表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
12章 魔法の鉱石を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/183

取ってきた鉱石の量

 岩蜥蜴ロックリザード撃退した翌日、俺は日の出直前に長方形の土の精霊アースエレメンタルを集合させた。日の出と共に下山するためだ。


 (全員集まったな。なら、この2体に持っている真銀ミスリルを渡してくれ)


 俺は10体の土の精霊アースエレメンタルのうち、2体へ真銀ミスリルを渡すように命じた。作業自体はすぐに終わる。2体の土の精霊アースエレメンタルは合計50マーゴリク近い真銀ミスリルを受け取った。そのため、2体ともらくだのこぶみたいに長方形の上面を膨らませている。ちょっとかわいい。

 残りの8体は召喚時の人型に戻す。これは護衛用だ。飛翼竜ワイバーンへは使いづらいが、岩蜥蜴ロックリザードのように地面を移動する魔物なら充分なはずである。


 「よし、それじゃ出発しよう!」


 日の出前から準備をしていたライナス達は、東から差し込む日差しを浴びながら移動を始めた。

 今回はライナス、ローラ、メリッサ、バリーの順番である。今までの傾向として、飛翼竜ワイバーンは北側から襲ってくることが多かったのでバリーが盾役になっているのだ。ちなみに、俺はライナスの後ろで前を見たり後ろを見たり上を見たりと地味に忙しい。

 この後の下山だが、予想通り飛翼竜ワイバーンからの襲撃が頻繁にあった。真銀ミスリルの採取場から遠ざかるにつれてその回数は減っていったが、こんなにしつこく襲われるとは予想外である。あるときは8体もの飛翼竜ワイバーンに襲われたり、別のときはやたらと回避のうまい個体に遭遇したりとかなり面倒だった。おかげで土の精霊アースエレメンタル2体を犠牲にしないといけなかったくらいである。




 そうして往きと同じだけの時間をかけて下山することができた。日ごとに飛翼竜ワイバーンの襲撃は減っていったが、いつ魔物に襲われるかという緊張感はそのままだったので一行の疲れはかなり溜まっている。


 「や、やっと着いたで」


入山直前に一泊した場所に到着してメリッサが呟いた。今回の飛翼竜ワイバーン戦で最も活躍しただけにその苦労も多大だ。


 「はぁ、やっと生きて帰ってきたって実感がしてきたわ」

 「あんなに飛翼竜ワイバーンに襲われるとは思わなかったもんな……」

 「俺は岩蜥蜴ロックリザードが印象に残ったな!」


 メリッサに続いて他の3人も緊張感を解きつつあった。元気なのはバリーだけだったよなぁ。


 (疲れてるところ悪いけど、真銀ミスリルを荷馬車に積みたいんだ)

 「ああ、そうだね。えっと、こっちだったっけ?」

 (そう、湖岸に沿ってしばらく行ったところだよ。捜索サーチで今確認したから着いてきて)


 俺は姿を現すとライナスとバリーを荷馬車の隠し場所まで案内した。ローラとメリッサは土の精霊アースエレメンタルとその場で留守番だ。緊張の糸が切れて動きたくないというのが本音なんだろうけど、そこはそっとしておくべきだろう。

 ともかく、随分と久しぶりな気がする荷馬車は、以前隠したときのままでそこにあった。それを2人が引っ張ってくる。


 「あら、ちゃんとあったのね。よかった」


 なくなってたら精霊にそのまま運ばせないといけないところだった。今まで予定通りに進んでいるんだから、最後まで調子良く事を運びたいな。


 (それじゃ、その袋の中に真銀ミスリルを小分けして入れるから口を開けて)


 馬車の中には微妙な大きさの袋がいくつも置いてあった。1つ10マーゴリクずつ入れられる厚手の布製の袋だ。全部で15枚ある。これからこれに入れて荷馬車で運ぶのである。

 みんなには精霊の前でその袋の口を開けてもらってじっとしてもらう。その後、俺は人型に戻した土の精霊アースエレメンタルにその袋へ真銀ミスリルを入れるように命じた。


 「おお、やっぱり重いなぁ」


 土の精霊アースエレメンタルから吐き出される真銀ミスリルが袋に入るにつれて重みが手に伝わるのだ。ライナスの呟きは当然である。

 そうやって多少大きさの違う真銀ミスリル入りの袋が10袋できあがった。

 その後、役目を果たした精霊を全て解放する。


 「これであとはラレニムに帰るだけか」

 「そうやな。でも、今日はもう休まへんか? まだ夕方にもなってへんけど」

 「疲れたわよね」


 みんな一斉に頭上の太陽を見る。まだ朱くなっていない日差しが降り注いでくる。


 「そうだな。もう急ぐ必要もないしな」


 ライナスだって全身に強い疲労を感じている。だからその意見にあっさりと頷いた。周囲には特に危険な物もないのでいいんじゃないだろうか。




 ラレニムまでの道のりは、竜の山脈に登っていた頃に比べると驚くほど平穏だった。最初に通りがかった村で村人を見たときは、やっと人間の世界に戻ってきたんだという実感がようやく湧いてきた。

 荷車を引く一行を珍しそうに見る村人とすれ違う。しかし、荷台の上には布が被せてあって中はうかがえないようにしていた。変に興味を持たれて厄介事に巻き込まれたくないからだ。

 もちろん荷台の中には真銀ミスリルの入った袋が置いてあるのだが、他にも4人の荷物が放り込まれている。せっかくの荷車なんだからできるだけ使ってしまおうというわけだ。

 そうやって何日もかけながらようやくラレニムまで戻ってきた。


 「街なんて久しぶりだなぁ」

 「やっと帰ってきたぜ」


 ライナスとバリーはラレニムの東門を見ながら感慨に耽る。約1ヵ月ぶりの凱旋だ。往来する人の多さが懐かしい。


 「中に入りましょう。高価な物を持ってるんだから早く冒険者ギルドに渡したいわ」


 ここまで来て盗難に遭うなんていうのは悲しすぎる。もちろん俺が姿を消したまま荷台の真上で見張っているのでそんなことにはならないが、高価な物を持っていると落ち着かないというのは同意だ。根っこが庶民なんだよな。

 冒険者ギルドに到着すると、脇にある馬や馬車が出入りできる入り口から入った。そこは馬小屋があったり馬車の整備所があったりする。


 「俺は職員と話をしてくるから待っててくれ」


 ライナスはそう言うと、脇にある出入り口から本館に入っていった。もうここまで来たら大丈夫だろう。


 「ようやく終わったっていう実感が湧くよな!」

 「そうね。長かったわ」

 「こんな荷物を持って帰るような仕事って初めてやったもんなぁ」


 荷車に乗りかかるようにして3人が休憩する。時折職員や馬の世話係がこちらを見るが気にしていない。

 しばらくすると、ライナスが職員の1人と一緒にやって来る。


 「お待たせしました。冒険者ギルド、ラレニム支部のマイクです。初めまして」


 物腰の柔らかい中年男性職員の登場に3人も挨拶を返す。


 「それで、早速なんですが、お話しの真銀ミスリルというのはどれになるんですか?」

 「この袋です。全部で10袋ありますよ」

 「中を見てもよろしいですか?」

 「どうぞ」


 ライナスの許可を得て職員のマイクは袋のひとつを引き寄せて紐を解いた。そして、口を開けて中を覗く。


 「はは、やっぱり重たいですね。それで中は……ん? 随分と細かいじゃないですか。あれ、鉱石じゃない?」

 「鉱石のままだと重すぎるんで、できるだけ真銀ミスリルの部分だけを取ってきたんです」

 「あんな竜種のいる竜の山脈でそんな暢気な作業をしていたんですか? 一体何日あの山にいたんです?」

 「精霊に石を砕かせて真銀ミスリルだけを集めたんですよ」

 「はぁ、大したものですね!」


 マイクは信じられないといった様子でライナスの説明を聞いていた。その話が終わると、実際に真銀ミスリルを手にとって確認してみる。


 「精錬してこれだったらお話にならないですが、今の手法で真銀ミスリルの部分だけを抽出したというんでしたらすごいですね。それで、これは一体どのくらいあるんですか?」

 「実はまだはっきりとは調べていないんです。ただ、計算上は96マーゴリクあるんじゃないかと思ってます」

 「なるほど。それでしたら1度量ってみますか?」

 「あ、お願いできますか」


 こちらとしてもどのくらい取れたのかはっきりと知りたいので渡りに船だ。


 「それでは、別室にその真銀ミスリルの袋を運びましょうか。人を呼んできますのでお待ちください」


 そういうとマイクは本館の中に戻ってゆく。

 再び戻ってきたときは5人の職員を引き連れてやって来た。


 「それでは、別室にご案内しますのでついてきてください」


 5人の職員が真銀ミスリルの入った袋を2つずつ持って歩いて行く後ろを、自分の荷物を背負ったライナス達が歩く。

 カウンターの脇を通り抜け、職員の作業場の奥に通じる通路へと進む。そしてすぐ手前にある部屋に通された。合計で10人が入るといささか手狭な部屋ではあるが、袋を置くと5人の職員はすぐに部屋を出て行った。


 室内には応接室のような机や椅子はなく、代わりに大きな秤があった。ローラが持っている秤をかなり大きくした物だ。


 「それでは、袋を1つずつ量りましょう」

 「あ、1袋大体10マーゴリク前後のはずです」


 マイクはライナスの声に頷くと、手近にあった袋を秤の片方に乗せる。そして、反対側に分銅を乗せて量っていった。

 これを10回繰り返し、更に何も入っていない空の袋も1つ量る。


 「それ何してるんすか?」

 「ああ。袋も込みで今まで重さを量っていたから、最後に空袋の重さを10倍にしてその分差し引くんですよ。そうしたら正確な真銀ミスリルの重さがわかるでしょう?」


 説明を聞いたバリーは感心している。俺もその話を聞いてから気づいた。

 マイクは紙に書いた数値を加減算して合計値を導き出せたようで、ライナス達に顔を向ける。


 「結果が出ました。全部で約94マーゴリクですね」


 当初に計算した理論上の数値とほぼ一致している。これなら充分に武具を作れるんじゃないだろうか。


 「これだけあれば、製錬および精錬をすればかなりの真銀ミスリルを抽出できますね」

 「え? どういうことですか?! これほとんど真銀ミスリルですよね?!」


 驚いたライナスがマイクに問いかける。


 「おや、ご存じないですか? 鉱石はそのままでは使えないんで、そこから必要な物質を抽出しないといけないんです。これを製錬といいます。そして、更に純度を高めるために精錬という工程を経るんです。金や銀の延べ棒なんかはその結果なんですよ」


 そうか、すっかり忘れてた。確かにこのままじゃ不要な石なんかも混じってるから真銀ミスリルだけを取り出さないといけないよな。そうなると取り除いた不純物の分だけ軽くなる。


 「専門家ではないのではっきりとは言えませんが、これでしたら精錬しても60マーゴリク以上はあるんじゃないでしょうか。大したものだと思いますよ」


 ライナス達の雰囲気が微妙なものとなる。一般的には大したものなんだろうけど、いきなり3分の2しかないって言われるとな。


 「それで、これをレサシガムにまで届けるんですね……どうされました?」

 「ああ、いえ。はい、そうです。レサシガムのペイリン邸です。既に話は通っているはずです」


 ということで、あとは事務手続き的な話となった。

 最後の最後でちょっと肩を落とすような事実が発覚したが、だからといってこれ以上はどうしようもなかったと思う。あとは手に入れた真銀ミスリルでどれだけの武具が作れるかだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ