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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
13章 武具を求めて

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山中での襲撃

 道中の殺風景な場所でライナス達は休憩している。ライナスとバリーはそれ程でもないが、ローラとメリッサは疲れているようだ。もうしばらく休んだ方がいいだろう。

 しかし、俺は当初からこの風景に違和感があった。その正体が何かわからなくてかなりもどかしい。どうやって調べようか。


 (うーん、捜索サーチをかけるか)


 魔物と獣という漠然とした条件で周囲を調べて見る。だが、何も引っかからない。元々安全だと聞いていたからある意味当然の結果だ。


 「ユージ、何を調べてるんだ?」

 (何か違和感があるから怪しいものがないか捜索サーチをかけてるんだ)


 俺の呟きに反応したライナスが声をかけてくる。一応思ったことを返答してみたがぴんとこないようだ。


 「なんや、ユージは心配性やな。こんな見晴らしのいいところで奇襲なんて喰らわんって。ほれ、うちも捜索サーチかけてみたけど、山賊も盗賊もおらへんで」

 「でも油断しないで見張ってくれてるんだからいいでしょ」


 メリッサを窘めるローラであったが、その声には緊張感はまるでない。しかし、メリッサが捜索サーチをかけてみても見つからないのか。それじゃたぶんいないんだろう。


 (まぁいいや。最後に人間でかけておこう)


 軽い気持ちで捜索サーチをかけてみる。これが終わったら魔法の練習でも……


 (あれ、誰かいる?!)


 距離50アーテムで裏手に4人?! なんで?!


 (おい、後ろ50アーテム先に人間が4人いるぞ!)


 ライナス達に伝えながら俺は再度裏手の台地の端を確認する。一見すると何も見えないが、わずかに地面の石が動くのが見えた。そうか、違和感ってあの足跡っぽい跡を見て感じてたんだ。

 俺の声に反応した4人が弾かれて立ち、俺の伝えた方角を正面に隊形を整える。


 「ユージ、見えねぇぞ?!」


 ああ、これは魔族と戦ったときと同じだな。あのときは俺が隠れていたが、今度は相手が隠れている。それならば、あのときの魔族と同じ対処をすればいい。


 (あいつら隠蔽ハイディングで隠れてるんだ。俺が解除をするからメリッサとライナスは魔法で攻撃、ローラは防御魔法だ)


 そうして俺は魔力分解マナディコンポジションを発動した。最近はもう無詠唱でも失敗することはないので自信を持って使える。

 すると、予想通りの位置に4人組の人間の姿が現れた。


 「あれ、あいつらギルドで絡んできた奴じゃねぇか!」


 名前は聞いていなかったので知らないが、前衛に双子の戦士が武器を手にしており、後衛には女僧侶と中年魔法使いがいる。


 「なに?! 俺の魔法が見破られただと?!」


 余程自分の魔法に自信があったのか、隠蔽ハイディングを解除されて中年の魔法使いが狼狽している。他の3人もまさかの事態だったらしく動揺していた。

 しかし動揺していたのはライナス達も同じだった。まさかレサシガムで絡んできた相手だったとは思っていなかったからだ。これはまずい。


 (みんな、ぼさっとしてないで動け!)


 俺の言葉に我に返ったライナス達はすぐに動いた。距離は50アーテム弱、対人戦の距離としては遠い。


 「炎嵐ファイアストーム


 メリッサが魔法名を唱えた瞬間、敵対者4人がいる場所一帯に炎が乱舞する嵐が発生した。風刃ウィンドウカッターの範囲攻撃版である嵐刃ストームカッターと火の魔法を掛け合わせた複合魔法だ。鎌鼬かまいたちで切り刻まれながら火で炙られるというなかなか嫌な魔法である。

 さすがに魔法使いと名乗っているだけあって俺より上手に魔法を使えるんだよな。きれいな形をした炎嵐ファイアストームだ。

 とはいっても、自動追尾してくれるような便利機能はないので、その場を離れてしまえば難は逃れられる。例の4人は炎嵐ファイアストームの範囲から脱出するために四方へと散った。これで隊形は完全に崩れたな。


 「ひぅ、なによこれ!」

 「馬鹿な、無詠唱で複合魔法を使っただと?!」


 いきなりの大技に相手の後衛は驚いているようだ。魔法についての素養があるからだろう。逆に双子の戦士は全身の負傷に顔をゆがめながらこちらを睨むだけだ。単なる魔法攻撃としてしか認識していないんだろう。うちのバリーと一緒だ。


 「火球ファイアボール


 次はライナスが魔法を仕掛けた。てっきり前衛の双子にと思っていたら後方の魔法使いにである。後で聞いたら、遠距離戦だと魔法の使い手の方が厄介だからという理由だった。さすがだ、俺も習ったはずなんだがすっかり忘れてたよ。


 「ああぁぁぁ!!」


 炎嵐ファイアストームの負傷に気をとられていた相手の魔法使いは、ライナスの火球ファイアボールを避けきることができなかった。左腕に直撃し、その勢いで地面に転がる。あれはかなり痛そう。今まで大半が魔物や獣相手ばっかりだったから、こういうのを見ると結構精神的にくるな。


 「フロスト


 今度はローラが魔法を使う。あれ、守れって言ったはずなんだけどな。こっちは攻撃を受けないって判断したのか。

 対象者は女僧侶のようだ。彼女の周囲だけ空気が白っぽくなったかと思うと、地面が霜で急速に覆われる。


 「ひぃぁ……さ、さむ!」


 女僧侶は両手を抱えて震える。

 ただ単に冷やしただけと侮ってはいけない。常温だったところを急速冷凍されたのだからたまらない。衣服や体の表面についている水や汗が凍って対象者の熱を奪うのだ。放っておくと凍傷になる。

 特に今の女僧侶は炎嵐ファイアストームで負った火傷や切り傷があちこちにあるので、その苦痛は更に酷い。

 何とか魔法の範囲外に抜け出したものの、呪文を唱えることができないでいる。寒さのあまり歯がかみ合わないらしい。


 「いくぜ!」


 魔法攻撃が一段落ついたところでバリーが相手の双子の戦士に向かって走り出す。

 この時点で、相手は既にほとんど戦える状態ではなかった。魔法使いは左腕の痛みに苦しみ、女僧侶は火傷と寒さに耐えるので精一杯だ。双子の戦士が一番傷が浅いものの、メリッサの炎嵐ファイアストームを受けて無事なはずがない。

 バリーに続いてライナスも走り出す。これで相手の前衛は押さえ込めるので、後衛のあの2人をどうにかしないといけない。


 (捕まえよう。どうして襲ったのか聞きたい)


 レサシガムの冒険者ギルドで口論をしたとはいえ、こんな山の中で待ち伏せして奇襲されるほど恨むなんて普通はない。そうなると、何か必ず理由があるはずだ。

 そう考えて拘束しようとしたが、ふと相手の魔法使いを見ると、何やら細長い筒みたいなのを取り出して口に当てて呷った。なんだあれ?


 「まさか、回復薬ポーションなんか?」


 メリッサの呟きは正解だったようだ。酷く焼けただれていた左腕がみるみる正常な状態に戻ってゆく。いや、左腕だけじゃなくて顔の傷もだ。


 (あれって体力回復薬ライフポーションなのか。初めて見たぞ)

 「うちもや。大した効き目やな」


 暢気に感心している場合じゃない。これで相手の魔法使いの無力化に失敗してしまった。


 「それならもう1回燃やしてやったらええわ。炎竜巻ファイアトルネード


 範囲攻撃魔法だった炎嵐ファイアストームに対して、同じ火と風の複合魔法でも今度は魔法使い単独狙いだ。その分威力も強いんだが……いや待て、捕まえるんだった。


 (メリッサ待って! 捕まえるんだぞ?!)

 「え?」


 やっぱり忘れてたようだ。

 メリッサの発動させた炎竜巻ファイアトルネードは相手の魔法使いを包み込む。それと同時に断末魔が聞こえてしまった。

 俺の制止する声を聞いてすぐに魔法を消してくれたが、どうも遅かったようだ。全身に火傷と裂傷を負ってぴくりとも動かない。


 「ごめん、ユージ」

 (まぁ、やってしまったものは仕方ない)


 あの4人の中では最も事情を知っていそうだったから話をしたかったんだけどなぁ。女僧侶はどこまで知ってるんだろう。

 一方、女僧侶の方はまだまともに動けないようだ。あと、仲間の魔法使いが魔法で殺されたのを見て酷く怯えている。

 俺はそんな女僧侶に拘束バインディングをかけた。


 (ローラ、ライナスとバリーの戦闘が終わったら、あの女僧侶に傷を癒やしてくれ)

 「わかったわ。事情を聞くのよね」


 俺達が話をしている間にも、ライナスとバリーの戦いは決着がつきそうだった。

 ライナスは長剣ロングソードで相手の剣を封じ込めると、次に魔法で攻撃を仕掛けるという戦い方をしていた。無詠唱で魔法を使えるようになってから確立した戦い方だ。これでライナスは安定して戦うことができるようになった。大半の戦士は魔法なんて使うことができない上に、ライナスは剣での戦いに集中しながらいきなり魔法を使えるので、これは反則と言っていいくらい有利な点だ。

 相対している双子の戦士はみるみる劣勢に追い込まれ、魔法攻撃に怯んだところを長剣ロングソードで喉を切り裂かれて死亡した。

 一方、バリーは戦士としての技量と槍斧ハルバードの重量で相手を圧倒していた。ロビンソンの話では、一般の冒険者は10歳くらいから剣技を囓り始めるそうだから、5歳くらいからきちんと戦士としての修行を積んでいたバリーの力量は相当なものである。それと、武器である槍斧ハルバードも厄介だ。重くて長いので取り扱うのが大変だが、逆に扱えるようになると凶悪な武器になる。生半可な技量と武器ではバリーの攻撃を受けられないし、武器の長さが足りないとバリーに刃を当てることすらできない。

 今の双子の片割れがそうだった。数合刃を交えてその差を理解した彼は絶望で顔を染めるが、逃げることも叶わずバリーに真っ二つにされてしまった。


 危うく奇襲を受けそうだった俺達だが、何とかそんな事態を回避して相手を返り討ちにできた。相手は魔法使いと双子の戦士が死亡し、女僧侶だけが生き残っている。

 その女僧侶だが、こうまで一方的にやられるとは思っていなかったらしく、無傷で切り抜けたライナス達──特に全身返り血を浴びているバリー──に怯えていた。


 「お願い、殺さないで。死にたくない……」


 あのレサシガムの冒険者ギルドでの勢いは全くない。ここまで圧倒的な力の差を見せつけられた元気もなくなるだろう。

 拘束バインディングで動けない状態ではあったものの、ローラが傷を癒やしたので今すぐ死ぬことはない。

 また気を持ち直して強く当たられると話を聞けないので、心神喪失している今の間に尋問することにした。

 それによると、女僧侶はメグといい、双子の戦士と共に2年前王都で魔法使いのスタッフマンに雇われたらしい。スタッフマンはどこかの貴族と繋がっているらしく、金を持っているそうだ。そして、たまにあるスタッフマンから回された仕事をしつつ与えられた金で好き放題していたそうである。

 今回の仕事はレサシガムでライナス一行を観察し、可能なら襲撃して亡き者にしてしまうということだった。メグがローラに絡んだのはどの程度のパーティなのかを探るためらしい。そして口だけで大したことはないと判断して、ここで襲ったそうだ。


 「わざわざこんな山まで来なくても、王国内で襲えなかったの?」

 「盗賊でもないのに冒険者を街道で襲ってるのを見られたら、あたしらがお尋ね者になるじゃない。だから、人目につかないここを選んだのよ。それに、あんた達が持ってる真銀ミスリルを奪って、ダルドの街で引き渡すはずだったから」

 「どうして俺達が真銀ミスリルを持ってるって知ってるんだ?」

 「スタッフマンが言ってたのよ」


 一体誰がそんなことを漏らしたんだ。これはかなりまずいな。

 それ以外にも色々と聞いてみたが、それ以上のことはわからなかった。完全に使い捨て要員だな。

 それと、魔法使いの名前が杖男スタッフマンなんてまるっきり偽名だな。だから運良く雇い主にたどり着いても知らぬ存ぜぬで押し通されるんだろう。スパイ映画みたいだ。

 他にも、最初は魔王討伐隊なのかとも思ったが、話を聞いている限りはそうではないようだ。別の魔王討伐隊のパーティを襲ったことがあるのか聞いてみたがないらしい。


 最終的に女僧侶のメグは次の村で駐在しているドワーフの警備員に引き渡した。ダルドの街で強奪した真銀ミスリルを受け取る要員を捕まえることも考えたが、スタッフマンしかその要員との会い方や合い言葉がわからないということで断念した。

 それよりも、他の人や組織にも知られている可能性があるということの方が心配だ。これからも狙われるのかと思うと気が重い。まさか足の引っ張り合いに巻き込まれるとは思わなかった。

 これからは出会う人間にも注意しないといけないのか。これから面倒なことになりそうだ。

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