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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
11章 大森林に住む者達

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─幕間─ 大事のための小事

 魔王デズモンド・レイズの居城ロックホーンでは、先程まで御前会議が開かれておった。御前会議とあるからには当然魔王本人も出ておったわけじゃが、こういった会議は滅多にあるものではない。年に1度行われる定例的なものを除けば、何か重大なことがない限り開かれるものではなかろう。

 今回開かれた御前会議というのは、王国への侵攻方針に関する話し合いのために開かれた。そしていつも通りの展開で終わるという、わしにとっては時間の無駄にしかならん会議じゃったわ。

 現在の魔王軍は主に3つの経路から王国へ侵攻しておる。王国の王都の真北からの経路、王国の東北にある死の砂漠からの経路、そして王国の北西にある最北の森からの経路じゃ。それぞれ、ギルバート・シモンズ、ダン、そしてわしが担当しておる。

 それで、いつも通りの展開というのは、追加戦力をどこへどれだけ送るのかということでシモンズとダンが言い争っておったということじゃ。もう何十年とやっておるんじゃが、よく飽きもせずに繰り返すのう。


 「ベラ殿」


 会議が終わり、自分の研究施設へ戻るために複雑な廊下を歩いている最中、先程まで散々聞かされた声に呼び止められた。


 「シモンズ殿か。何用かの」


 必要なことはあの会議で話したはずじゃがな。意見があるならいつも会議の席上ではっきりと言う性格なだけに、こうしてわしを呼び止めるとは珍しい。


 「届けた武具に何か不具合でもありましたかの?」

 「いや、それについては問題ない。こちらの要望通りで感謝している」


 そうじゃろうとも。役に立っている分にはその対価はしっかりと支払うのがわしの主義じゃからのう。話に入るための呼び水じゃて。


 「フールについてだ」

 「シモンズ殿と性格が合わんことは知っておりますが」

 「そういう問題ではない。あの人間が我らと同格というのがおかしいと思わんか?」


 以前からそういう話を周囲にしているということは知っておったが、ついにわしにも愚痴を言い始めおったか。


 「陛下の人選に口を挟むなど不遜であろう」

 「……確かにそうだ。しかし、元々気まぐれで拾われて道化師になったあやつが、四天王の一角とは陛下も冗談が過ぎる」


 フールの奴が四天王になって以来ずっとこの調子じゃ。わしのことも良くはおもうておらんはずじゃが、いよいよ堪忍できんようになりつつあるか。


 「あやつが四天王でなくなればその溜飲は下がるのかの?」

 「何かあるのか?」

 「あのようにふざけた態度ではあるがの、任されておる諜報に関しては陛下にも高い評価を得ておりますゆえ、なかなかしっぽは出しませんな」


 明らかに不満そうじゃの。それ程気に入らんのなら自分で陥れればよいものを。


 「まぁ、何か失態がありましたら、それにつけ込めばよいでしょう」

 「そうですな」


 まだ不満はあるのじゃろうが幾分か表情は和らいだ。それで少しは満足したのか、一言別れの挨拶を口にするとそのまま去って行く。

 戦場では無類の強さを発揮するという黒騎士様も案外俗っぽいところがあるのう。




 自らの研究施設に戻ったわしは一息ついた後、緊急連絡用の水晶を起動する。緊急連絡用と名付けておるが、最近は通常の連絡にも使うようになってきたの。


 「やぁ、久しぶりだね」

 「そうじゃの」


 水晶を起動してしばらくしてフールが返事をした。


 「いくつか話をしておかねばならんことがある」

 「ライナスのことかい?」


 わしは頷く。それだけではないが、まずは重要な話からじゃな。世間話をする間柄でもないのですぐに本題へと移る。


 「先日、ライナスから大森林での成果について報告があった。それによると、フォレスティアの長レティシアと話をすることができたらしいわい」

 「何の伝手もないのに? そりゃすごいね」

 「妖精のジルが口添えをしておったそうじゃ。あの気まぐれな奴もなかなか役に立つ」


 ある程度予想はしていたとはいえ、不確定要素の塊じゃからの。こうして思い通りに動いてくれると気分がいいわい。


 「それで、どんな成果があったんだい?」

 「まず、ライナスがダンと戦ったときに出した光の塊は『星幽剣アストラル・ソード』と言うそうじゃ。これはレティシアが以前一緒に旅をしておった人間が使っておったものと同じらしい」

 「へぇ、過去にも使っていた人間がいたんだ」


 それがマーズ王国のアーガス王子という伝説の人物とはの。ライナスの霊魂の強さからもしやと期待しておったが、同じことをできるとは幸運じゃ。


 「で、その『星幽剣アストラル・ソード』を使うためには真銀ミスリルが必要じゃから、ライナス達はこれから竜の山脈へと向かうと言うておった」

 「……待って、僕は今小森林で待機中なんだけど?」

 「ひぇひぇひぇ、ちなみに、ライナス達は南方山脈と竜の山脈の間から王国へ戻るというておったぞ。準備のために王国へ一度戻ってから竜の山脈へ向かうそうじゃが、合理的な話ではないか」


 フールの奴め、随分と渋い表情をしておるわ。小森林で2度目の襲撃を計画しておったからの。不機嫌になるのも無理はない。


 「仕方ないか。それじゃ、次の襲撃場所は呪いの山脈か竜の山脈になるんだね」

 「呪いの山脈じゃの。竜の山脈で待ち伏せする必要はなかろう」

 「わかった。それじゃまた転移魔方陣を使うよ」


 フールの要請にわしは頷く。こういうことなら好きなだけ使うとよい。


 「話を戻そう。竜の山脈で真銀ミスリルを採取した後、再度フォレスティアに赴いて『精霊の水』を分けてもろうてからドワーフ山脈に向かう予定じゃ」

 「ドワーフに武具を作ってもらうってことかい。『精霊の水』まで使えるんなら、さぞかし強力な武具ができそうだよね」


 まったくじゃ。思惑通りに事が運んでいてわしも気分がいい。


 「当面はそんなところかの」

 「なるほど。大森林の妖精達は助言と『精霊の水』を分け与えることだけしかしないんだ。ま、こんなところかな」


 表立って人間に協力する気はないということなんじゃろう。今のところは特に脅威を感じておらんようじゃし、これが精一杯というところか。それでいて魔王討伐が成った暁にはその功績は軽くないんじゃから、なかなか賢い立ち回りをするのう。


 「ライナスには是非『星幽剣アストラル・ソード』を使いこなしてもらわねばならぬゆえ、お主にはドワーフ山脈でライナスが武具を揃えてから本格的に動いてもらうぞ」

 「今はまだ本格的じゃないんだ……」


 フールの顔が引きつっておるが、そのとおりじゃ。


 「そうじゃ、お主は先日小森林で黒妖犬ブラックドッグをライナス達にけしかけたんじゃったな」

 「うん、とりあえず様子見で仕掛けてみたんだけど、動きは悪くなかったよ。ただ、武器や魔法の威力が不足しているように見えたかな」

 「真銀ミスリルの武具が手に入れば、ライナスとバリーは何とかなるの。ローラとメリッサについては、日頃の修練しだいじゃな」

 「どういうことだい?」

 「聖なる大木の枝から作った杖は、使い続けるほど魔法の威力や効果を大きくするらしい。先日フォレスティアでそれを聞いたそうじゃから、今頃は日々修練しておるはず。なれば、魔法の威力不足もある程度解消できるじゃろう」


 実際はどこまで期待できるのかわからんから、フールに魔物をけしかけさせる必要はあるがの。


 「そうなると、後は守りだよね」

 「守りとな?」

 「うん、ライナス達って防具は革の鎧だけなんでしょ? いざとなったら魔法でいくらかは身を守ろうとするんだろうけど、魔王様の相手をするとなると頼りないよ」


 ライナスとバリーは真銀ミスリルで鎧を作れば何とかなるが、そうか、ローラとメリッサには何か考えておく必要があるか。


 「真銀ミスリルで作る武具って鎧も含まれているんだよね?」

 「採取できる真銀ミスリルの量にもよるがの」

 「それ、王国で用意できないのかな?」

 「ある程度の試練は与えねばならんじゃろ」


 草木も水をやりすぎると根が腐ってしまう。ライナス達のような逸材であってもそれは同じじゃ。できれば自力で集めさせたいの。


 「いや、全部を用意する必要はないんだ。足りない分だけでいいんだよ」

 「なるほどの。それなら構わん」


 王国も言うほど真銀ミスリルを持っておるわけではないが、いくらかなら融通できるじゃろう。


 「そっか、ならいいんだ。他には何かあるかい?」

 「ふむ、ライナス達についてはこれくらいじゃの」


 後は、シモンズの件か。


 「他は……そうじゃの、お主、今回の御前会議も欠席しておったじゃろ」

 「……うん、けど、抜けられない仕事があったから」

 「わかっておる。ただ、シモンズはお主が四天王の座におることも含めて怒っておったわ」

 「あー、今更なんじゃないかな、それは」


 確かにそうじゃ。何しろお主が四天王になってからずっと言われ続けておったことじゃしな。


 「そこでじゃ。フールよ、お主、四天王の座を降りぬか?」

 「そりゃまたどうして?」

 「今回の御前会議の後になんじゃが、シモンズがくだんの愚痴をわしにまで言ってきたんじゃ。奴が感情を爆発させる日もそう遠くはないであろう」

 「うわぁ」


 フールもシモンズがわしのことを胡散臭いと思っておることくらいは知っておる。しかし、恐らく同じ魔族じゃからという一点で愚痴を言ってきたんじゃろう。そんな普段近づこうとしないわしにさえもフールの非難をしてきたということは、最早我慢の限界が近いと見ていい。


 「お主とシモンズの仲がどうなろうとわしの知ったことではないが、計画はそろそろ最終段階になろうとしておる。ここで余計なさざ波を起こして計画に影響が出るのは避けたいんじゃよ。それとも、四天王の座に未練でもあるのか?」

 「ないね。なってみてわかったけど、責任ばっかりで僕にはほとんど権限が与えられなかったから。しかもみんなの反感を買うし。知ってるかい? 四天王になる前は馬くらい貸してもらえたのに、四天王になってからは馬すら貸してもらえなくなったんだよ」


 シモンズの軍団じゃな。あやつ本人が命じておるわけではないじゃろうが、それを黙認しておるのは大人げないの。


 「ならば、馬を借りられるようになるためにも、四天王の座から降りた方がよいな」

 「あと、御前会議にも出なくて済むんだよね」


 確かに、お主にとってそれは良いことじゃな。ああ、わしも最近は面倒になってきたの。


 「そういうことなら、やめてもいいよ。ああでも、降格だけで処罰はないようにしてね」

 「わかった。沙汰は処理が済み次第伝えるとしよう」


 それで起動させていた水晶を停止する。面倒な作業が1つ増えたが、ことを円滑に運ぶためには必要なこと。さっさとシモンズの溜飲を下げてやるとするか。

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