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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
11章 大森林に住む者達

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魔界の犬

 ライナスが不寝番として立っている場所は街道の端から約10アーテムの位置だ。そしてその更に10アーテム先に光明ライトが浮かんでいる。真下は高さ1アーテム程度の草むらだ。こいつのせいで相手の正体がぎりぎりまでわからないのが恨めしい。

 俺の視界には、その草むらが不自然に波打つ部分がこちらへ急速に近づいてくるのが見えた。再び捜索サーチをかけると光点は8つ。間違いない、さっきのやつだ。


 (我が下に集いし魔力マナよ、風の刃となりて敵を討て、風刃ウィンドウカッター


 光明ライトの真下に草むらを波打たせている何かが来たとき、俺は先制攻撃を仕掛けるべく風刃ウィンドウカッターの呪文を唱えた。正体が何かもわからないので有効かどうかわからないが、相手の出鼻をくじく必要がある。当たれば儲けものだ。

 こちらに向かって突き進んできていた何かが草むらから飛び出してきた。その瞬間、俺の放った風刃ウィンドウカッターとぶつかった。


 『ギャン!!』


 どうも頭から突っ込んだらしいそれは、犬が上げる悲鳴のような声を出しつつ風刃ウィンドウカッターに弾かれて大きく左側へと転がっていく。よし、うまくいった!

 そいつは全長1アーテム以上、1アーテム半か? それくらいの大きさの真っ黒な犬に見えた。少なくとも大型犬くらいはある。そして、もう1つ特徴的なのがその目だ。赤い瞳が暗く光っている。野犬なら小森林でも見たことがあるが、こいつは違う。


 「うぉ?!」

 「バリー!」


 俺が自分で弾いた黒い犬を観察している間に、後続の同種が次々と草むらから出てくる。

2番目に飛び出してきた黒い犬は、バリーに噛みつこうとして槍斧ハルバードに阻まれたようだ。ライナスが横から切りかかろうとすると、すぐにバリーから離れて距離をとった。

 3匹目からは俺達を無視して、近くの冒険者や方陣の形に停車している荷馬車の脇などに潜り込んでゆく。すぐ近くで怒号や悲鳴が聞こえてきた。非常にまずいがまずは目の前の相手を片付けないといけない。


 「「我が下に集いし魔力マナよ、暗闇を照らせ、光明ライト」」


 俺達が黒い犬の第一撃を退けた後に、ローラとメリッサがすぐ光明ライトを発動させて自分達のパーティの近くに浮かばせる。視覚に頼る人間にとっては光源は多いほどよい。他の冒険者も光明ライトを発動させているらしく、周囲が明るくなってきた。

 俺が魔法を直撃させた黒い犬とライナスとバリーに押し返された黒い犬が、8アーテムほど先でうなり声を上げながらこちらを睨んでいる。驚いたことに風刃ウィンドウカッターの直撃を受けた方も元気だ。


 (ああそうか。こいつら黒妖犬ブラックドッグか。何でこんなところに……)


 そういえば以前オフィーリア先生に習ったな。魔界にいる平均的な犬だっけ。風刃ウィンドウカッターを受けて当たり前のように立っている犬が平均的だなんて信じたくないが。


 「黒妖犬ブラックドッグ?! 魔界にいる犬やんそれ!」

 「1匹はユージの風刃ウィンドウカッターが直撃したのに生きてんのか!」

 「接近戦だとかなり厄介だな。呪文を唱えてる余裕がないよ」

 「来るわよ!」


 小森林にいるはずのない魔物が目の前にいて俺達は動揺してしまうが、相手は待ってくれない。いや、逆にその動揺を好機と捉えたらしく、2匹の黒妖犬ブラックドッグは一斉に襲いかかってくる。


 「我が下に集いし魔力マナよ、彼の者を縛れ、拘束バインディング


 黒妖犬ブラックドッグが飛び跳ねた直後、メリッサがバリーに向かって来た1匹に魔法をかける。しかし、まるで何事もなかったかのようにその黒妖犬ブラックドッグはバリーに突っ込んできた。


 「うそ?! 効かへんの?!」


 魔法はちゃんと発動していたようだから、恐らく抵抗されたんだろう。今まで王国内の魔物だと必ずといっていいほど魔法は効いていたから、当たり前のように抵抗されると驚くよな。

 2匹の黒妖犬ブラックドッグはそれぞれライナスとバリーに口を開けて飛びかかる。どちらも長剣ロングソード槍斧ハルバードで防いだので無傷だ。それにしても、こいつらの歯は丈夫だな。剣を受け止められるのか。


 「光槍ライトニングスピア


 ライナスが長剣ロングソード黒妖犬ブラックドッグの攻撃を受け止め、犬にしてはでかい図体は何とか押し返す。そこへ、ローラが光槍ライトニングスピアを撃ち込む。何気に着地直前を狙うというえぐいことをしている。

 そうか、ローラは光系統ならもう無詠唱でもほとんど失敗しなかったんだっけ。羨ましいなぁ。


 『ギャン!!』


 着地と同時にローラの光槍ライトニングスピアを喰らった黒妖犬ブラックドッグは吹き飛ぶ。光槍ライトニングスピアが腹を貫通したせいで内蔵をぶちまけながらだ。俺の風刃ウィンドウカッターよりも明らかに効果がある。


 (ああ、そうか。光の魔法は効果が高くなるのか)


 そういえば、魔界に住む魔族や魔物は闇属性であることが多いから、光の魔法が効きやすいんだったな。すっかり忘れてた。

 ローラの魔法攻撃で傷ついた黒妖犬ブラックドッグはどう見ても瀕死だ。しかし、まだ諦めていないのかこちらに顔を向けて威嚇している。大した生命力だな。

 そんなもう動けない黒妖犬ブラックドッグに止めを刺そうとライナスが前に出た。こっちはもういいだろう。

 一方、バリーが相手をしている黒妖犬ブラックドッグは、攻撃が弾かれる度に右から左から攻めてくる。バリーも応戦しており、何度か槍斧ハルバードを叩きつけているんだがなかなかしぶとい。いくら何でも丈夫すぎないか?


 「我が下に集いし魔力マナよ、炎の槍となりて敵を討て、炎槍ファイアスピア


 バリーが相手をしている黒妖犬ブラックドッグにメリッサが炎槍ファイアスピアを撃ち込む。ローラと同様に着地直前を狙ってだ。


 『ギャウン!!』


 黒妖犬ブラックドッグは半身を燃え上がらせながらのたうち回る。


 「我が下に集いし魔力マナよ、彼の者を縛れ、拘束バインディング


 そこに俺が先程メリッサが抵抗された拘束バインディングをかける。すると、暴れていた黒妖犬ブラックドッグがぷるぷると震えながら硬直した。お、弱っているとやっぱり効きやすいのか。


 「よっしゃ、もらった!」


 そこへバリーが槍斧ハルバードを叩き込んで黒妖犬ブラックドッグの頭をかち割った。

 ライナスの方を見ると既に止めは刺し終わったらしく、バリーが黒妖犬ブラックドッグに一撃を入れるところを見ていた。


 (やっと終わったな)

 「ああ。ユージの魔法を受けて死ななかったのには驚いたよ」

 「うちの拘束バインディングも抵抗されてしもたしな。無茶苦茶厄介やん」

 「手強い相手だったよな!」


 突然現れた場違いな魔物に俺達は驚いていた。一応、知識として黒妖犬ブラックドッグのことは知っていたが、実際に戦ってみると予想以上にしぶとい。これで魔界では平均的な犬なんだよな。


 「確か魔界の犬なのよね。どうしてそんなのがここにいるの?」


 本来なら小森林にいないはずの魔物がいることにローラが疑問を投げかける。しかし、俺達にわかるわけがないので誰も答えられない。


 (あ、そういや他はどうなってんだ?)


 目の前の敵を倒したことで安心していた俺達だったが、黒妖犬ブラックドッグは南側から襲ってきた奴だけでも8匹いた。そうなると他にも襲われている冒険者や商人がいるはず。


 「そうだ、早く助けに行かないと」

 「あれ、でも静かだぜ?」


 ライナスが焦って周囲を見るのに合わせて俺達も周りを確認してみたが、戦っているようなところはない。代わりに、うめき声や泣き声が聞こえてくる。


 「他のところも終わってるみたいやな」


 再び襲撃されないか警戒している冒険者は除いて、他は生存者の確認や負傷者の治療をしているようだ。


 「みんな怪我はしてない?」


 ローラの問いかけに3人は首を縦に振る。ライナスとバリーについてる血糊は返り血か。


 「それじゃ、私は他の人の治療をしてくるわ。あ、メリッサも水の魔法を使えるんだから、一緒に行きましょう」

 「せやな。それじゃちょっと行ってくるわ」


 そう言い残すと、ローラとメリッサは荷馬車のある方へと向かっていった。まずは商人や雑役夫から治療するようだ。




 一夜明けて情報を整理すると今回の被害がわかってきた。

 まず、隊商を護衛していた冒険者はほとんどが死傷していた。最初に大型犬を相手にする感覚で戦ってやられた冒険者が多かったそうだ。

 次に商人や雑役夫だが、こちらは冒険者の合間をすり抜けてきた黒妖犬ブラックドッグによって多数が殺された。護衛の冒険者で苦戦するのだから非戦闘員が敵うはずがない。

 一方、荷物は全くの無傷だった。黒妖犬ブラックドッグがどんな目的で襲ってきたのかは不明だが、どう考えても魔物が荷物欲しさに襲うとは考えられない。そのため、これはある意味当然ともいえる。

 そして、黒妖犬ブラックドッグについてだが、どれだけの数が襲ってきたのかは結局わからなかった。これだけ混乱して被害を受けてしまっては正確には数えられない。また、倒した黒妖犬ブラックドッグは4匹だった。随分と少ないのは奇襲されたのと黒妖犬ブラックドッグ自体が強かったせいだ。つまり、襲撃してきた黒妖犬ブラックドッグの大半は引き上げたのである。


 「はぁ、やっと終わった」

 「ああ腹減ったぁ」


 ライナスとバリーは死んだ冒険者や商人を火葬したあと、その遺体を街道の脇に埋めていた。また、ローラとメリッサは街道の掃除だ。遺体や血の臭いをかぎつけた獣や魔物が寄ってこないようにするためだ。


 「散々だったわね」

 「黒妖犬ブラックドッグってなかなか厄介やな。魔界ってあんなんが当たり前のようにおるんか」


 出発の準備に追われている雑役夫を尻目に、半数にまで数を減らした冒険者達が街道上に座るなどして休んでいる。

 たまにやって来た隊商が脇を通り過ぎたり、事情を聞いてくる商人がいたりする。そんなときは冒険者が誘導したり、昨夜の顛末を話したりしていた。


 (けど、生息地に関係なくあんなのと戦わないといけなくなるかもしれないのはきついな)


 獣はもちろん、魔物も主な生息地というものがある。なので、どこにどんな生き物が生息しているのかということを知ってから、その情報を元に冒険者をはじめとして商人や旅人は対策をするのが一般的だ。

 しかし、今回のように何の脈絡もなく魔界の魔物が小森林で襲ってくるとなると、対処しきれないことが多くなってしまう。そうなると、常にあらゆることに備えなければいけない。そんなのは無理だ。


 「何の証拠もないけど、魔界の魔物をけしかけてきたんて、やっぱり魔族なんかな?」

 「うーん、確かにそれしか考えられないんだけど」


 いきなり魔界の魔物がこっちまでやって来るとは考えにくいから、そう考える方が納得しやすい。ただそうなると、こんなところまで魔族の襲撃を考えて行動しないといけなくなるのか。何にしても面倒だな。


 「おい、みんな。出発だってよ!」


 ライナス達を雇っていた商人は幸いなことに生き残っていた。その商人から出発の準備ができたということをバリーが言付かったようだ。西の方を見ると動き始めている荷馬車が目に入る。


 「続きは荷馬車に乗ってからにしようか」


 ライナスがそう言うとローラとメリッサは頷く。バリーは既に荷馬車に乗っていた。

 全員が乗り込んだところで雑役夫が確認してくる。4人を見た雑役夫は1つ頷くと再び前の御者台に向かった。

 そしてすぐに荷馬車が動き出す。かなり遅い出発だった。

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