんなお腹がすいていたのか食べっぷりがいい。ライナスは豚、ソーセージ、卵焼き、パンを中心に食べている。ローラはハム、卵焼き、パン、果物に野菜だ。メリッサはそこに豚が入る。そしてバリーはチーズと一緒にどれも食べていた。さすがに果物とチーズはどうかと思うんだが、美味しいのだろうか。

 くそう、いいなぁ、みんなうまそうに食ってやがる。


 「それにしても、メリッサが複合魔法と無詠唱を使えるようになってるとは、おじーちゃん嬉しいで!」


 さっきの襲撃の話のときにメリッサが話したことを、じーさんが嬉しそうに繰り返して褒める。孫の成長は嬉しいだろう。


 「やっぱり競い合う仲間がいると違うわ。うちも無詠唱で魔法が使えるようになるとは思ってへんかったもん」


 最初は全くできなかったんだよな。どうせならみんなで練習しようって始めたら、一番熱心に練習していたのを覚えている。


 「ローラちゃんも使えるんやったな?」

 「無詠唱はもうあまり失敗しなくなりましたけど、複合魔法はまだ2回に1回くらいしか成功しないんですよね」


 意外にもローラは複合魔法の出来が悪い。不思議に思っていたが、一般的にはこれでも優秀な方らしい。逆に光と水の魔法は単体で使うと非常に凄い。水の魔法に関してはメリッサ以上である。ローラはこの2つに特化した才能なんだろう。


 (ライナスなんかは完全に複合魔法は駄目なんだよな)

 「無詠唱では使えるようになったんだけどなぁ」


 ローラとは別の意味で特化しているのがライナスだ。こちらは複合魔法が使えない。戦士として剣に集中するせいなのかはわからないが、いくらやっても使えるようにならなかった。今では諦めて練習もしていない。


 「そうか。ドワーフ山脈で襲われたときのことを聞いてて気になっとったけど、みんなそれぞれ特徴のある覚え方しとるんやなぁ」

 「ちなみに、おじーちゃんはどうやの?」

 「わしか? わしはローラちゃんとライナスの中間くらいや。複合魔法は使えるけど、絶対に成功させられるわけやないな。無詠唱はいくらでもできるけど」


 聞いた瞬間、前衛で殴ってるからだろうと思ったのは俺だけではないはずだ。そして、身体を強化する魔法にやたらと強いんじゃないだろうか。


 「けど、じーさん。素手で殴ってたら拳を痛めねぇか?」

 「もちろん魔法で強化しとるで? 喧嘩ならいざしらず、仕事先の戦闘で素手はないわ」


 そりゃそうだな。そんなことをしてまで殴りたい理由がわからないが。


 (せめて武器を使うっていう気にはならなかったんですか?)

 「重いもんは持てへんねん」


 その理屈はおかしい。どうして魔物さえも殴り倒せるのに武器が持てないんだよ。実は何か呪いでもかかってるんじゃないのか?

 こうして楽しい晩餐は過ぎていった。気になることはいくつかあるが、たまには休息が必要だろう。

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