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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
13章 武具を求めて

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おじーちゃんにお願い

 ローラとメリッサについては、とりあえず身を守るためのものをペイリン爺さんとメイジャーさんに調達してもらうということで落ち着いた。かつて戦場で戦った魔族や四天王のことを思い出すと、後どれだけ準備すれば魔王を倒せるのかさっぱりわからないが、できることは可能な限りやっておきたい。


 「さて、次はみんながわしのところに送ってきた真銀ミスリルについてじゃな」


 3ヶ月前にラレニムから発送したやつのことだ。途中で何もなければきちんと届いているはず。


 「ちゃんと届いてるやんな?」

 「ああ。結構な量があって驚いたで。それで、勝手ながらこっちで精錬しておいた」


 精錬といえば、純度を高めて必要な物質にする作業のことだったよな。どのくらいになったんだろう。


 「それで、どのくらいの真銀ミスリルがあるんですか?」


 ライナスだけでなく、それは全員が気にしているところだ。何しろその量によっては、これから作ってもらう武具に大きく影響する。少しでもたくさん欲しい。


 「全部で64マーゴリクあった。一介の冒険者パーティが集めたにしては破格の量じゃな」

 (褒められて悪い気はしないけど、こっちとしてはどのくらいの武具が作れるのかが気になりますね)


 俺はみんなの気持ちを代弁して質問する。ただ、じーさんからは当たり前の反応しか返ってこなかった。


 「それはみんながどんな武具を必要としているかによるやろ。鍛冶屋と相談するしかないで」


 そりゃそうだな。魔法使いに聞くようなことじゃなかった。


 「それで、みんなは武具を作ってもらうドワーフに当てがあるんか?」

 「そんなんドワーフの街に行って鍛冶屋で頼んだらええんと違うんか?」

 「苦労して集めた真銀ミスリルを腕もわからん奴に託すのはまずいやろ」


 確かにそうだ。人間の鍛冶師に頼むときだって腕の良し悪しを見ようとするんだから、ドワーフだってしっかりと見極めないといけないよな。ドワーフの鍛冶師としての腕は人間よりも良いという通説を鵜呑みにして何も考えていなかった。


 「確かにどうせなら腕の良い鍛冶師に頼みたいですよね」

 「そうだよな!」

 「なぁ、おじーちゃんはなんか当てでもあるんか?」

 「当てか。うーん、あるってゆーたらあるんやけど……」


 珍しくじーさんの歯切れが悪い。そんなに紹介しにくいドワーフなんだろうか。


 「何の伝手もない私達がそのままいくよりも、ゲイブリエルさんの紹介があった方がいいと思います。ですから、教えてもらえませんか?」

 「まぁ、せやなぁ。よっしゃ、1つ紹介状を書いたるわ。ただし、腕は確かなんやけどかなり頑固な奴やからな。気ぃつけや」


 ローラからもお願いされてじーさんはようやく決心をする。頑固親父みたいな感じなんだろうか。人間を見た瞬間、「帰れ!」なんて言ったりするのかもしれん。


 「おじーちゃん、その紹介してくれる人、やないな、ドワーフっちゅーのはどういう人なんや?」


 結局人って言ってるがそれはいいだろう。ともかく、どう頑固なのかということを知っておきたい。特にこれを言ったら喧嘩になるっていうようなことをだ。


 「名前はホルスト・グビッシュっていうんや。ドワーフっちゅーたらずんぐりむっくりの樽型で背が低いやろ。大体わしの腹くらいまでしか普通はないんやけど、そいつは肩くらいまである」

 「ほとんど人間と変わんねぇな」


 ドワーフにしたらかなり大きいぞ。人間よりも筋力が優れているから、それだけの体格があるなら腕力も相当なものだろう。


 「それでな、自分の腕に絶対の自信を持ってるのはええんやけど、仕事で妥協を一切せんのや。そやからやたらと時間がかかる。急ぎの仕事は絶対に任せられん」

 「俺達の場合はそんなに急いでいるわけじゃないから、困ることはないと思いますけど……」

 「更に、人の意見を聞こうとせん。それで何度殴り合ったことか」


 だからなんで魔法使いが殴り合うんだ。しかも規格外のドワーフと。大体魔法使いが鍛冶師に何の用があるというのか。


 「ゲイブリエルさんは、グビッシュさんに何か作ってもらったことがあるんですか?」

 「あいつはドワーフの中でも手先が器用な方でな、指輪や首飾りなんかの装飾品も色々作ってもらってんねん。それで意見を交わすと大抵喧嘩になるんや」


 どうも今でも交流があるようだ。しかしそれだけ喧嘩をしているとなると、じーさんの紹介で素直に引き受けてくれるかが逆に心配になる。


 「ともかく、わしが紹介状を書いたらまず引き受けるやろう」


 引き受けてくれることは確かなのか。


 (そうだ、これを言ったら激怒する、っていうような言葉ってありますか?)

 「あー、仕事のやり方にけちをつけたらまずあかんな」


 別におかしなことはないな。怒る理由としては真っ当だと思う。


 「けど、できた物を手直ししろってゆーたら大抵は怒るんやけどな」


 めんどくさいな。頑固っていうよりも偏屈な気がしてきたぞ。

 でも、事前にどんな性格のドワーフなのかわかったのは大きい。あとは実際に対面してみるしかないだろう。


 (ありがとうございます)

 「これくらいなら別にかまへん。それよりも、真銀ミスリルをどうやって持っていくつもりなんや?」


 じーさんは俺達に質問を返す。それを聞いて60マーゴリク以上もある金属を運ばないといけないことを思いだした。


 「1人頭16マーゴリクか。俺とバリーなら問題ないけど、特にメリッサは難しいか?」

 「街道沿いやったら街や村ごとに宿を取れるさかい、水と保存食を削ったら何とかなるんと違うか?」

 「メリッサ、ドワーフ山脈に入ると基本的に野宿中心やで。しかも斜面を登ることになるっちゅーことを忘れとるやろ」


 ライナスとメリッサの会話にじーさんが割って入った。


 (ドワーフ山脈って言うくらいだから、てっきり山全体にドワーフが住んでるものだとばかり思ってたけど、違うんですか?)

 「山脈全体に点在する村に住んでるっちゅー意味やったら正しいな。ドワーフはロックホールっちゅードワーフの都市に多くが住んどる。そして、そのロックホールまでの道沿いに村はあるけど、数日に1つくらいしかないで」


 じーさんは苦笑しながら俺の質問に答えてくれた。道があるとはいえ、竜の山脈に続いてまた山登りか。ライナス達が嫌そうな顔をする。


 「紹介してくれる鍛冶師ってのは、ロックホールに住んでるんすか?」

 「そうや。あとで地図を描いたるわ」


 これで鍛冶師の居場所については解決したわけだ。


 「話が少し逸れたわね。それはそれでいいとして、真銀ミスリルをどうやって運ぶのかっていうことを考えないといけないのよね」

 「また荷車を使った方がいいのかなぁ」

 「でも64マーゴリクだろ? これだけのために荷車を使うってのも大げさすぎねぇか?」


 竜の山脈で荷車を使ったのは、どのくらい真銀ミスリルの鉱石を取れるかわからなかったからだ。今回は増えも減りもしないからバリーはそう主張している。


 「なら、配分を変えようか。俺とバリーは20ずつ、ローラは16、メリッサは8っていうのはどうだろう?」

 「持ち運ぶだけならいいけど、戦うってなると厳しいぜ」


 それはどんな配分にしても同じだと思う。盗賊や山賊がほとんど出ないっていうならそれでもいいんだが。


 「ドワーフ山脈に入れば人の住む地よりも安全やな。少なくとも山賊の類いは街道近辺には出んわ」


 じーさんの話では、ドワーフ山脈にそんな不逞の輩が入るとドワーフに追い回されるらしい。獣や魔物についても、街道近辺ならほとんど気にする必要はないそうだ。むしろ、人の住む平地の方が危険と聞いて驚いた。


 「『精霊の水』が入ってる魔法の水袋に入れたらどうだ?」

 「取り出すときどうすんねん……」


 バリーの案にメリッサが突っ込みを入れる。

 大きな水瓶で百杯以上も入る水袋の中はきっと大きいはず。そんな中から放り込んだ真銀ミスリルを取り出す方法がなければ大変なことになる。


 「水袋を逆さまにしたら出てくるんじゃねぇのか?」

 「中に入ってる水も貴重なもんやんか。正確な量がわからへんねんから、そんなことできるわけないやんか」


 「だったら網の中に小分けして入れて、それを紐で吊すっていうのはどうかしら?」


 ローラの案は、持ち上げられる程度に真銀ミスリルを袋状の網に小分けして入れて、それを紐でくくる。そしてその反対側の端を魔法の水袋の外に出して、すぐに引っ張り出せるようにするそうだ。


 「そうなると問題は2つやな。1つは魔法の水袋の口が小さいことと、もう1つは64マーゴリク分の真銀ミスリルが入る余地があるんかっちゅー点やな。おじーちゃんはどう思う?」

 「水袋の口が小さいのは、真銀ミスリルの塊の形を変えたらある程度はどうにかなるやろ。水袋の容量については、実際に入れてみんとわからんな」


 精錬された真銀ミスリルは地金としてまとめられているので、形を変えるのは難しくないらしい。円柱型にしたら1つずつは入るようだ。


 「でもこれ、地金1つずつしか入らないよな。そうなると塊1つずつを紐でくくるのかな?」

 「真銀ミスリルの地金やったら比重は銀と同じやさかい、大した数にはならんよ。8本で済む。だから円柱型にして1本ずつ袋に入れて紐で吊せばええやろ」


 ライナスの独り言にじーさんが反応した。これであとは中に全部入れられたら運搬の問題は解決することになる。


 「これはわしが何とかするわ」

 「ありがとう、おじーちゃん!」


 孫に感謝されてじーさんは嬉しそうだ。

 こっちとしてもお願いしたい事なので、あとで魔法の水袋をじーさんに渡すことになった。


 「そうや、もう1つ肝心なことを聞き忘れとったわ」

 「なんやの?」

 「今回作る武具の代金って誰が出すんや?」


 じーさんに問われた瞬間、俺達は一斉に固まった。そうだ、作ってもらうことばかり考えていたけど、仕事を依頼するわけだから当然金がかかるよな。


 「ライナス、お前、どれだけ持ってる?」

 「真銀ミスリル製の武具を作るときにかかる代金なんてそもそもわからないよ……」


 いくら何でもそこまでじーさんには頼れないし、そうなるとあと俺が知ってる人で頼れそうなのは……


 (そうだ、アレブのばーさんに請求しよう!)


 思い返せば、今まで助言は多数受けてきたけど、資金援助はついぞしてもらったことはない。今回の武具作製だって肯定してくれてるんだから、資金援助してくれる可能性は高い。


 「あのばばぁか。金を払ってくれそうなんか?」

 「うちらが本命っちゅーんやったら、くれるんと違うかなぁ」

 「逆にこの資金援助で、私達への本気の度合いがわかるんじゃないかしら?」


 間違いなくこの武具作製にはかなりの金がかかるから、本気で魔王を討伐させようとしない限りは拒否されるとローラは睨んだわけだ。


 「拒否されたらどーすんだ?」

 「本気で魔王討伐させるきはないっていうことだから、冒険者家業を気楽に続けていたらいいんじゃないか?」


 ライナスの言う通りだ。逆に援助してくれるとなると、いよいよ覚悟を決めないといけなくなってしまうわけだが。

 とりあえず、ばーさんに連絡をいれて許可をもらってからじーさんに動いてもらうということでこの話は一旦終わった。

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