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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
9章 廃都にある証

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─幕間─ 道化師の独り言

 そういえば、ベラと共同で研究をすることになったのはいつからだっけ?


 僕の名前はフール。魔王デズモンド・レイズ陛下の四天王の1人だ。最初は道化師として拾われたんだけど、人間の住む地を攻めることが決まってからは王国で情報収集をしている。人間に紛れてよく魔族とばれないねって思うかもしれないけど、元々僕は人間だから化ける必要がないんだよね。だから魔王軍の王国侵攻が始まって以来、ほとんどを王国で過ごしている。

 そもそもなんで人間の僕が魔王の配下になっているかなんだけど、実は魔王様が魔界を統一する前から魔界に出入りしていたりする。魔族と人間が戦争する前はたまにあったことなんだ。それで僕も公私共にそれぞれの理由から魔界に出入りしていたんだよね。そのときに魔王様と出会い、その配下になったってわけ。その後は四天王としての仕事をしている。

 それじゃ、ベラとはいつからどんな研究を一緒にやっているのかというと、今から100年くらい前かな。四天王になるよりもずっと前だから結構付き合いが長いんだよ。

 え? 人間はそんなに長く生きられないって? あ、うん、確かにそうだよね。だから正確には元人間になるのかな。この辺のいい加減さをよくベラにも怒られるんだけど……それはいいか。


 それで、どうしてそんなに長く生きられるのかっていうと、実は僕、死霊魔術師ネクロマンサーなんだ。それで生き物の生死に関して研究していたんだけど、どうしても人間の寿命だけでは時間が足りなかったから、人間以上に生きられるように自分自身を改造したんだよ。

 普通、何としてもこの世に止まろうとするときは、今の体をできるだけ延命する方法や霊体になる方法を採用する。もちろん僕も最初はそうしていたよ。研究を続けるために時間がほしかっただけだから、別にまっとうな方法・・・・・・・で延命できるならそれで充分だったしね。

 けど残念ながら、当時の世の中は殺し殺されるのが当たり前だったから、それにも備えておかないといけなかった。僕は静かに研究したかっただけなのに、いきなり襲ってくる輩もいたんだ。酷いと思わないかい?

 だから仕方なく、いきなり襲われても死なないように対策を講じたんだ。いくつもある中から僕が選んだ方法というのは、殺害される度に相手へ憑依する方法だ。

 どうしてこの方法を選んだのかと言えば、完璧な防御魔法というものが存在しない以上、敵対者の魔法を防ぎきれずに死んでしまう可能性があったからなんだ。実際、僕の知り合いにもかなり高度な防御魔法を展開していたのに死んだ魔法使いが何人かいた。中には僕よりも優秀な奴もいたのにね。

 そうなると、絶対に生き残れる方法を編み出さないといけなかった。そしてかなり悩んで行き着いた結論が、さっき言った僕を殺した相手へ憑依すると言う方法なんだ。詳細は省くけど、殺した相手を乗っ取るわけ。死霊魔術師ネクロマンサーの僕らしいやり方でしょ?

 これなら、1度殺されると僕は死んだことになるからもう狙われることはないし、他にも自分のそれまでの知識と経験の他に、乗っ取った相手の能力や記憶も利用できるんだ。別の対象者に移ると乗っ取った人物の能力は使えなくなってしまうけど、これが地味に便利だったりする。


 これでめでたしめでたし、で終わってくれたらよかったんだけどね。残念ながらそう都合よくはいかなかった。

 何が問題だったのかというと、僕自身の魂が次第に活力を失いつつあることに気づいたんだ。初めて知ったときは驚いたね。何しろ死霊魔術師ネクロマンサーとして長い間生死に関する研究をしていたけど、こんな現象は初めてだったから。

 とは言っても放っておくわけにはいかないから研究したよ。何せ自分に関することなんだから必死さ。今までやってきたことを再度洗い直した後、どこか見落としていないか、新しい解釈はできないかということを調べつつ、全く新しい手法も考えた。

 ところが、ほとんど進展はなかった。本来100年に満たない時間しか生きられないはずの人間が、数百年生きようとすると当然どこかに無理が生じる。肉体なんかはわかりやすいだろう。物理的にそういうふうにしか作られていないんだから、延命措置を施すほど問題が発生する。だからこの場合は、全く新しい肉体を用意することで問題を解決した。自分を殺した相手を乗っ取るっていうのもその1つだね。

 でも魂についてはそういうわけにはいかない。体はいくら入れ替えられても、魂は交換できないしね。しかし不思議なこともあるもんだ。以前、僕は研究で1つの魂を何百という肉体に連続して入れ替えるという実験をしたことがある。このときには魂の劣化なんて起きなかったんだよ。それなのに、それよりも肉体の入れ替え回数が遥かに少ない僕の魂が活力を失ってしまった。つまり、魂に重要な影響を及ぼしているのは時間というわけらしい。

 困ったことに、根本的な解決はまだしていない。ある程度の目処はついたけど、足りないことはまだある。でも、延命策については一応用意できた。ベラに協力してもらったおかげだ。

 研究が行き詰まっていたときに出会ったんだけど、彼女は彼女でなかなか厄介な命題に取り組んでいるなぁ。

 それはともかく、ベラのおかげで僕の魂を一時的に活性化させる理論が完成した。どんなものなのかというと、他人の命を活力に変換する魔法なんだ。ほら、魂そのものが次第に元気がなくなっていくっていうのなら、他人の命から搾り取ってくればいいでしょ?

 で、実際に何度か試してみたんだけど、ある一点以外はうまく動いてくれた。一応ほぼ理論通りに動いてくれたんだけど、1人の命から搾り取れる活力ってほとんどないっていうことがわかったんだ。どうやら変換効率があまりにも悪いのが原因らしい。そのまま取り込めれば一番よかったんだけど、残念ながらそれはできないんだよね。各個人で魂の波動なんかが違うのかもしれない。残念ながら、詳しい理由はまだわかっていないんだ。

 それはともかく、自分のためにも大量の命が必要だったのでどうしようか考えていたら、ちょうど同じ時期にベラも実験のために大量の命が必要だと僕に相談してきた。お互いに協力し始めてから20年ほど経ったときかな。

 実験の成果を取り合うなんて無駄なことはしたくなかったんでお互いの目的と手段を打ち明けた結果、何とか折り合いが付いたので実験を実行することにした。


 この頃の僕だけど、以前乗り移った人物が聖騎士だったということもあって、光の教徒の教団に所属していたりしていなかったりしていた。そして、そんなときに王家からのお誘いがあって、以後しばらくの間は王家の汚れ仕事を担当していたんだ。生活する分には教団に所属しているだけでも充分だったんだけど、研究には何かとお金がかかるからね。

 それで、そんなときにうってつけの仕事が王家から舞い込んできた。この頃の旧イーストフォートは王都に並ぶ繁栄をしていたから、王家は領主であるラスボーン家を脅威に感じていたんだ。でも目立って問題なんて起こしてないし、王家への忠誠心も充分にある。そこで、このラスボーン家を陥れるため、王家は僕に汚れ仕事を依頼してきたんだ。馬鹿だよね、放っておけばよかったのに。

 まぁ、でもそのおかげで、僕とベラは格好の生け贄を手に入れることができた。早速ベラに相談すると、喜んで協力してくれたよ。魔の眷属を呼び出す禁忌の魔法と使い捨ての人形を用意してくれたんだ。それと、脱出用の転移魔方陣もね。何しろ周囲一帯が大変なことになるだろうから、逃げる打算もつけておかないとね。

 こうして準備を整えてから、僕は旧イーストフォートとへと向かった。

 その後はそんなに難しくなかったなぁ。何しろ王家の支援を得ているわけだからね。表裏の伝手を使ってラスボーン家に取り入って、領主との面会までこぎ着けたのはすぐだったよ。僕は領主が守護精霊を呼び出したいという話を事前に知っていたので、その方法があることを教えると喜んで飛びついてきた。これは僕が聖騎士という身分だから簡単に信用したんだと思う。

 数日後、領主や重臣立ち会いの下で、こちらの用意した魔法使いが召喚陣を使って魔法を唱えたんだけど、出てきたのは精霊ではなく魔の眷属で旧イーストフォートはあえなく滅亡しちゃったんだ。もちろんこの召喚陣には細工がしてあって、召喚されたものが殺した魂は僕達のところへ来るようになっていたよ。おかげで僕は向こう100年くらいは何も気にしなくてもいいくらい魂が活性化した。やった甲斐があったね。

 でも、ベラの方はうまくいかなかったらしい。後で理由を聞いて納得したんだけど、この方法じゃ駄目だということがわかったんで、以後は別の方法を研究している。僕のためにも頑張ってほしい。


 ということで現在に至るわけだけど、研究はかなり進んでいる。30年ほど前から急に研究が進み出してね、今は最終段階に入ったところなのさ。

 いやぁ、何百年もやって来た研究がいよいよ成就するんだから嬉しくて仕方ないよ。

 ちょうどこの体もガタがきていたところだし、次の憑依で魂共々心機一転しますか!

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