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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
10章 次なる指針

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─幕間─ 試練の用意

 ライナス達の相談を受けた後、わしは日々の仕事をこなしつつ目的を達成するための手を1つずつ打ってゆく。もちろん、ライナス達と相談したこともその中に入る。

 受けた相談の中で、大森林に往く方法と『融和の証』をジルに返す方法については既に解決したので放っておいてよい。ライナスの光の塊の制御は妖精の助力次第じゃな。妖精から助力を拒否されたときに備えて、何か見繕っておくとするかの。


 「さてそうなると、残るはあの間抜け関連か」


 フールがライナス達に接触したことは聞いておったから、いずれ怪しまれることは避けられなかったじゃろう。しかし、ローラの報告を聞いて驚いたわい。あやつ、今までよく正体がばれんかったの。

 あやつとは今晩この寂れた倉庫で会うことになっておる。ライナス達と会ってから数日が経過しておるから鉢合わせすることはない。王城内にあるわしの住処ではなくこの倉庫なのは、ローラが既にあやつを手配している可能性を考えてじゃ。少なくとも、表だっては歩けなくなっておるだろうしの。

 そんな事情じゃから、今晩は浮浪者に扮した護衛はおらぬ。まぁ元々いなくても困らんが、今回のような特殊な事情がない限りは常識に従う方がよい。


 「ふむ、来たかの」


 倉庫の扉が開く音がすると足音がこちらに近づいてくる。隠す様子など全くないとはあやつらしい。


 「やぁ、久しぶり」

 「ふん、よう来たの」


 相変わらず腹立たしい笑顔じゃの。どうにも胡散臭いわ。


 「あれ、どうしてそんなに不機嫌なのさ?」

 「お主の間抜けっぷりに呆れておるんじゃよ」


 わしにそう言われたフールは、不思議そうな様子でこちらを見ておる。まだ何も話しておらんからそれも仕方なかろう。


 「間抜けっぷり? そんな大きな失敗ってしてたっけ?」

 「まずはそれについて話してやろう」


 わしは先日ローラから聞かされた話をそのままフールに伝えてやった。どうせ反省なぞせんのじゃろうが、どのくらい驚くのかとその様子を観察する。


 「あー、うん、そーいえばそうだったなぁ」

 「わざとやっとったのか?」

 「いや、そういうわけじゃないんだけどね。ばれたらすぐに逃げたらいいやってくらいの気持ちだったから、そこまで入念に細工はしてなかったんだよね」


 ふむ、驚かなんだ代わりに微妙な表情をしておるな。それに、わかってやっておったのか。


 「そのせいで今になってばれるとはの」

 「そんな50年や100年先のことなんてわかんないよ。わかってたらちゃんとやってたって」


 過去の自分に首を絞められておったら世話はないわ。そういうところが信用できんのじゃ。


 「まぁ、過ぎたことは仕方ないわい。こうなると、以前も言うておったがいよいよ表立っては活動できんようになったの」

 「そうなんだよね。もっとも、裏で動けばいいだけだから致命的な問題じゃないけど」

 「ライナス達もお主のことを調べると言うておったから、せいぜい気をつけるんじゃな」

 「それってたぶん教会を使ってでしょ? なら大丈夫、もう聖騎士団は抜けたから」


 まるで悪戯が成功した子供のようにフールは笑う。小憎らしいが、こちらの都合で動いてくれるというのならばこれ以上は言うまい。


 「この話はこのくらいでよかろう。本題に入るぞ。先日、ライナス達と今後について話をした。その結果、今のライナス達に不足しておるものをお主に補ってもらうことにする」

 「へぇ、なんだろう?」


 興味深そうな視線をフールがわしに向けてくる。


 「戦闘経験じゃ。特に魔族と魔界の魔物とのな」

 「つまり、魔族や魔界の魔物をけしかければいいわけ?」

 「そうじゃ」

 「あれ? ダンのところで戦ってなかったっけ?」

 「ダンはともかく、魔族との手合わせの数は多くて困ることはないじゃろう。それに、魔界の魔物とはまだ誰も戦っておらぬぞ」

 「あー、それはちょっと失敗したかなぁ」


 わしの話を聞いたフールは渋い顔をする。本来なら先の王国軍との戦闘で手合わせしている予定じゃったからな。それが何の偶然かライナス達の誰も魔物と直接対峙しておらん。


 「なるほど。確かにそれなら今のうちに経験を積ませておいた方がいいよね。あ、それなら最初は数を絞り込んだ方がいいのかな?」

 「そうじゃな。まずは慣れさせる必要があるじゃろう。それと、魔界の魔物はこちらで用意しよう。魔族はどうする?」

 「お願いするよ。僕の言うことなんて誰も聞いてくれないだろうし」


 そうか、確かフールは元人間ということで魔族の受けが悪かったのう。そうなると、魔族を送り込むのは難しいか。


 「ならば、最初は魔界の魔物を相手にさせるとしようか」

 「うん、わかった。それで、ライナス達はどこにいるのかな?」

 「今は恐らく王都じゃろう。ライナス達の次の目的地は大森林のフォレスティアじゃ。小森林の聖なる大木に会ってから向かうと言うておった」

 「たぶん、ウェストフォートに寄るはずだから、仕掛けるなら小森林の中の南回り街道かな」


 妥当じゃの。小森林の中でもよいかもしれんが、森に住む魔物や獣がいささか邪魔じゃしな。


 「中央山脈の南側に転移用の魔方陣を用意してあるから、それを使うがよかろう」

 「ああ、以前使ったやつね。ということは、北の小森林を突っ切らないといけないのか」


 以前というのは、魔物の集団で中央山脈の北側を荒らし回っていたときのことじゃな。最終的にはライナス達に単眼巨人サイクロプスを討ち取られておったか。


 「そこへの転移魔方陣はわしが用意してやるからここから飛ぶがいい。魔物はベラ様が届けてくださるじゃろう」

 「え、なに? 今すぐ行くの?」

 「北の小森林をどのくらいで縦断できるかによるの」

 「すぐいった方がいいね……」


 おうおう、項垂うなだれておるわい。見ていて小気味よいぞ。


 「それと、いきなり魔物送りつけられても僕は手なずけられないよ?」

 「安心せい。さすがにそこは考えておるわ」

 「そりゃどーも」


 ベラ様が調整した魔物ならフールでも扱えるじゃろう。

 ふむ、これで必要な話はしたか。


 「そうだ。ひとつ忘れてた。ねぇ、ライナスの光の剣みたいなのはどうなったのさ?」

 「あれか。今のところは制御不可能らしい。とりあえず出すことはできるが、それで精一杯と言うておったぞ」

 「使えるように修行させなくていいの?」

 「よくはないが、一旦保留じゃ。大森林へ行った成果次第でどうするかを決める」

 「なるほどね。わかったよ」


 フールは自分の役割がわかると踵を返す。


 「明日、再びここへ来るとよい。転移魔方陣を用意しておく」

 「うん、それじゃ今日1日都会を満喫しておくよ」


 振り返りもせんまま言葉を返すと、あやつは倉庫から出て行った。


 「それではわしも帰るとするか」


 まずはベラ様に今回のことを報告してから魔物を用意してもらうとして、次に転移魔方陣か。少し忙しくなりそうじゃの。

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