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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
12章 魔法の鉱石を求めて

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大森林から王国へ

 フォレスティアで首尾よく長のレティシアさんから協力を取り付けた俺達は、何とか魔王討伐という目的を1つ進めることができた。ライナス達は冒険者として自立した後、周りに助けられながらも何とかやっている。

 最近あまり気にならなくなってきたが、俺達は魔王を討伐するために動き回っているんだよな。魔王を本当に倒せるのか、どうやって近づくのかなど考えるほど現実的でないように思える。しかし、毎回こなしている冒険クエストを見ている限りは順調だ。ここからどうやって最終目標を達成するところまで持っていくのかがさっぱりわからないが、たぶんアレブのばーさんはわかってるんだろうな。

 しかし、本当にこれで魔王なんて倒せるんだろうか。そもそも魔王を見た人間なんて聞いたことがない。わずかに魔王軍から漏れ伝わってくるだけだ。相手の状態もろくにわからないのに、これでいけるなんてどう判断するんだろう。俺だったらそんな命令は拒否するけどな。

 他にも、魔王討伐隊は複数存在するらしい。ペイリン爺さんの話ではピンからキリまであるそうだが、実際どんなものなんだろう。ばーさんも俺達以外にいくつか抱えている可能性があるらしいけど、せめてそのパーティくらいとは協力したい。どう考えたってみんなで協力した方がいいはずなんだが、どうしてパーティ間で連携させないんだろう。

 色々と疑問や不満はあるものの、今は目の前にある目標に向かって進むしかない。




 レティシアさんとの会談の後、宿泊施設に戻ってきた俺達は緊急連絡用の水晶を使って、アレブのばーさんにその成果を報告した。ダメ元でフォレスティアにやってきたということもあって、意外に成果があったことをばーさんは評価してくれた。そして、それを元に今度の行動について話し合ってついさっき水晶の起動を止めたところだ。


 (あー、やっと終わったぁ)


 俺は背伸びをしながら緊張をほぐした。霊体なので体が疲れるわけではないが、いわゆる気疲れだ。それはライナス達も同じである。


 「あのばーさんと話をするのは厄介だぜ」

 「バリーはほとんどしゃべってなかったじゃないか」


 全くである。基本的に考えることは俺達に丸投げして、自分はたまに思いついたことをしゃべるだけだ。気楽で羨ましい。


 「次は予想通り真銀ミスリルを取りに行くのよね」

 「竜の山脈かぁ。飛翼竜ワイバーンの巣に突撃することになるんやんなぁ」


 メリッサはしかめっ面をしたままうなっている。

 レティシアさんも言っていたが、真銀ミスリルが採取できる場所は竜の生息地と重なるのだ。竜の山脈に広く生息しているのは飛翼竜ワイバーンなわけだが、採取中に高い確率で交戦することになるだろう。


 「どれぐらい強いんだろう?」

 「強いのはともかく、空を飛ぶのは厄介だよな!」


 メリッサに続いてバリーが顔をしかめた。

 地上から空を飛ぶものに対して矢や魔法を当てるのは難しい。ライナス達に限ると、魔法による遠距離攻撃を3人ができるにもかかわらず、今までろくに当てたことがないというのがよい証拠だろう。バリーに至っては攻撃手段すらない。


 「魔法の命中率を上げるか、飛翼竜ワイバーンをはたき落とす方法を考えんといかんな」

 「複数の飛翼竜ワイバーンに襲われたときのことも考えないといけないわよね」


 考えなしに真銀ミスリルを取りに行くと手ひどい目に遭いそうだな。竜の山脈に上る前に対策を考えておかないといけない。


 「あ、それで、取った真銀ミスリルってどうやって運ぶんだ?」

 「お前が言うには、重いんだよな」


 以前バリーが王都で真銀ミスリルの塊を運んだときの経験から、重さは鉄などの金属と大体同じらしい。武具に必要な真銀ミスリルの量も後で調べないといけないが、全員分ともなると正確な値がわからなくても人が担いで持ち運べる量ではないことくらいわかる。そうなるとどうしても運搬手段が必要となる。

 先ほどのばーさんとの話では、取ってきた真銀ミスリルをドワーフ山脈まで運ぶ打算は大体整うことがわかった。最寄りの都市ラレニムからレサシガムまではばーさんが手配してくれる。問題は竜の山脈からラレニムまで運ぶ手段だ。荷馬車では山脈を登れないのでどうしようか困っているのだ。


 「ユージ、精霊に運ばせることはできないのかしら?」

 「せや、うちら人間が運べるんやからできるわな!」

 (確かにそうなんだが、街中でも精霊に運ばせる気か?)


 単に運べるかどうかと尋ねられたら精霊でもできると答えるが、街中だと確実に目立つ。今回は乗せている真銀ミスリルが高価なものだけに、これで目立つとほぼ確実に厄介なことになるはずだった。そういった面倒なことはできるだけ避けたい。


 「あー、それなら竜の山脈を往来するときだけ精霊を使って、平地で荷馬車に移し替えるっちゅーのはどうや? 荷馬車はどこかに隠しておいたらええやろ」

 「お、それいいな! ライナス、メリッサのやつでいこうぜ!」


 俺もそれでいいと思う。ただ、荷馬車を引く馬が必要になるから、近くの村で預かってもらう方がいいだろう。そして、採取後に村から離れたところで移し替えれば何とかなるはず。

 みんなにそれを話すと賛同してくれた。これでようやく運搬手段は何とかなりそうだ。


 「なら、後はメリッサにゲイブリエルさんへの手紙を書いてもらえばいいのね」

 「せやな。近況報告もまとめて書いてしまおか」


 レサシガムでの真銀ミスリルの受取人はペイリン爺さんの屋敷に決まっていた。ここなら確実に安全といえるからだ。そのため、メリッサにはその旨を伝えるために連絡の手紙を出してもらうことになっていた。尚、その手紙は、王国に帰ってから冒険者ギルドに出すことになっている。かつてライナスがローラに手紙を出したときと同じやり方だ。


 「そうなると、一旦エディセカルまで戻らないといけないな」


 ライナスがそう独りごちる。

 メリッサの手紙を出すこともそうだが、ラレニムで真銀ミスリルを冒険者ギルドへ引き渡して運んでもらう際に必要な書類も受け取らないといけない。そのため、書類を確実に受け取れるところとしてエディセカルをばーさんから指定されたのだ。また、レティシアさんが描いた地図だと、竜の山脈の東側から山に登った方がいいということもある。そういった意味でも一旦王国へ戻らないといけない。


 「フォレスティアからエディセカルに行くとなると、今度は大森林の東側を進まないといけないのね……」


 今まで来た道を引き返すことになっても苦労は変わらないわけだが、長い間森の中を進むことに思いをはせてしまったローラがため息をついた。


 「はぁ、転移魔方陣が使えたらなぁ」


 メリッサもこれからの旅路を想像して肩を落とした。確かに一瞬で王都に戻れたら楽でいいよな。

 とは言ってもそんな都合の良い手段は俺達にはない。俺達は諦めて、フォレスティアへやって来たのと同じように王国へ向かって出発した。




 別れ際、タリスから大森林の東側と西側で獣や魔物の生態に大きな違いがないと聞いた俺達は、往きと同様の感覚で進むことができるとわかって安心した。とりあえず、北東に向かって進めば王国に出られるということがわかっているので、精神的にはかなり楽だ。

 ライナス達を精霊に乗せながら進むこと約10日、最後は南方山脈の東端に沿って進むことで大森林から抜け出した。


 「んあ~! やっと帰ってきたでぇ!」

 「はぁ、久しぶりの平地よ!」


 パーティの女性陣は約1ヶ月ぶりの平らな地面を踏みしめて喜んでいる。妖精の湖から森に入って以降、凹凸の激しい地形ばっかりだったから無理もない。しかも、大森林では妖精に乗って移動していたので歩いてすらいなかった。やはり、何も考えずに歩けるというのはすばらしいものだ。


 「あ~、涼しいなぁ、ライナス!」

 「本当だね。こんなに息が楽にできるのは久しぶりだよ」


 一方で男性陣は、高い気温と湿度から解放されていたことを喜んでいた。常に汗を流し続け、苦しそうに息をしている様子を見ていただけに、森の外へ出て体をいっぱいに伸ばしているその姿はほほえましい。


 そうやって一頻ひとしきり久しぶりの王国を楽しんだ後、一行はエディセカルを目指して歩き始めた。精霊はここで解放して、今後は歩きだ。

 とりあえず4人は北上する。最寄りの村か街道まで出ないといけないからだ。大森林では果物や木の実がたくさん採れたので保存食には余裕がある。急ぐ必要はない。

 しばらくは何もない平原をみんな歩いていたが、ライナスとローラはたまに東側に目を向けていた。


 「なぁ、ローラ。さっきから西の方をたまに見てるみたいやけど、何かあるんか?」


 最初に気づいたのはメリッサだ。最後尾からみんなの後ろ姿をいつも見ているから気づきやすいのかもしれない。


 「え? ああ。えーっと、私の生まれ育った村があっちの方にあるのよ。そんなに遠くないから少し気になってね」


 少しばつが悪そうに苦笑いしたローラは、わずかにためらいつつもメリッサに説明した。


 「それならライナスも見てたよな」

 「うん、たぶん100オリクも歩いたら着くだろうからね」


 こっちはいたずらがばれた子供のような表情だ。別に気になっても悪くないように思うんだが、恥ずかしいのだろう。


 「そうゆーたら、3人とも同じ村出身やったな? 少し寄ってくか?」


 メリッサとしてはどんなところか興味があったので提案したわけだが、他の3人の反応は鈍い。


 「うーん、俺は別にいいかなぁ。村を出てそんなに経ってねぇし」

 「魔物討伐で手柄を立てたりしたけど、お宝を手に入れてみんなに自慢したいよな」


 おお、やっぱりライナスもお宝を手に入れたいんだ。それに傭兵や冒険者仲間だったら戦場の手柄話なんかでもいいんだろうけど、村人なんかだったらやっぱり財宝の方が受けがいいだろう。そういった意味では、ライナスの言葉はまっとうである。


 「うーん、あたしの場合だと、王都の方が故郷っていう気がするわ。お父さんとお母さんには会いたいけれど」


 そうか、物心ついてからの記憶だと、ローラは王都の方が長いのか。確か10年くらい前に村を離れたもんな。そうなると王都が故郷みたいに感じるんだ。


 「ふーん、そんなもんなんか。バリーなんかは喜んで里帰りするように思ったんやけどな」


 メリッサは意外そうに3人を見た。近くに寄ったから気軽に帰ると思ったんだろう。うーん、この感覚は俺にもわからんなぁ。


 「それなら、このまま北に向かって歩いて、エディセカルを目指すんやな」

 「おう、そうだぜ!」

 「いや、できるなら荷馬車に乗れるか交渉しよう。その方が早くて楽だから」


 バリーの返事を即座にライナスが否定した。言ってることは正しいので俺も賛成だが、バリーはどうしていいのかわからずに少し困っている。


 「ずっと歩くとなると1ヶ月近くかかるけど、荷馬車を使ったら2週間くらいね。ずっと荷馬車に乗れるといいんだけどなぁ」


 理想通りにいって倍くらいの差がある。何があるのかわからないから、1ヶ月はかかると思っていた方がいいだろうな。


 「とりあえずは、村か街道に出ないとな」


 苦笑しながらライナスはローラに言葉を返す。そうだな、村も道も見えないところでそんなことを言ってても仕方ない。

 4人は再度気を引き締め直して歩き始めた。

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