レティシアへの相談2
ジルの口添えもあって、俺達はレティシアさんに協力してほしいことについて具体的に話をできるところまできた。見た感じ前向きなようなので、可能なことなら協力してもらえそうだ。
(まずは、ライナスの光の塊を見てもらおうか)
「あー、そうだね」
ライナスは席を立つと少し離れたところに立つ。
「去年、私は魔王軍の四天王と戦ったときにですが、ユージと協力して偶然光の塊のような武器を出現させました」
(今からご覧に入れます)
俺はそう言うとライナスと重なる。すると、ライナスの右手から3アーテムほどの光の塊が現れた。
「なんと!」
それを見たレティシアさんは目を見開いて驚く。そう言えば、珍しくアレブのばーさんも驚いてたな。
光の塊を出せるところさえ見てもらえればよかったので、少ししてから俺はライナスから離れる。すると、光の塊は消えた。
「今のが、四天王ダンの攻撃を防いだ光の塊です。それでこれなんですが、まだ今のように出せるだけで制御が全くできません。そこで、もしこれを制御する方法があれば教えていただきたいんです」
(ちなみに、通常の武器に今の光の塊をまとわせて使ったところ、鉄であろうと何であろうと簡単に切ることができました。しかし、武器の刀身が持たずにすぐ壊れてしまうんです)
実演と説明が終わると俺達はレティシアさんを見る。先程までと違って表情が少し強張っているが、まだ驚いているんだろうか。
「驚いたわね。アーガス以外にもそんなことができるなんて」
「知ってるんですか?!」
お、あんまり期待していなかったが、どうやら何か知っている様子だ。言ってみるもんだな。
「遙か昔ですけど、あなた達と似たようなことをしていた方がいます。アーガスという方なんですけど、その方は剣にまとわせて使っていました。確か、『星幽剣』と名付けていましたが」
「どのようなものなんですか?」
「自分の霊魂を媒体にして多量の魔力で編み上げるそうです。そうすることでこの世に存在するものなら何でも切れると聞きました。」
うん、発動させたときの現象と一致するな。
(ということは、そのアーガスという方にも守護霊のような存在がいたんですか?)
「いえ、アーガスは1人でした。元々特異な方でしたから」
すげぇなぁ。膨大な魔力も自分で賄ってたってことか。
「それで、どうすればこの『星幽剣』を制御できるようになるんでしょうか」
「真銀の武器と相性がいいと聞いています。そう言えば、あの方も真銀の剣を持っていらっしゃいましたね」
確かに真銀なら魔力伝導率もいいから最適なんだろうけど、あれって希少金属だったよな。
「王国やと真銀はかなり高価やから、手に入れるのは苦労するなぁ」
今の話を聞いていたメリッサは、自分の知っている知識を引っ張り出してきて唸る。王国でも真銀は一応出回っているそうなんだが、余程の金持ちでない限り手に入らない。
「では、真銀は竜の山脈で手に入れられますから、そちらへ向かわれてはどうでしょう?」
竜の山脈は大森林の東端に接する山脈だ。人間の居住地域と森を隔てる壁にもなっている。
レティシアさんはそこへ行くよう提案してくれるけど、行っただけで真銀が手に入るわけじゃない。個人で採掘なんてできないし、誰かが産出場所を押さえていたら盗掘扱いで犯罪者になりかねない。
「レティシア様、それは竜の山脈で真銀を採掘することを勧めていらっしゃるんでしょうか?」
「採掘? いいえ、私達は地面に転がっていた真銀を取り集めていましたよ」
露天掘りできるほど地表に転がってるのか。レティシアさんは以前アーガス王子と一緒にそこで真銀を集めたことがあるらしい。
「竜の山脈には多数の竜がおりますが、その竜達は光り輝く物が大好きです。その竜達もよく集めているんですよ」
「話だけ聞いていると簡単に取れそうですね」
「ただ、竜の生息範囲内であることが多いので危険でもありますが」
ライナスが安心して喜んだのを見てすかさずレティシアさんは釘を刺す。やっぱり簡単にはいかないか。その辺はしょうがないよなぁ。
「取るのも大変なんやろうけど、鉱石だけに持って帰るのも大変やろな」
「あれ、他の金属と同じように重いぜ」
「バリー、知ってるのか?」
「王都で荷運びをしていたときに、真銀の塊を担いだことがあるんだ」
そういえば見習い時代の最初は王都内で仕事をしていたよな。あのときに運んだことがあるのか。
(それでは、以前レティシア様が真銀を取った場所を教えてもらえますか?)
「ええ、もちろん」
レティシアさんは配下のエルフから紙とペンを受け取ると簡単な地図を描く。
「こんなところかしら。私達のときは、竜の山脈のこの辺りでよく取れたわ。この中腹あたりよ」
麓だと楽でよかったんだけどな。さすがにそこまで甘くないか。
「ありがとうございます。助かります」
「そうそう。せっかくだから、その真銀で武具を作るときはドワーフに頼むといいわ。私達とは相容れない者達ですけど、道具作りの腕は認めるところですから」
ドワーフ山脈に住んでるんだっけ。嫌いだけどその腕は認めるといったところか。確かに、どうせ武具を作ってもらうなら腕のいい職人にするべきだよな。
「これで光の塊、いや『星幽剣』を使えるようになるんですね」
「ええ、そのはずです」
これでライナスの件は目処がついたな。一番厄介な問題に光が差したのは助かる。
(それじゃ次はバリーの件なんだが……)
「ライナスと同じでいいんじゃねぇのか?」
「バリーの件とは、どういったものなのでしょうか?」
「魔族や四天王を相手にできるような強い武器がほしいんすよ。それで、どうしようか悩んでいたんすけど、ライナスと同じように真銀で作っちまえば手に入りそうなんで、それでいいかなって思ったんす」
バリーの望みは四天王を相手にできるだけの強力な武器だ。どんな武器がいいのかまでは想像していなかったが、どうせなら一緒に作ってしまえばいいということである。
「そういうことでしたか。それでは、もし真銀を手に入れることができたなら、『精霊の水』をお分けいたしましょう」
「え、そんなんもらえるんですか?!」
『精霊の水』とは、大森林に点在する精霊が自然発生する泉から汲み取られた水のことだ。通常よりも魔力濃度が高い水で、そのまま飲めば魔力を回復することができる。そして、この水を使って触媒や道具などを作れば精霊の加護を受けられるらしい。俺は試したことがないのでわからないが、それが本当なら戦力をかなり強化できる。
「真銀と『精霊の水』を使って武具を作れば、ライナスとバリーの望みは叶いますね」
落ち着いた様子でレティシアさんが微笑む。
これで、俺達の望んでいたことには大体目処がついた。終わってみると実にあっけない。
(えっと、他に何かあるか?)
「俺もバリーもこれでいいよな」
「ああ、次は真銀を採ってくりゃいいんだろ」
まだほしいものが手に入ったわけではないが、光明が見えたことでライナスとバリーの表情は明るい。
(ローラとメリッサは何かある?)
「そうねぇ、みんなを守るために何かあればいいけど……」
「うちは、今持ってる杖を更に強化したいな」
「殴れるようにでもすんのか?」
「なんでやねん。ちゃうわ。そうやなくて、もっと魔法の効果を強くしたいんや」
脳筋なバリーの質問を即座に否定してメリッサは自分の要望を口にした。そうか、杖の強化か。
「その杖はどういったものですか?」
「聖なる大木の枝で作ってもらった杖ですねん」
「聖なる大木……ああ、ヤーグのことですね。それで作った杖となりますと、そのまま使ってもらった方がいいですよ」
レティシアさんによると、あのヤーグという大木は大森林でも滅多に見かけないくらい長生きしている樹木らしい。その若返ったヤーグの枝で作った杖ならば、真銀で作ったくらいに価値があるそうだ。
「そんなにすごいんですか」
「ええ。森を司るものの欠片ですから。それと、毎日魔力を通しておくといいですよ。そうすることで自分に馴染んできますからね」
そうすることで使用する魔力は減り、威力が上がるらしい。わずかずつではあるが、積もれば馬鹿にならない差になる。
「例えば、水の魔法を使い続けていれば、水の魔法を使うときに魔力の使用量が減り、威力が上がりますよ」
「それじゃ、光の魔法を使い続けていれば効果が上がるんですね」
「そうです。ですから、毎日欠かさず使ってください」
「毎日素振りをして武器を手に馴染ませるようなもんか」
あの杖の思わぬ効力を聞いてローラとメリッサは驚きつつも喜ぶ。そしてバリーはたまに鋭い。
「他には何かありますか?」
今度はレティシアさんから聞いてきた。俺はライナス達に視線を向けるが、もう特にはないようだ。それよりも、思った以上の成果が得られてみんな満足そうである。
(ないようですね)
「そうですか。それでは、話し合いはここまでにしましょうか」
レティシアさんが席を立つと、ライナス達もそれに合わせる。
「皆さんがどのような形で目的を果たされるのかわかりませんが、その願いが叶うことをお祈りしております。それと、久しぶりに人とお話ができて楽しかったですよ。それでは」
レティシアさんは俺達に再度微笑むと、そのまま入ってきた出入り口から出て行った。
『それでは皆さん、お帰りはこちらです』
俺達をここまで案内してくれたエルフが、別の出入り口のそばから声をかけてきた。内容がわかるのは俺だけだが。
(あっちから帰ってくれっていってるよ)
「そうか。それじゃ、行こうか」
もう用は済んだので後はこの屋敷からでるだけだ。そういえばタリスが外で待ってるんだったな。
俺達は案内役のエルフに先導されて屋敷の外まで廊下を歩いて行った。




