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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活
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幼い子供とのファーストコンタクト

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 俺、木村勇治がこちらにやってきて4年が過ぎた。やって来たといってもどうやら魂だけのようで、こちらでは幽霊みたいになっている。そして、呪術師アレブというばーさんから、俺はライナスという赤ん坊の守護霊だと聞かされたときは本当に驚いた。

 既に死んでいるエディスン先生を紹介してもらってこの4年間でこちらの世界の常識や魔法を教えてもらったが、どうも俺の出来はいまいちらしい。要領の悪さはどうにもならんからなぁ。

 現在の俺はエディスン先生から一通りのことを教えてもらって自主学習をしているところだ。エディスン先生から渡されたぶ厚い魔法の教科書の中で興味のある呪文を見ては試している。魔法の習得方法は既に教えてもらっているので、興味のある魔法から覚えていけるのは楽しい。

 ただし、最近微妙に困ったことがある。それはライナスが自分の脚であちこち動き回るようになってきたことだ。霊体なので普段は見えないから問題ないのだが、魔法の練習をするときに見つかってしまいそうになるので、呪文の練習をする機会を窺うのが大変になってきた。特に他の子供と遊んでいるときは厄介だ。


 「先生。最近ライナスが動き回るようになって魔法の練習がしにくくなってきてるんですけど、どうにかなりませんか?」

 「他の子達と遊ぶようにもなってきていますからね。昼間に練習するのは難しくなってきましたか」


 ライナスが子供と遊ぶこと自体はいいことだ。ケチをつけているこちらに問題があることくらいは自覚している。しかしだ、そのライナスのために魔法の勉強をしているこちらとしてはライナスを理由に修業ができないとはいえない。半径20アーテムの制限は最近更に厳しく感じるようになっていた。


 「しばらく出かけてきますからそのまま自習していてください」


 とある日の夜、いきなりエディスン先生はそう俺に伝えてきた。珍しい、というより出会ってから初めてじゃないか?


 「それはいいですけど、どこに行くんですか?」

 「アレブ殿に近況を報告してきます。やっと報告できるようになりましたからね」


 懐かしい名前を聞く。そういえば、ばーさんとは初日以来会っていないな。

 というか、エディスン先生はずっと報告していなかったのか。4年も放っているところを見るとばーさんは気にしていないのかもしれないが、会社だったら許されないよなぁ。


 「しばらく帰ってこないんですか?」

 「いえ、そんなに長くはかかりませんよ。単なる報告ですから」


 そう言うと、エディスン先生は「では」と言い残して俺の前から消えた。

 まぁ、最近は自習中心なのでエディスン先生がいなくても割と何とかなるけどな。


 皆が寝静まっている丑三つ時、かどうかは時計がないのではっきりとわからないが、とにかく今は真夜中だ。霊体になった俺にとってはもっとも勉強がはかどる時間帯である。

 エディスン先生が報告に行ってから数時間が経過した。一晩くらいなら本を読んでるだけで時間が過ぎるので気にしていなかったが、いつの間に帰ってきていたのか、気が付けば俺が勉強している姿をエディスン先生はじっと見ていた。


 「あれ、帰ってたんですか」

 「勉強の邪魔をしてはいけないからね。一息つくのを待ってたんですよ」

 「待ってた? 何か話でもあるんですか?」


 自習のときは俺が質問をするまで自分の作業をしているエディスン先生が、今日に限って待っていたとは一体なんだろうか。珍しすぎて怖い。


 「近いうちに、君にライナス君と接触してもらうことになります」

 「え、いいんですか?」


 俺ってあくまでも陰ながらライナスを支えるんじゃなかったんだろうか。それなのにライナスと接触していいの?


 「ええ。いずれはライナス君にも君を認識してもらわないといけないですからね。彼がこれだけ動き回るようになるともうひっそりと修業することも難しいですし、いよいよ君にも彼と関わってもらうことにしましょう」


 おお、ついに俺も仕事をすることになるのか。今まで勉強してきた成果を発揮するときがきたわけだ。


 「それで、接触って昼間に本人の目の前に現れたらいいんですか。まずはお友達として」

 「彼と仲良くなってもらうことは重要ですね」


 そうだよな。守護対象と仲が悪かったら困るもんな。俺だってどうせなら仲の良い奴を守りたい。


 「ですから、最初は夢の中で接触してもらいます」

 「夢の中? 俺の姿を見せるんじゃないんですか?」


 思っていた出会い方と違って俺は当惑した。普通に会っちゃいかんのか。いや、幽霊との出会いなんてそもそも普通じゃないのはわかっているが。


 「いきなり霊体で出会うと、恐れて避けられてしまう可能性がわずかにあります。ですから、まずは夢の中で彼に君のことを認知してもらい、その上で霊体の姿を現すべきでしょう」

 「なるほど」


 確かに、幽霊がいきなり目の前に現れたら驚いて拒否られる可能性があるな。霊体の姿に慣れてその辺りの感覚がすっかり麻痺していた。


 「そこで確認なんですが、君は精神感応テレパシー入夢ドリームエンタリングという無属性の魔法を使えますか?」

 「いえ、使えません」


 エディスン先生との会話では念話が使えるから精神感応テレパシーは必要性が低いし、入夢ドリームエンタリングって試せる相手がいないからな。勝手に村人の夢に入るのも悪いしね。そういった理由でこの2つの魔法は習得していなかった。


 「では、すぐに習得してください。旅に出てからは人と会話しないといけない場面もあるでしょうから、精神感応テレパシーくらいは身に付けておくべきでしたね。これからは旅先で必要なものは何かを考えながら習得する魔法を選んでください」


 うっ、にっこり微笑みながら怒られた。確かに今までは旅先で必要かどうかなんて考えていなかったな。エディスン先生の言う通りこれからは改めないと。


 「あの、練習相手がいないんですけど」

 「ライナス君を相手にすればいいでしょう。どうせ近いうちに彼と接触するんですから、今のうちに存在感を示しておくのも悪くないです」


 いきなり何もないところから声をかけられるなんて怖いと思うんだけどなぁ。なんか悪い意味で存在感を示してしまいそうな気がするのは気のせいか?

 しかしそれでも、エディスン先生以上の案を出せなかった俺は、結局その通りに練習することになった。




 霊体はその性質上しゃべることができない。見ることと聞くことしかできないからだ。そして、物理的干渉はできないが精神的干渉はできる。この精神的干渉は2つあり、直接相手に触れる方法と魔法を使う方法があった。

 俺が今まで『念話』と言って使ってきたのはこの魔法を使う方法だ。ぶっちゃけると精神感応テレパシーのことである。それじゃもう覚えているじゃないかと言われそうだが、実は俺に話しかける相手──ばーさんとエディスン先生──が精神感応テレパシーを使っていてくれたのだ。そして俺の思考を読み取ってくれたので会話が成立していただけである。まぁ、その分無条件に頭の中身を読まれてしまう可能性が高いのだが、意外と精神の壁を突き破って心の奥底を読み取るのは難しいらしい。ばーさんやエディスン先生はあっさりやってのけそうだけどな。まぁ、今の俺に隠すようなこと何てないからまだいいけどね。

 それはともかく、ライナスと接触するために、俺は精神感応テレパシー入夢ドリームエンタリングという魔法を覚えることになった。ライナスは魔法を1つも覚えていないので、今度は俺が習得しないといけないのだ。幸いどちらも無属性の魔法なので俺の持っている本にも載っている。

 精神感応テレパシーは他者と念話を利用して会話をすることができる魔法だ。相手と接触するかその近くにいないといけない。一方、入夢ドリームエンタリングは相手の夢の中に入り込む魔法だ。これも相手の近くにいないといけない。そして更に、この魔法を取得するためには精神感応テレパシーが必要となる。確かに相手の精神に感応できないと夢の中なんて入れないわな。

 ということで、まずは精神感応テレパシーだ。今までいくつも魔法を覚えてきたので習得するコツはわかっている。この場合だと、接触していた方が成功しやすいんだよな。だから自分の半透明な腕をライナスの体にめり込ませて呪文の詠唱をしようとするのだが、昼間のライナスはあちこちと落ち着きなく動くのでこの方法での練習は難しい。そこで呪文の詠唱時間とライナスの行動パターンを考えた結果、飯時と寝る直前に練習することにした。飯を食ってるときはさすがにじっとしてるし、寝る直前ならベッドの中なのであまり動き回れないからだ。

 今のライナスは朝飯を食っている。父親のジェフリーはとうの昔に畑へ出かけたので家にはいない。

 最初は本を見ながらゆっくりと詠唱する。いきなり呪文を丸暗記できるほど俺は記憶力が良くないからだ。

 そうして詠唱が終わると慎重にライナスへ話しかける。


 (ライナス……ライナス……)


 こうやって名前を繰り返して呼ぶ。まずはこちらの呼びかけに反応してくれるかを確認するためだ。

 すると、呼びかけられたライナスは全身をびくっと震わせて顔を上げる。そして俺も同時にびくっとした。いや、初めてのことなんで慣れてなくてね、ちょっと驚いたんですよ。


 「ライナス、どうしたの?」

 「……かあさん、いまよんだ?」

 「? いいえ、呼んでないわよ」


 ライナスの反応に気づいた母親のケイトが声をかけたが、当然ライナスの質問には首を横に振るしかない。

 釈然としないライナスであったが、それきり自分を呼ぶ声はしなくなったので再び食べ始めた。


 (そうか、ライナスが変に反応したら周囲の人が気づくわな)


 魔法は思った通りにうまくかけられたが、周りの反応にまでは気が回らなかった。

 ライナスが再び食べ始めたのを見たケイトは、抱えた赤ん坊に母乳を飲ませ始める。

 そうそう、話は逸れるが、ライナスには現在弟と妹がいる。ライナスの隣に座っている小さな男の子が今年2歳になったフレッドだ。そして母親に抱えられている赤ん坊が今年生まれたばかりの妹デリアである。

 ライナスに弟と妹ができたのだ。これはつまり、ライナスが家業を継ぐ必要性が低くなったということである。これでライナス近辺の黒い陰謀もかなり収まるだろう。それでもそんなことに関わるつもりはないけどな。

 それはともかく、このままライナスで練習し続けると、最悪ライナスが変人扱いされてしまいかねない。そうなると、俺が練習を続けるためには他の対象を見つけないといけないな。


 (フレッド……フレッド……)


 例えば、ライナスの隣にいる弟君に呼びかけるとか。

 反応はライナスと同じで、全身をびくっと震わせて顔を上げた。そして周囲を見る。

 今度は弟のフレッドが挙動不審な態度を取ったのでケイトが呼びかけるが、フレッドは「わかんない」と言って再びスープを食べるのに集中した。


 (うーん、実験は成功したんだが……)


 なんか小さい子供に悪戯をしてるみたいで気が引けるな。こりゃじっとしてるからってあんまり精神感応テレパシーの練習はできそうにない。

 結局、朝飯のときはそれっきりにした。

 食べ終わったライナスは同年代の子供と遊ぶためにすぐ外へ出た。俺もそれに引きずられるようにして移動する。

 子供の歩く速度で周囲の景色が移動する中、俺は作戦を練り直した。ライナスが完全に1人になるときはほとんどない。そして、誰かがいるときに声をかけてライナスが反応すると、さっきのケイトのように不審に思ってしまう。それを繰り返せばさっきも言ったように変人扱いだ。だからあまり頻繁に接触はできない。

 精神感応テレパシーの魔法については成功したので、後は何度か使って慣れるだけだ。問題はそのタイミングである。

 結局、名案は思い浮かばず、今まで通り飯時に1回ずつ、そして寝る直前に1回だけ接触することにした。もし昼間1人になるときがあったら、もちろんその機会も利用する。

 ただし、常に名前だけを呼びかけていたら不気味がられるだけだと思ったので、回を重ねる毎に短い言葉をかけていくようにした。お話しで主人公が囚われのヒロインからテレパシーで話しかけられるようにだ。今後のこともあるので、是非とも仲良くなっておきたい。


 そうして1週間ほど精神感応テレパシーでライナスに少しずつ話しかけていった。当初は不安がっていたライナスだが、俺が害のない幽霊であることを理解してくれてからは、1人のときだと会話に応じてくれるようになった。今ではライナスの暇つぶしのための話し相手になっていいる。


 (ねぇ、ユージ、おはなししようよ!)

 (おう、いいぞ!)


 夕飯後は大抵弟のフレッドと遊んでいるライナスだが、自分用の藁葺きベッドに潜り込むと眠るまでの間は暇になる。そうなると俺の出番だ。こちらの世界の童話なんて1つも知らないが、俺はかつて読んだことのある本の記憶を引っ張り出してきて語ってやった。ライナスはそれを嬉しそうに聞き入ってくれる。


 (……ということになりましたとさ。おしまい)

 (……すぅ)


 と、こういう風に俺の話を聞きながら寝ることが多くなってきた。最早ライナスの守り役だ。

 よしよし、この1週間でだいぶ仲良くなったな。本の説明によると、心理的な抵抗が低いほど入夢ドリームエンタリングは成功しやすいとあるので、あとは純粋に呪文の詠唱に成功するかどうかだろう。


 「よし、やるか」


 ということで、俺はもう1つの課題であった入夢ドリームエンタリングの詠唱を始めた。

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