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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
1章 異世界でも勉強の日々
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─幕間─ 教師エディスンの報告

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 キムラユージ君の教師となってから4年が経過しました。彼は異世界から召喚された平民だそうですが、その原因がアレブ殿にあることを知りません。知ったらきっと怒るでしょうね。ただ、不幸なことに彼は偶然召喚されただけなので、私にもアレブ殿にも彼を元の世界に戻す術はないのでどうしようもないのです。

 個人的には同情しますが、現状から逃れられない以上、これからのことを彼は考えねばなりません。幸いなことに彼もそれを認識しているらしく、私の授業にも積極的に取り組んでくれています。あの前向きな態度は好印象ですね。私としてもできる限りのことはするつもりです。

 彼は元の世界で数十年生きてきたというだけあって、私が思っていた以上の知識を身に付けています。最初の1年で一般常識を修得しましたが、1日の大半を学習に費やしているとはいえ、これほどの短期間で終わるとは思いませんでした。聞けば彼の出身国の平民は皆このくらいできるそうですが、それが事実だとしたらとんでもない教育水準ですね。

 ただ、元から身に付けていた知識は驚くべき量だったのに対して、彼の学習能力はそれほどではありません。彼自身も自分は平均的だったと自己申告していますけど、恐らくそれは事実でしょう。魔法の学習では、こちらが想定していた習得時間を常に上回っています。時間が潤沢に使える今だからこそ問題にしていませんが、生前の私が彼を担当していたら彼の平凡さを嘆いていたかもしれません。あるいは劣等生の烙印を押していたかもしれないですね。

 それでは守護霊として用をなさないのかと言いますと、そうとも言い切れないところが彼の厄介なところです。私は四大元素と無属性の5系統の魔法を教えましたが、驚いたことにその全てを習得しました。どの系統を習得するときでも決してすぐに身に付けたわけではありません。しかし、どれも同じように習得したんですよね。普通は5系統も学ぶと得手不得手というのが見えてくるんですが、彼の場合は淡々と苦労しながら身に付けていきました。彼は得意な系統がなくて残念がっていましたが、私は不得意な系統がないということに注目しています。何しろ、5系統の魔法を使えて不得意な系統がないという魔法使いなど聞いたことがありませんから。これは異世界から召喚されたことが関係しているのでしょうか。

 ともかく、この様子ですと闇と精霊の魔法も同じように身に付ける可能性が高いです。今まで通りこれからも教育するべきでしょう。

 尚、この4年で私が担当している分野の教授は終わりましたので、次の教育担当者の派遣を要請します。今後の私は教育の主担当から外れて補佐となりますが、個人的には彼を1歩離れたところから観察できるのを楽しみにしています。


 という報告を、私はアレブ殿を前にして語りました。

 ここは薄暗い石室の中です。会う場所はここにするとアレブ殿から指定されていましたのでやってきました。4年前にキムラユージ君と出会って以来、久しぶりのご対面です。私はもちろん、彼の呪術師殿にも何ら変わりありません。


 「ふむ、何とも評価に困る奴じゃの」

 「確かにそうですね。平凡というには特異な部分が大きすぎますし、優秀というにはほど遠い」

 「あやつの魔力量はどうじゃ?」

 「見た目は平均的としか言いようがないです。何しろ、守護対象から20アーテムしか離れられないんですから、今のところ大々的な調査はできませんし」


 単純に魔力量を量りたいならば倒れるまで魔法を使わせばいいんですが、困ったことに彼は精霊に近い存在なんですよね。精霊は魔力がなくなると精霊界に還ってしまいますが、同じように彼も魔力を使い切ると消えてしまうかもしれません。試すわけにはいきませんから、思い切ったことを彼にさせられないというのが困りどころです。


 「しかし、5系統の魔法を使えるようになったというのは意外じゃの」

 「はい。ですから守護霊としては思ったよりも役立つかもしれませんよ」


 アレブ殿の彼に対する評価は今のところ低いままです。かくいう私も高い評価をしているわけではありませんが、どうにも引っかかる点があるんですよね。そこがどうなるかで彼の評価は大きく変わるでしょう。


 「偶然呼び寄せてしもうたが、案外外れではないかもしれんということか。早く化けて安心させてほしいものじゃわい」

 「その点には同意ですね。ということは、次の方を派遣してもらえるんですね」

 「そうじゃの。後日そちらへ送り込むゆえ、しばし待つがよい」


 低評価ながらも切り捨てるほどではないというところですか。もし彼が自分の力を隠すためにわざとこういう評価になるような態度を装っているとしたら、大したものなんですけどね。まぁそれはないでしょう。


 「それと、相談したいことがあるんですが」

 「なんじゃ?」

 「光系統の魔法については、教えないままにするんですか?」

 「うーむ、光か……」


 光の魔法は神に仕える光の教徒が神殿で教えるという形で独占しています。たまにいる元信者から教えてもらえることもあるんで絶対ではありませんけど、やはり限界があります。結局、光の教徒に伝手がなかったのか、アレブ殿は光以外の7系統を教えるという方針を取られました。

 彼が優秀でしたら文句なく光系統の魔法を教えられる担当者を探していたでしょうし、愚劣でしたらすぐに不要と判断できたでしょう。けれど、今のところ彼の評価は微妙なんですよね。アレブ殿が悩む気持ちは私にもわかりますよ。


 「その件は保留じゃな。闇と精霊の系統を習得できるかで判断する」

 「妥当ですね」


 せっかく教育担当者を探してきたのに役に立ちませんでしたっていうのは嫌ですからね。私でもそうしますよ。


 「ユージに関して他に何かあるか?」

 「いえ、以上です。ああ、次の担当者派遣は年内でいいですよ。急ぎませんから」

 「わかった。なら、次はライナスじゃな」


 アレブ殿は鷹揚に頷くと私に先を促しました。


 次は本命のライナス君についてです。計画の核になるんですから経過を報告するのは当然ですね。

 しかし、これといって話をすることがないので困ります。まだ4歳児ですからね。細かく話しても育児報告にしかなりません。成長が他と比べて速いわけではありませんし、何か特別な能力を発現したわけでもないですから。

 このままでは普通の自作農に育ってしまう可能性がありますね。一般的に親の手伝いを本格的に始めるのが7,8歳くらいからですから、それまでにライナス君の生活環境を変化させておく必要があります。確かに霊魂は他者に比べて桁違いに強いですが、その能力を発揮させる環境があまりにもなさ過ぎます。

 対策としては2つ考えられます。1つはライナス君の生活環境に影響を与えるような者をライティア村に派遣する方法ですね。この話自体は当初からあるということでしたが、時期については未定でしたよね? でしたら、そろそろ実行してはどうでしょうか。剣か魔法を教えられる人物を村に住まわせて、村の外に目を向けさせるんです。そして剣か魔法を学びたいと思わせるようにすれば、彼の才能は開花するでしょう。ああ、もちろん、この方にも彼をそれとなく見守ってもらうことになりますよ。

 もう1つの方法は、ユージ君を使います。彼には霊体として人間などの他者に接触する方法を教えておきました。まだ実際に他者に対して試したことはありませんが、あの様子ですと問題ないでしょう。そして、その彼にライナス君の遊び相手になってもらいます。最近は村で他の子と遊ぶことが多いので機会は限られてしまいますが、1人になるときもあります。そういった機会に2人を接触させ、ライナス君の意識を魔王討伐の旅に向けさせてはどうでしょうか。


 という報告を、私はアレブ殿を前にして語りました。

 誕生から今までについては語るべきことがほとんどありませんが、今後に関しては重要な提案をしました。あの村は外部からの妨害がないので安全ですが、あまりにも刺激がなさ過ぎて放っておくと外に目が向かないのが難点です。


 「そなたの言うとおりじゃの。その2つの対策は同時に行うということでよいのか?」

 「ええ、もちろんです。派遣する人物の人選はどうなっていますか?」

 「選定は既に済んでおる。派遣する時期を見計らっておったところじゃ」


 さすがに手際がいいですね。これですと派遣される人物にも期待できそうです。


 「どのような方なんでしょうか?」

 「冒険者稼業をしておる魔法戦士じゃよ。信用できるし腕は確かじゃ」

 「そうですか。では、すぐに派遣してもらえますか。もう待ってもらう理由はありませんから」

 「わかった。すぐに向かわせよう」


 そうなると、次はユージ君の方ですね。


 「それで、ユージ君についてですが、このままライナス君と接触させる予定ですけど、かまいませんよね?」

 「ああ、それ自体は構わんよ。じゃがな、会う機会がちと少なすぎんかの?」

 「もっと積極的に関わらせるんですか? どうやってです?」


 毎日のように2人を接触させることができるなら私もそうさせたいですけど、なかなかそういうわけにもいかないんですよね。アレブ殿には何か案があるのでしょうか。


 「夢の中に潜り込ませられんのか?」

 「ライナス君を精神操作するんですか? 闇系統の魔法はまだ教えてませんよ」

 「違う。夢の中で2人を会わせるだけでよい。今はそれで充分じゃろ」


 ああ、私としたことが先走りすぎてしまいました。相手の精神に感応する魔法でしたら、無属性魔法にもありましたね。


 「わかりました。では、精神感応テレパシー入夢ドリームエンタリングの魔法を覚えさせてからユージ君にさせますね」

 「なんじゃ、まだ覚えとらんかったのか」

 「さすがに5系統の全呪文は簡単に覚えられませんよ。それに、試せる相手もいませんからね」


 どちらも生きた知的生命体でないと使えませんからね。許可が出たので、ライナス君相手に練習してもらうとしましょうか。


 「たしかにそうじゃの。まぁよいわ。他に何かあるか?」

 「いえ、特には」

 「わかった。それでは引き続き任せた」


 ようやく報告の終わった私は、再びライティア村へ向かうために魔法を唱えた。

 忙しさは今まで通りかもしれませんが、これからは少し騒がしくなるでしょう。

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