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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活
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村にやって来た冒険者

 矛盾点を修正しました(2016/01/27)。

 ライナスと夢で会ってから1ヵ月が経過した。あれからも数日に1回はライナスと夢の中で遊んでいる。何をして遊ぶかはその都度決めているのだが、最近は想像して人や物をうまく作れるようになってきたので、ごっこ遊びの話を自分で作るようになってきた。

 それ以外の時間は今まで通り魔法の勉強に費やしている。相変わらず微々たる進展だが、前に進んでいるだけましだろう。しかし、この本の内容を全部覚えるなんてできそうにないんだが、旅に出てからどうやっていろんな魔法を使えばいいんだろう。エディスン先生は全部覚えているっぽいから、同じことを要求してきそうだよなぁ。

 というように、10年先の旅立ちに漠然とした不安を抱えながらライナスの相手をしていると、村に小さな変化が訪れた。

 エディスン先生による社会制度の授業によると、王国では原則として村には護衛のための人員が領主から派遣されることになっている。この派遣される人物にはピンからキリまでいるわけだが、一般的には退役した老騎士と若い騎士がセットになって送り込まれることが多い。老騎士は村長の相談役や自警団を編成したときの指揮官という役割があり、若い騎士はそれを補佐するという形で経験を積むそうだ。

 ただしそれはあくまでも原則論だ。各領主の事情や外的環境によって、実際には原則通りに実施されていることの方が少ない。

 このライティア村に関してもそうだ。王国直轄領であるため、本来なら王都から1組の騎士が派遣されてくるはずなのだが、こんな田舎に派遣されたがる騎士などいない。特に若い騎士など尚更だ。そのため、今では冒険者を1人雇ってその代わりとしている。

 今回、その護衛役の冒険者が交代した。噂だと前任者はのんびりとしすぎたこの村に飽きたと言う話だ。刺激を求めて冒険者になる奴も多いだろうからもっともらしい理由だとは思う。本当のところは確認のしようはないが。


 「おい、ライナス! むらにあたらしいぼうけんしゃがくるぞ!」


 ライナスの正面で体格の良い男の子が興奮してしゃべってくる。バリーという悪ガキだ。村長の四男坊で同年代の中では中心となっている。悪戯好きなのだが、村長の子供でしかりにくいということから皆が手を焼いていた。

 このバリーは特にライナスと仲が良い。最初は遠慮していたライナスだったが、バリーが引っ張り回しているうちに仲良くなった。


 「あたらしいぼうけんしゃ?」

 「そうだ! きっとおもしろいはなしをしってるぞ!」


 このバリーという男の子は根っからの脳筋で、村の外に強烈な興味を持っている。村長の息子とはいえ、四男坊であるから大人になったら家に居場所はないので、これは良い傾向といえるだろうな。


 「もうきてるの?」

 「ああ。とうさんのところへあいさつにきたんだ」


 バリーの話にライナスも興味をそそられたようだ。俺が夢の中で冒険者ごっこみたいなのをしているから食いつきがいい。


 「あえるかな?」

 「いってみようぜ!」


 周囲にいた子供も新しくやって来た冒険者には興味があったらしく、朝の間の遊びは冒険者を見に行くということに決まった。


 村の護衛が住む家は村の外れにある。他の家に比べて特に見劣りしたり見栄えが良かったりするわけでもない。村の実情に合った造りになっている。

 そんな家にバリーを中心とした村の子供達数人がやって来た。


 「ぼうけんしゃさん、でてきてください。はなしがききたいです!」


 護衛の家に着くなり、バリーは大きな声で呼びかける。おお、物怖じしないな、バリーは。

 しばらくすると、家の扉がゆっくりと開き、中から中年の男が出てきた。その姿は明らかに当惑している。


 「……なんだ、お前達は?」


 呼びかけられて出てみると、数人の子供がいるんだもんな。そりゃ対応に困るだろう。


 「あ、おれ、バリーっていいます。あの、ぼうけんのはなしをききたくてきました!」

 「あぁ」


 やたらと元気な声に面食らいながらも、何を期待しているのかがわかって男は苦笑した。まぁ、外の話なんて滅多に聞けない村の子供が、やってきたばかりのよそ者に期待することなんてそう多くはないだろうしな。


 「よぉし、ちょっと待ってろよ。準備したらすぐ話してやるからな!」

 「やったぁ!」


 破顔しながら応えた男が中に戻ると同時に、バリー達も願いが叶って喜んだ。

 この新たにやって来た護衛役はドミニク・ロビンソンと名乗った。現役の魔法戦士らしい。俺からするとこんなのんびりとした村の護衛をするなんて意外だ。うーん、殺伐とした生活に嫌気が差したんだろうか。

 ともかく、そんな優秀なおっさんが来たもんだからライナスやバリーは大喜びだ。ロビンソンが再び外へ出てくると集まった子供が皆で囲む。これからの話を楽しみにしてる子供の目は輝いていた。


 「よし、あっちの木陰に行こう。そこで話をしてやるぞ」


 そう言うと、ロビンソンは与えられた家の近くにある大きな木に向かって歩いた。もちろん子供も全員ついてくる。いきなりすごい人気だな。

 そしてロビンソンが木の幹にもたれかかるようにして座ると、その周囲にライナス達も座った。

 俺はライナスの近くから離れられないので一緒にその場にいる。でも俺も冒険の話は気になったので皆と一緒にちゃんと聞くつもりだ。何せ似たようなことをいずれしないといけないからな。


 「さぁて、冒険の話だったなぁ。何から話そうか」


 あごに手をやりながらロビンソンはしばらく考える。俺も子供と一緒にわくわくしながら待った。先人の話を聞くのも大切な勉強だと思うんですよ、俺は。


 「そうだなぁ、それじゃ俺が魔物をやっつけた話をしようか」


 話す内容を決めたロビンソンはあごにやっていた手を離して、過去にこなした仕事の話を始めた。


 このロビンソンという冒険者の話はなかなか面白かった。子供もみんな目を輝かせて聞いている。俺でさえ面白いと思うんだから子供なら尚更だろう。

 ただ、エディスン先生や村人と少し違う発音をする場合があるので困ることがあった。まぁよそから来たんだからそういうこともあるだろう。些細なことだと片付けられる程度だ。

 そうやっていくつかの冒険譚を聞き入っていると村長がやって来た。


 「ロビンソン、なにをやってるんだ?」

 「ああ、これは村長さん!」


 村長は苦笑しつつロビンソンに声をかけた。遮るもののない広い場所でしゃべっているので、声をかける前にその内容を漏れ聞くことができたのだ。

 一方のロビンソンは立ち上がって会釈する。朗らかな様子の村長を見て穏やかな対応をしていた。


 「子供に外の話をしていたんですよ。私の経験談ですけどね」

 「なるほど。それは面白そうだ」


 子供が食い付くはずですな、と村長は付け加える。そんな大人2人の対応を子供はぼんやりと見ていた。


 「それで、何かご用でしょうか?」

 「今後のことについて話をしておきたいんだ。私の家まで来てくれ」

 「わかりました」


 今の会話で冒険譚が聞けなくなったことがわかったライナス達は残念がった。あちこちから落胆の声が上がる。俺も密かに落胆した。


 「わかったわかった、また今度続きを話してやるから、今日はお終いだ。さ、解散!」

 「ちぇ……わかったよ」

 「ありがとう!」


 不満に思いながらも子供はバリーを中心にロビンソンから離れてゆく。もちろん俺もライナスに引きずられて離されていった。

 後ろの方を振り返ると、村長とロビンソンが村長宅へ向かって歩いて行くのが見えた。




 その日の夜、俺はライナスの夢には入らずにエディスン先生と話をすることにした。話のネタはロビンソンだ。


 「先生、今日ライナスと一緒に村の護衛役と会ってきたんですよ。ドミニク・ロビンソンっていう冒険者です。魔法戦士だそうですよ」

 「ほう、魔法戦士ですか?」

 「ええ、しかも現役ですよ。よくそんな冒険者がこの村の護衛役を引き受けましたよね」

 「確かにそうですね。ちなみに若いですか、それとも年配の方でしたか?」

 「えっと、中年って感じでしたね。歳まではわからないですけど、若くはないですよ」

 「それなら、引退後のことを考えているのかもしれませんね。護衛役の仕事をこなして実績を積めば、何か役職にありつけるかもしれないですから」


 そうか。いつまでも現役でいられないんだから、老後の生活について考えておかないといけないよな。なるほど、村の護衛役は実績作りか。


 「で、そんな大物が来たもんですから、子供は大喜びで冒険譚を聞きに行ったんですよ。もちろん、俺もですよ」

 「君に拒否権はありませんからね」

 「確かにそうなんですけど……俺も興味あったんですよ。何しろ、冒険の話ですから。ほら、俺もいずれライナスと一緒に旅をするでしょ? そのときのために少しでも話を聞いておきたかったんです」

 「それはいいことですね。確かに、ライナス君だけではなく君にも有意な話でしょう」


 将来の仕事に関わることなので純粋に話を楽しめないというのは残念だったが、それだけに集中して話を聞くことができたのは良かった。元の世界にいたときなら話半分に聞いた上に寝てたかもしれん。


 「で、ライナス君の様子はどうでしたか?」

 「かなり食いつきは良かったですよ。一番はバリーでしたけど、あの様子じゃバリーに引っ張られて冒険者になるかもしれませんね」

 「ほう、いいことですね」


 俺達にとっては、ってことだけどな。それでも、今のところ見てる感じだとごく自然に冒険者を目指しそうだ。ひょっとしたら何もする必要はないんじゃないだろうか。


 「流れとしてはいい感じなんで、このまま見守るってことでいいんですよね?」

 「はい。今のところは理想的な展開ですから、これを維持するようにしてください」


 ライナス本人が望んで魔王討伐の旅に出るのが一番望ましいからな。


 「あ、でも……」

 「どうしました?」


 そうだ、今までライナスのことばっかり考えていたけど、1人で旅をさせるわけにはいかないよな。桃太郎だって動物とはいえ仲間がいたんだし、ライナスにだって必要なはずだ。その辺りをエディスン先生はどう考えているんだろうか?


 「先生、ライナスが魔王討伐の旅に出るとき、仲間になるような奴っているんですか?」

 「……それですか」


 お、珍しくエディスン先生の歯切れが悪い。何も考えがないということか?


 「このままだと村の子供から選ばないといけないですけど、誰か目星は付けてるんですか? それとも最初は1人で旅をさせるんですか?」


 もしぼっちスタートだったら俺の責任は重大だ。1人で動くライナスの支援に奮闘しないといけない。それはできれば避けたいな。


 「それはまだ検討中です。村に良さそうな子供がいればいいんですが、なければどうにかしないといけないでしょう。最悪アレブ殿が何とかするはずです」

 「あぁ、あのばーさんがですか」


 うん、確かに何とかしそうなんだけど、あんまり黒っぽい事情を抱えた仲間は嫌だなぁ。贅沢なのはわかってるけどさ。


 「ともかく、今はライナスについてだけ考えておいてください」

 「わかりました」


 とりあえず、どうにもならないことは一旦置いておいて、目前の作業を片付けることで俺とエディスン先生の意見は一致した。

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