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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
11章 大森林に住む者達

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精霊に懐かれる

 何かしらの返事が返ってくるまで、俺達は妖精や精霊と遊んでいた。

 妖精は基本的におしゃべりな奴なので、こっちが人間や王国の話をしてやるとそれに食い付いたり、大森林やフォレスティアについて説明してくれたりする。一方、精霊の場合はその辺りをふわふわと漂っているだけだったが、中には自分の体の色を変えて自己主張する奴もいて驚いた。

 そうやって思わぬ楽しいひとときを過ごしていると、俺達のことを報告しに行っていたタリスが戻ってきた。何やら渋い顔をしている。


 『な、何をしているんだ、お前達は?!』


 妖精と精霊で溢れ返っている空洞の中を見てタリスが目を剥いた。半ば拘束されているような連中が現地住民と楽しく遊んでいるんだから驚くわな。


 (どうも私達が珍しいようで、何か妖精や精霊がたくさん寄ってくるんですよ)

 『それにしたって多すぎるだろう……』


 俺もそう思う。恐らくヤーグからもらった首飾りのおかげなんだろうな。


 (それで、処遇が決まったんですか)

 『ああ。明日の昼頃、このフォレスティアの長であるレティシア様が直々にお会いになる』


 王国でいうところの領主、あるいは国王か。そりゃこっちは嬉しいけど、あっちには会う理由なんてないはず。それとも、『融和の証』を返したことってそんなに意味があったのか?


 (私達としては嬉しいですが、また随分と偉い方のお出ましですね)

 『私も驚いている。何がどうなっているのかさっぱりわからん』


 立場は違うとはいえ、お互い下っ端であることには違いない。雲の上の人の考えることなんてわかるはずもないだろう。


 (それじゃ、ここで一晩過ごせばいいんですね)


 毛布や外套マントがあるから、場所さえあれば最低限寝床は作れる。この空洞なら椅子さえどけたら4人分の場所を確保できそうなので何とかなるだろう。


 『待て、宿泊施設に案内する。長と会う者達を地面で寝かせるわけにはいかん』


 おお、何やら待遇が改善されるようだ。ライナス達に通訳するとみんな喜んだ。

 俺達はタリスの案内でフォレスティアの奥へと進む。人間が珍しいということもあって視界に収まる範囲のエルフからは注目の的だ。表情を見ている限りでは、戸惑っている者や珍獣を見かけたような表情を浮かべる者もいた。


 (きっと人間が珍しいから注目されてるんだ)

 「いや、これは絶対ユージを見てるんやで。そんなに妖精や精霊をまとわりつかせてたら嫌でも目立つやん」


 そういえば、さっきから妖精や精霊が俺の周りを離れない。特に妖精がかしましいが、いくら首飾りがあるとはいえこんなにずっと近くに居続けるものだろうか。

 不思議に思いながら俺達は連れてきた5つの精霊と共にタリスに続く。すると、とある大きな木の半ばに作られた部屋に案内された。


 『今日はここに泊まってもらう』


 非常に簡素な部屋だが清潔感溢れている。都市部の宿屋と比べても悪くない。

 その他、用を足すときや水浴びをするときなど生活に必要なことを説明してもらう。人間と習慣が違ったら困るからな。


 『それでは明日、早めに迎えに来る。それまでに用意をしておいてくれ』


 そう言い残すと、タリスは最後まで納得できないという表情のまま去っていった。監視役のエルフ2人も引き連れてだ。とりあえず客人扱いということになったんだろう。

 これで、明日の朝まではやることがなくなった。


 俺達が宿泊用の部屋に移された頃になると、周辺は薄暗くなっていた。フォレスティアは人間でいう都市にあたるとはいえ、森の中に住む場所を作った感じだ。そのため、日が傾くと中は急速に暗くなってゆく。

 それと同時に、エルフが道として使っている枝や吊り橋近辺に精霊が集まりだした。元々淡く輝いているということもあってちょっとした街灯みたいになっている。これなら歩くときに困らない。


 (おお、うまくできているな)


 街全体で管理しているのか、それとも精霊が自発的にやっているのかは不明だが、都市機能として優秀だな。


 「確かにそうなんだけどね、もっと暗くできないかな、ユージ」

 「そうだぜ、何とかしてくれよ」


 バリーと一緒にやんわりとライナスが俺に抗議をしてきた。

 一体何を抗議しているのかというと、俺の周囲に淡く輝く精霊がたくさん集まりすぎて室内が明るすぎることにだ。いやこれ、俺のせいなのかもしれないけど、俺のせいじゃないよ?


 (なんとかって言われても、さっきから離れてくれないんだよ)

 「本を読むにはいいけれど、寝るのには向いてないわ」


 ローラにまで言われてしまうが、俺だってさっきから離れてくれと精霊にお願いをしているんだが、全然言うことを聞いてくれないんだよな。正確には、ふらふらとやって来てある程度そばにいたかと思うと離れていくのだ。そしてそれを延々と入れ替わり立ち替わり繰り返しているのである。


 (一体どうなってんだ……)

 「ユージ、外に出て待機させる精霊のところへ行ったらどうや。中におる必要はないんやろ?」


 おお、ついには出て行けと言われてしまった。まぁ、メリッサの言う通りなんだが。

 酒や娯楽がない上に旅の疲れを落としたい4人からすれば、日が暮れたのならばさっさと寝たいだろう。


 (わかった。それじゃ明日)


 特に抵抗する理由もないので、俺は自分で召喚した5体の精霊のところへ移った。

 この頃になると妖精はほとんどいない。夜は基本的に寝るからだ。そのため、俺の周囲にも既にいない。

 相変わらず精霊は入れ替わり立ち替わりやって来る。フォレスティア以外でも精霊には出会ったが、こんなことはなかったのにな。何か違うんだろうか。

 覚えていたら、明日の面会で聞いてみよう。




 翌日、ライナス達が準備を終えて部屋で待っていると、約束通りタリスがやって来た。


 『迎えに来た。ついてきてもらおう』

 (あ、その前に確認しておきたいことがあるんですけど。今から行くところは、武器は持って入れないんですよね)

 『もちろんだ。レティシア様のいらっしゃる屋敷の入り口で預かることになる』

 (それだったら、荷物と一緒に武器と防具をここに置いておいてもいいですか?)


 偉い人に会うときは丸腰にされるのが常識だ。それだったらいっそのこと、武具一式を部屋に置いておいた方が身軽でいい。全員で相談した結果決めたことだった。そのため、今朝は全員が衣服のみの軽装だ。


 『それはかまわない』

 (ついでに、表の精霊5体もここに置いときますね)

 『……ああ』


 タリスはちらりと外に視線を向けてから頷く。


 『それにしても、お前はまだ精霊に囲まれているのか』

 (これどうやって追い払ったらいいんですかね?)


 結局、あれからずっと精霊が次々とやって来ては俺のそばに漂って去っていくということを延々と繰り返していた。もう諦めて今ではなすがままである。


 『いや、私にもわからん』

 (それじゃこのままでいいですよね? 元々そちらの精霊なんですから)

 『ああ……』


 これで駄目だって言われたらどうしようかと思ったよ。

 ということでようやく、俺達はタリスの案内でフォレスティアの長であるレティシアという人物のいる屋敷に案内してもらうことになった。




 タリスの案内で俺達はフォレスティアの奥へ更に進んでゆく。

 こうやって見ていて気づいたことだが、人間の都市だと商業区、工業区、一般人居住区、裕福層居住区というように色々と区画整備されているのに対して、フォレスティアにはそのようなものが見当たらない。他の都市と交易している様子はないし、貧富の差もなさそうなんでそんな区別が必要ないのだろう。


 (見たところ、ものを売り買いしている様子がないんですけど、みんな食料や日用品はどうやって手に入れているんですか?)


 ここまで商売をしているエルフを1人も見たことがない。そして、田畑を耕している様子もない。自然と共に生きるのはいいが、どうやって生きているのかが想像できずに思わずタリスに質問してみた。


 『食料については木の実や果物を採っている。さすがに野生のものだけでは足りないから栽培はしているがな。日用品に関しては基本的に自分達で作っている。それでも得手不得手はあるから、自分で作れないものは他の者が作った物と物々交換をしている』

 (家やこの吊り橋なんかはみんなで作ってるんですか)

 『そうだ。1人で作れない物や皆で共有する物については、手の空いている者が担当するんだ』


 心なしか誇らしげにタリスが説明してくれる。原始共産体制か古き良き村落共同体といったところか。意味もなく郷愁を感じてしまうな。


 (そうだ、エルフは肉を食べないって聞いたことがあるんですけど、本当ですか?)

 『確かに食べない。動物を食べるということに忌避感があるからだ。余程追い詰められていない限り、手を出すことはないな』


 やっぱり菜食主義か。しかし仕方なく手を出す場合はあるかもしれないとは驚いた。宗教の教義みたいに頑なに守らないといけないわけではないんだ。

 そうやってタリスに色々と質問しながら進んでゆくと、前方にひときわ大きな樹木が見えてきた。言われなくてもあれとその周囲が特別なんだとわかる。


 『あの屋敷がレティシア様の住まわれているところだ』


 前を見ながらタリスが説明をしてくれるが、俺には巨大な樹木にしか見えない。ライナス達を見ると同じようだ。

 巨大な樹木から伸びている枝に架かっている吊り橋を渡ると、その枝の根元に樹木の中へ通じる穴が空いているのが見えた。その両脇には警固のエルフが2人いる。


 『タリスだ。外から連れてきた人間4人とその守護霊を連れてきた』

 『それは聞いているが、なんだ、それは?』


 門番のエルフの1人が俺を指差してタリスに尋ねる。ああ、精霊まみれだもんな、今の俺って。ちなみに、妖精はほとんど寄ってきていない。特に好奇心の強い奴は昨日に粗方来たのか、さすがに偉い人の屋敷近くは遠慮しているのか。


 『わからん。この守護霊はどうしようもないと言っているし、害はないから放っておいている』

 (あ、この精霊を離す方法を知っていたら教えてください。昨日からずっとこんな調子なんですよ)


 俺が精霊語で話しかけると再び驚いた門番のエルフだったが、お互いに顔を向けてしばらく考えた後、一言『通れ』と告げた。あ、考えるのをやめたな。

 許可を得た俺達は再びタリスに従って中に入る。

 さすがに樹木の中だけあって純木製な造りだ。まぁ、気をくりぬいているだけみたいだから当たり前なんだが。

 しばらく歩いた後、とある部屋の中に入る。フォレスティアに来てから扉というものを見たことがないのだが、ここにも当然ない。


 『私の案内はここまでだ。お前達は呼び出されるまでここで待っているんだぞ』

 (あれ、帰るんですか?)

 『いや、レティシア様との謁見が終わった後に、あの宿泊施設まで送らないといけないだろう。だから私は外で待っている』


 ここにいてもしゃべる相手がいないから門番のところへ行くのかなと想像する。理由はそれだけじゃないんだろうけど。

 それだけ言うと、タリスは俺達の反応を見ずにそのまま部屋から出て行った。


 「さて、いよいよだな」

 「どんな奴が出てくるんだろうな!」


 バリーが何かやらかしそうで不安だなぁ。気むずかしい人だったら一発で追い出されそう。


 「けど、どうせうちらは言葉が通じひんから、全部ユージ任せなんやけどな」

 「そうね、じっとしていればいいだけなのよね」


 うっ、そうだ。すっかり忘れてた。暢気にしている場合じゃなかったぞ。


 (相手側にも王国語の通訳ができる人がほしいよなぁ)


 今になってそんなぼやきが出てくる。いっそのこと、今回だけ通訳に徹してしまおうか。みんな嫌がりそうだけど。

 もうしばらく待つことになりそうだし、その辺りをライナス達と相談してみよう。

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