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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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夢の中での初対面

 俺の語った物語で眠ったライナスに片手を突っ込むと、精神感応テレパシーのときと同様に本を片手に持って入夢ドリームエンタリングの呪文を詠唱した。

 そして、詠唱が終わるとライナスの夢の中に入るはずなのだが、ライナスの中に吸い込まれそうな感覚はしたものの、それ以上は何も起きなかった。


 「あれ、失敗した?」


 初めての魔法を使うときに失敗することは当たり前のようにあったので、俺は首をかしげつつも最初からの行程を思い出した。しかし、特に失敗したというようなところは思い当たらない。

 疑問に思いつつも再度呪文を唱えたが、なぜか同じような現象が発生して失敗してしまう。何が原因なのかさっぱりわからない。


 「うーん、先生に相談してみるか」


 このまま無限ループに陥りそうな気配を感じた俺は、ライナスの家の外で自分の作業をしているエディスン先生に会いにいった。


 「ああ、なるほど。それは恐らく、まだライナス君が夢を見ていないからかもしれませんね」


 なんですと? 意外な原因を指摘されて驚いた。


 「それじゃ、どうやって夢を見ているか確認すればいいんですか?」

 「精神感応テレパシーで相手の精神の奥へと踏み込んでゆき、無意識層の手前で違和感があったら夢を見ているといえますよ」


 すみません。さっぱりわかりません。いや、言葉はわかるんですけど、具体的に想像できないんでそういうものなんですかという感想しか出てこないんですよ。ちなみに、精神読解マインドリーディングという魔法もあるのだが、こちらは記憶を読むだけで夢が発生しているかはわからないらしい。なかなかうまくいかないものだ。


 「これはある程度練習をして感覚を身に付けないとわからないですよ。良い機会じゃないですか、慣れるまで挑戦してください」


 などとあっさり言われた。

 確かにその通りなので、俺は再度ライナスのところへ戻って言われたことを実行してみることにする。

 まず、精神感応テレパシーでライナスの精神状態を探ってみた。エディスン先生が言うような精神の奥へと踏み込むというのがどういうことなのかさっぱりわからないので、目隠しで前に進むようにゆっくりと探りを入れてみる。


 (う~ん……あ、これかな?)


 結構な間ライナスの精神をまさぐっていると、何やら柔らかいものに触れたような気がする。これか? これなのか? 何かシャボン玉のようで強く押すと壊れてしまいそうに思えた。あまり強くは触れられそうにない。

 不安に思いながらも他に思い当たる節もなかったので、俺はこの状態のまま入夢ドリームエンタリングの呪文を唱えた。今度こそ入れるといいなぁ。




 呪文の詠唱が終わるとすぐに目の前の景色がぼんやりとしてきた。まるで磨りガラスの透明度が悪くなっていくようだ。それにつられて気分が少し悪くなる。慣れていないせいか乗り物酔いみたいになってきた。

 そんな状態になりながらも、失敗したときとは異なる展開になっていたので俺は成功しつつあるのだろうと思った。これで駄目だったら再度エディスン先生に相談だ。

 しばらくすると、再び周囲の景色がはっきりとしてくる。とは言っても、磨りガラスの透明度が良くなっていくという意味だ。なぜなら周囲は相変わらずぼんやりとした風景のままだからだ。これは俺の魔法がどうというよりも、夢の中だから色々と曖昧なままなのかもしれないな。


 (ライナス!)


 俺は一声掛けてみた。

 ここはライナスの夢の中だが、俺の声は届いているだろうか。夢の中に他人が入ってくるなんてことに慣れていないと思うが、1週間前から声をかけて仲良くしてるから拒絶はされないはず……だよな? あ、やばい。なんか自信がなくなってきた。


 (だれ?!)


 しばらく待っても返事がなかったのでもう1回呼びかけようとすると、聞き慣れた幼い声が俺に呼びかけてきた。おお、返事があったぞ!


 (ユージだ! 遊びに来たぞ!)

 (え、ほんと?!)


 声色だけで嬉しそうだということがよくわかる。そして、次第に俺に近づいてくる気配を感じ取った。


 (ええっと、ユージ?)


 気がついたら突然俺の正面に小さい男の子が立っていた。さっきまで現実の世界で見ていたライナスと全く同じだ。


 (おう、そうだぞ!)


 俺は元気よく応えたがライナスは若干警戒した様子だ。あれ、どうしたんだろう?

 そして自分の手脚を意識して見てから、はたと気がついた。そうか、俺って声だけでライナスの前に姿は見せたことなかったっけ。

 今の姿はトレーニングウェアのズボンとロングティシャツだ。そういえば、こっちにきてからずっとこの姿だよなぁ。着替えってできるんだろうか。


 (なんか、かわったふくをきてるね……)

 (そうだな。みんなに同じことを言われるよ)


 実はまだばーさんとエディスン先生の2人としか出会ったことはないんだが、どちらにも変な格好だと言われた気がする。


 (今日初めて俺の姿を見せたから怪しいと思うかもしれないが、声はいつもと同じだろ?)

 (……そっか、そうだね)


 いつもの声と言われて若干警戒心が薄れてきた。


 (ユージはおじさんだったんだね)


 おぉう、子供の容赦ない一撃が叩き込まれた! 精神体だからダメージが直接くるぜ! なんてことはないが、邪気のない一言だけに心が抉られるような気がした。ほんと子供って容赦ないよね。


 (ま、まぁな。でもお兄さんって呼んでくれてもいいんだよ?)

 (うん、わかった。おじさん!)


 全然わかってねぇ!


 俺のことを何と呼ばせるかは一旦脇に置いて、まずは残った警戒心を解くところから始めた。とは言ってもそんなご大層なことはしていない。一緒に遊んでやっただけだ。

 ライナスの夢の中で何ができるかということを俺は知らない。まぁ、夢の中なら何でもできそうだが、好きなことをするためには想像力が必要だ。自分の頭の中だけに、これが唯一最大の条件といえる。

 しかし、子供の想像力は貧弱だ。知識が少ないために風景や道具などを夢の中に生み出すことが難しい。知識が少ないので余計な制約がかからない分だけ発想の突飛さは大したものだが、よそから入り込んできた俺と一緒に遊ぶためには想像力の方が重要だった。

 そこで俺は、今まで話してきた童話などをなぞらえるようにして遊んでみることにした。台本のあるごっこ遊びのようなものである。基本的な筋書きは俺がして、ライナスの想像力を可能な限り補って遊ぶのだ。


 (よーし、そして戦士ライナスは、旅の途中で犬、鳥、猿の3匹を仲間に入れました)

 (うん、いぬ、とり、さるの3びきだね!)


 今やっている遊びは、桃太郎を変形させた戦士ライナスの竜退治ごっこだ。2日ほど前に話してやったらいたく気に入ってくれたので、まずはこれで遊ぶことにした。

 粗筋は、ある村に生まれた戦士ライナスが国を荒らす竜を退治するため旅に出て、犬、鳥、猿の3匹を仲間にしつつ竜を退治するお話しである。もちろん最後は財宝を持ち帰ってめでたしめでたしだ。

 そして、以前は俺が面白おかしく話をしてそれで終わりだったが、今回はライナスの夢の中だ。色々とライナスに作り出してもらって遊ぶことができた。

 例えば、今は犬、鳥、猿の3匹を仲間にした場面なのだが、それぞれをライナスに想像してもらって実際に劇の配役に仕立ててもらう。最初は大変そうだったが、次第に慣れてくると自分の好きなようにできることがわかって大喜びしていた。


 (ユージ、できたよ! これでいいよね!)

 (よっしゃ! それじゃ竜退治に行くか!)


 もちろん子供の想像力なので正確性には限界がある。だが、あくまでもごっこ遊びをライナスが楽しめればいいので、その辺りの細かい突っ込みは一切しなかった。

 そうやってライナスが飽きるまで遊ぶつもりだったのだが、俺は子供の遊びへの欲求を舐めていた。だから、次から次へと遊ぼうとするライナスに俺の方が根を上げてしまう。


 (ちょ、ちょっと待ってくれ。少し休もう)

 (えー、ユージはだらしないなぁ)


 まさか霊体になっても息切れするとは思わなかった。なんだ、これは精神的な疲労なのか?

 こうして、時々休みつつも色々とライナスの望むままに遊んでいった。


 しかし、いずれは終わりがやって来る。何となくそろそろ夜明けがやって来るとわかった俺は、ライナスに終わりを告げた。


 (えー、もっとあそびたいなぁ)


 余程楽しかったのだろう、ライナスは残念そうに応える。俺としては遊んだ甲斐があってうれしい。同じくらい疲れたが。


 (また遊べばいいだろう。別に今日で最後じゃないんだからな)

 (そっか、わかった!)

 (それと、俺のことはみんなに内緒だからな)

 (うん、わかってるよ)


 何日か前にも同じことを言って注意していたが、俺は夢の中で初めて出会った今日も念を入れて注意する。浮かれて話されると困るからだ。面倒ではあるが仕方ない。


 (それじゃ、またな!)

 (うん!)


 そう挨拶を交わすと、俺はライナスの夢の中から出ていった。




 とりあえずライナスに対するつかみを成功させた俺は、夢の中での出来事を簡単にエディスン先生へ報告していた。ライナスと遊んでいただけなので報告できることは大してないのだが、それでも仲良くなれたことは強調しておく。とても重要なことだからだ。


 「ふむ、思いの外うまくいっているようですね」


 珍しく俺の報告にエディスン先生は感心していた。特に桃太郎の話を改造してごっこ遊びをしたというところにご満悦のようだ。なんだろう、魔法の練習以外にも何か目的があるのはわかるが、どうにも黒っぽいにおいがして仕方がない。


 「大変良いことです。当面はそのまま相手をしてください」

 「当面は、ですか……」

 「ええ、そうです」


 うーん、嫌なんだが、やっぱり黒い事情に利用されてるんだろうなぁ。拒否権がないだけに怖い。

 しばらく俺達2人は沈黙するがそのまわりは子供の喧噪で賑やかである。ライナスが友達と遊び回っているので、今の俺はそれに一緒に引きずられるようにあちこち移動しているからだ。エディスン先生はそれに合わせてついてきてくれていた。俺もエディスン先生もすっかり慣れたもので今では気にならない。


 「そうだ。先生、魔法の勉強とライナスの相手はどちらを優先すべきですか?」


 物覚えの良くない俺からすると魔法の勉強は重要なことだ。しかし、将来のことを考えるとライナスとの信頼関係を強くしておくこともやっぱり重要だと思う。なら、どちらを優先するべきだろうか。


 「そうですね。自由にしてもらって構いません。君はどちらを優先するべきだと考えていますか?」


 逆に質問された。俺はしばらく考えてから答える。


 「魔法の勉強を優先します。俺って優秀じゃないですから、余裕のある間に色々自分を磨いておいた方がいいと思うんですよ」

 「ライナス君との仲を深めるのは後回しでいいと?」

 「はっきり言うとそうです。ライナスが成人を迎えるまでまだ10年以上ありますから、その間に少しずつ仲良くなればいいと思います。今回の接触では結構打ち解けられたんで、そこまで急ぐ必要はないでしょう。今後ライナスが成長すると共に関わる時間は自然と増えるはずですから、今は自分の実力を伸ばすべきだと思います」


 俺は今考えていることをはっきりと言った。隠すようなことじゃないからな。もし間違っていれば、エディスン先生が指摘してくれるだろう。


 「なるほど。そこまで考えているんでしたらいいでしょう。思うようにしてください」


 おお、お許しが出た。何か言われると思ってたんだけどな。

 ともかく、そういった方針で俺は動くことになった。いよいよライナスとも本格的に関わることになったのである。

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