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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
13章 武具を求めて

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大陸の東から西へ

 竜の山脈で真銀ミスリルをどうにか集めることができた俺達は、今度はそれで武具を作ってもらうためにドワーフ山脈へ行かないといけない。つまり、大陸の東部から西部へと移動するわけだ。王国公路を使えばレサシガムまでだと荷馬車に揺られて最短で2ヵ月弱かかる。

 しかしだ、今回の俺達は一旦フォレスティアに寄らないといけないので旅程は5割増し以上だ。しかもまともに歩くのも難しい大森林の中を通らないといけない。更にいうと時季は夏である。霊体でよかったと思う。

 経路は以前フォレスティアに向かったときと全く逆だ。一旦エディセカルまで戻ったあとにライティア村付近から大森林へと入る。ここまでだけで約1ヶ月半もかかった。そして、そこからフォレスティアを目指す。この時点で7月下旬、こんな真夏に密林のような森に入るとどうなるか想像してもらいたい。

 今までは幸運にも冬にばかり森の中へと入っていたが、今回は情け容赦なく気温と湿度がライナス達に襲いかかった。こうなると、森の中で獣や魔物に襲われないというのは本当に助かる。ヤーグの首飾りがなければ間違いなく途中で力尽きていただろうな。


 「息をするだけでこんなに辛いとは……」

 「あかん、うち……もうあかん」


 湿度100パーセントな上に木々の濃密な臭いには慣れるまでが大変だ。ライナス達は俺の召喚した精霊に乗っているのでこれに耐えるだけでいいが、それでもかなり辛いようである。

 さすがにかわいそうなので俺は魔法で作った氷を1人ずつに与えた。布にくるんで肌に当ててもいいし、細かく砕いて水袋の中に入れて冷やしてもいいし、舐めてもいい。今の4人には何よりも必要である。


 「そうか、氷を作ればいいのよね。思いつかなかったわ……」


 熱ですっかり参っているせいで頭が回らないんだろう。しかし一旦気づくと、水の魔法を使える3人は自分の好きなときに氷を作って涼んでいた。唯一バリーだけが魔法を使えないので、下位の水の精霊を召喚して常に脇に付けてやった。


 「ユージ、助かったぜ」


 それからのバリーは水と氷を頻繁に隣の水の精霊からもらっていた。思っていた以上に今まで我慢していたようだ。




 大森林に入って2週間後、妖精におおよその方角を聞きながら何とかフォレスティアへとたどり着く。入る少し手前でまたエルフの見張りに見つかったが、今度は話が通っていたらしくすぐに中へと案内してもらえた。

 そして街の中に入ると、例によって精霊が多数寄ってくる。逆に妖精は前回と違ってほとんど寄ってこなかった。たぶん俺のことは既に知れ渡っているからだろう。何か面白いことをするわけでもないので、1度見てしまえば充分というわけだ。


 「あ、前と同じ場所やな」


 案内してもらったところは前回寝泊まりしたところである。今回はとりあえず客人として迎えられたようだ。

 これからの予定としては、明日に『精霊の水』を渡すので受け取ればいいらしい。またレティシアさんと会えるのかなと思っていたが、さすがにそれは甘かったようである。向こうは忙しそうだもんな、主にジルのせいで。


 翌朝、フォレスティア内のエルフも本格的に活動し始めた頃になって、タリスがやって来た。


 『よくここまで来られたな』

 (ああ。妖精に教えてもらったんだ)


 日差しのせいで更に蒸し暑くなりつつある中、前回の来訪時に最も関わったエルフと姿を現した俺が言葉を交わす。皮肉で言ってるのかわからないが、態度は良くも悪くもない。


 『前の会談でレティシア様が提供してくださると約束していた『精霊の水』だ』


 タリスはそう言うと水袋を差し出してきた。どう見ても普通の水袋である。武具を作る鍛冶に使う量としては意味がないように思えるんだが。


 (なぁ、タリス、これだけか? それとも、この量で武具を作れるのか?)

 『ん? ああ、それは魔法の水袋だ。中には大瓶おおがめで百杯以上の『精霊の水』が入っているぞ』


 なるほど、魔法の道具というわけか。さすがにおかしいと思ったよ。


 (わかった。ありがとう。メリッサ)

 『はいはい、任しとき』


 こういった重要な物はメリッサが保管しておくことになっているので彼女が受け取る。どうやら重さは大したことないらしい。


 「へぇ、重さは普通の水袋と同じなんかぁ」

 『中の水を出すときには注意しろよ。口を開けすぎると1度に大量の水が出てくるからな』


 珍しそうに俺達が魔法の水袋を眺めている中、タリスは取り扱いについて忠告してくれた。地味に重要な話だな。


 『お前達、これからどうするんだ?』

 (まだ今日は始まったばかりだから、すぐにここを出るつもりだよ。今回は西からだな)

 『前とは逆だな』


 俺の説明を受けたタリスは、俺達をフォレスティアの西側まで連れて行ってくれた。一応前回通った道なので知っているが、そこは相手の配慮をそのまま受けておけばいいだろう。

 そうしてわずか1泊という慌ただしい形で、2度目のフォレスティア来訪は終わった。




 フォレスティアを出発した俺達は一路妖精の湖を目指した。往きと同様にライナス達は俺の召喚した精霊の上に乗って進んでゆく。もちろんバリーの隣には水の精霊付きだ。


 「やっぱり暑苦しいなぁ」


 ライナスは冷やした水をゆっくりと飲む。こういうときに冷えた物を飲むとうまい。しかし、湿度100パーセントという状況だとすぐに汗となって出てしまうように感じる。


 「なぁ、ユージ。涼しくなるような魔法はねぇのか?」


 氷をかみ砕きながらバリーが問いかけてくる。うーん、俺もそれは考えているんだけどなぁ。

 短時間でもいいのなら前からやっている脱水後に霧と風の複合魔法で涼をとるというやり方がある。けどこれ、大森林みたいに湿度100パーセントのところでするのは割に合わないんだよな。魔王軍と対峙していたときも雨季で似たような状況だったけど、テントで中と外がしっかりと区切られていたというのが大きい。ちなみに、砂漠で休憩時間だけでもやっていたのは事前に脱水しなくてもよかったからだ。この森の中だと休憩時間だけでも数回脱水しないといけない。残念だが俺の涼をとる方法に湿気は大敵なのだ。これは改良の必要があるなぁ。

 そういったことをみんなに説明すると、メリッサが疑問を投げかけてくる。


 「それやと、この空気中の湿気を利用してできひんのか?」

 (それはこの湿気を使って霧を作って冷やすということか?)

 「そうや」

 (やってみてもいいけど、たぶんみんなが水気すいけで濡れる上に、涼しい湿気と暑い湿気が混ざるだけで逆に気持ち悪くなるんじゃないかなぁ)


 冷たいフォッグでライナス達を囲ってしまうということも考えたけど、涼はとれても長時間霧に晒されていたらずぶ濡れになるしな。

 こういったことをみんなと考えたり実際にやってみたりしたが、もうひとつこれだというのが出てこなかった。

 そうこうしているうちに妖精の湖へと到着した。結局暑さ対策の解決方法は見つからないままである。




 約1ヵ月ぶりに大森林を出ると、今度は妖精の湖が俺達の目の前に現れる。ここまで来ると、日差しが厳しいものの凶悪な湿度からは解放されるのでみんなの表情が明るくなった。

 そうやってみんなが森からの解放を楽しんでいるそばで、俺は湖上を旅するための船を召喚した精霊で作った。さすがに3度目ともなると慣れたものである。


 (はい、できたからみんな乗って)


 俺の合図でライナス達が順番に乗ってゆく。不要になった土の精霊を解放すると、俺は湖の北岸目指して船を出発させた。


 「うわぁ、涼しい!」

 「日差しがきついけど、まだこっちの方がええなぁ!」


 進む速度は大したことはないが、今日は緩やかな風が吹いているせいでみんなが気持ちよさそうに目を細める。

 ちなみに、全員船に乗る前に服と体を水吸収ウォーターアブソービングで脱水済みである。恐らく強い日差しで早々に乾いてくれるだろうが、変に体調を崩されても叶わないからだ。

 湖上の旅も順調で、特に問題となるようなことは起きていない。珍しく人魚マーフォークが水面から顔を出してこちらを見ていたが、しばらくすると水面へと消えてしまった。


 「パムちゃんどうしてるかなぁ」


 拒絶されて抱けなかった人魚マーフォークの幼女を思い出したローラの独り言が耳に入る。水中に入って探せば見つかるのかもしれないが、そこまでして会いたいとは思わないな。

 強い日差しを緩やかな涼風で癒しながら湖上の旅は続く。真北に進めばいいので迷わないというのは助かる。

 そうして1日強で船の旅は終わった。前回同様夜中も船で進み続けたのだ。ライナス達には再び船上で寝てもらったわけだが、冬と違って夏なので今の方が過ごしやすいので誰も苦にはしていなかった。




 そしていよいよ最後の旅程だ。妖精の湖の最北端に到着した俺達は一路ウェストフォートへと向かう。さすがにレサシガムまで徒歩というのは嫌だったので、ウェストフォートで隊商護衛の仕事を引き受けようとしたのだ。


 「あーやっと着いた」

 「街なんて久しぶりだぜ」


 ウェストフォートの南門をくぐった一行は、エディセカル以来の大きな都市の風景を眺めて感慨に耽っていた。ほとんど未開の地ばっかりだったんだから仕方ない。

 時間はまだ昼頃だったので、とりあえず宿を取ると4人はすぐさま酒場へと向かう。酒もそうだが、久しぶりの料理にありつくためだ。何しろ森の中では保存食と果実ばかりだったため、調理された食べ物に飢えていたのだった。


 「ああ、豚肉がうまいなぁ」

 「かぁ~、やっぱこれがねぇとなぁ!」

 「文明の地に帰ってきたって実感すんなぁ!」

 「神様に感謝ね!」


 テーブルには、木製のジョッキをはじめ、豚肉、ソーセージ、鳥の串焼き、チーズなどが所狭しと置かれている。

 ライナス達は最初の短い感想を吐き出したあとは、しばらく文明的な食事に専念する。こうやって食べているところを見ると、俺も何か食いたいなぁ。

 そうして目一杯食べたあとは眠るだけである。それ程良い宿を取ったわけではないが、何しろここ最近はずっと野宿ばかりだったのだ。例え硬いベッドであったとしても今のライナス達にとっては極上の寝床といえよう。


 「はぁ、これよねぇ」

 「やっぱり人間はベッドで寝んとなぁ」

 「落ち着くなぁ」

 「……」


 ベッドで横になる喜びもそこそこに4人はさっさと意識を手放した。

 翌日、ライナス達は丸1日ウェストフォートで休む。エディセカル以来の久しぶりの休暇だ。酒場に入り浸ったり、市場で買い物を楽しんだり、宿屋でずっとゴロゴロしようとして追い出されたりとみんなが思い思いに羽を伸ばしていた。


 そして数日後、暦は既に9月に入り、残暑の季節となりつつある。冒険者ギルドで見つけた隊商護衛の仕事を請け負ってライナス達はウェストフォートを出た。

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