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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
9章 廃都にある証

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砂漠の中の旅

 旧イーストフォートへ行く準備をするにあたって、ライナス達は誰も砂漠に行ったことがないということに気づいた。出現する魔物の脅威を考えないとしても、砂漠は生存環境として非常に厳しいので念入りに準備をしないといけない。

 そこで4人は冒険者ギルドを利用した。各冒険者ギルドは、最寄りの厳しい自然環境に赴く冒険者に対して講習をしてくれるのだ。ここイーストフォートの場合だと砂漠に入るときのことについて話を聞くことができる。

 講習を受けた後、4人は教えてもらったことを信じて砂漠対策の準備を進めた。ということで、そこまでは知識の問題なので何とかなったが、実際に砂漠の中に入るとなると砂漠未経験者の自分たちだけでは不安である。そこで4人は砂漠の案内人を雇おうとしたのだが、残念ながら誰も雇えなかった。悪魔の砂漠には基本的に誰も立ち入らないので詳しい者がいない上に、そもそも人を雇うほどの金銭がなかったからだ。


 「いよいよここからだな!」


 乗せてもらっていた荷馬車から最初に降りたバリーが声を上げる。他の3人も続いて荷馬車から降りて体をほぐしていた。

 4人はイーストフォートから約150オリク南下したところに立っている。ここはイーストフォートから延びている王国公路が南西に向きを変える場所だ。記録によると、外部から旧イーストフォートへ向かうならここが最も近い。

 ライナスは荷馬車の先頭に小走りで向かって商人に礼を述べる。


 「ありがとうございます。助かりました」

 「構わんよ。それよりも、これから気をつけるんだな。悪魔の砂漠になんざ、いいものがあるとは思えないんだが」


 人の良さそうな商人が、忠告とも受け取れるような気遣いの言葉を投げかけてくれた。ライナスが困ったような笑みを浮かべていると、「まぁいいさ」と呟いて荷馬車を動かす。

 去って行く荷馬車をしばらく見送っていたライナスだったが、しばらくすると仲間に体を向ける。


 「ここから先は歩くしかない。みんな、気をつけて進もう」


 ライナスの言葉に他の3人が頷くと、一行は悪魔の砂漠に向かって歩き始めた。

 時刻は昼頃、4人が出発した地点から悪魔の砂漠まで約半日なので、夕刻頃には砂漠の入り口に着く予定だ。

 一行は旧イーストフォート探索にいよいよ乗り出した。




 翌日、悪魔の砂漠の入り口辺りで一夜を過ごしたライナス達は、眼前に広がる一面の砂に見入っていた。昨日は日没直前で充分に見渡せなかった周囲は、朝日に照らされて地平線まで眺めることができる。


 「すごいな……」


 ライナスは眼前の光景をぼんやりと見つめていた。

 黄色に近い黄土色の山がいくつも連なり、地平線まで続いている。そして、その境界から上は嘘のように青い空が一面に広がっていた。もちろん雲なんてものは1つもない。

 通常の砂漠では、砂漠とその周囲の地形に明確な境界線はない。草木が次第にまばらとなり、目の粗い大きな岩や小さな礫石が増え、気づけば砂の山に囲まれているというように変化していく。

 しかし、悪魔の砂漠はその発生の経緯からか、大小の石が溢れているような場所はほぼない。そのため、乾燥した草原からほぼいきなり砂の砂漠に入ることになる。


 「中の環境は過酷でも、外から眺めている分にはきれいよね」

 「そうやって暢気なことをゆってられんのも、今のうちなんやろなぁ」


 ライナスの横で一緒に砂漠を眺めているローラに対して、メリッサは呟くように応えた。

 そうやって砂漠の手前で佇んでいる4人は、頭からすっぽりと頭巾フードを被って外套マントで足下まで身を隠していた。直射日光を避けるためだ。強烈な日差しを浴び続けると日射病になったり火傷を負ったりするからである。


 「それじゃ出発しよう」


 一行はライナスの言葉で一斉に歩き始めた。




 悪魔の砂漠に入ると、途端に足下が砂に取られて歩きにくくなる。ライナス達はそいうものだと聞いていたので覚悟はしていたが、実際に体験してみるとその大変さがよくわかった。


 「これは、かなり、きついな!」


 メリッサが杖をついて歩きながら呟く。体力に一番自信がないため、最初から杖を使っているのだ。事前に予想していたことが当たったわけだが、思っていた以上に大変なことなので嬉しくない。


 「うう、荷物が重い……」


 大変なのはメリッサだけではない。ライナスとバリーに比べて大きく体力の劣るローラも砂地を歩くのに苦労していた。普段とは違って、水と保存食を多めに持ってきているので背嚢が重い。そのため、更に足を砂に取られてしまっているのだった。

 ただ、ローラもメリッサと同じように杖をついている。事前に安物の長い杖を買ったのだ。聖なる大木から作られた短杖では体を支えられないからである。


 「あそこで一休みしよう」


 2時間ほど歩くと、少し高めの砂山があって辛うじて陰になっているところがあった。ライナスはそこで休むことを宣言する。

 砂山の陰に着いた途端にローラとメリッサはすぐに座った。息が結構乱れている。そして、腰に付けていた水袋を手にするとすぐに口に付けた。


 「……やっぱり温いなぁ」

 「それでも生き返るわぁ」


 メリッサとローラは一口水を飲み込むと大きなため息をついた。本当はもっとがぶ飲みしたいのだが我慢している。理由は水の節約だけではない。いきなり大量に水を飲んでも、汗として出てしまうからだ。少し間をおいてから、再び水袋に口を付ける。


 「しかし、なんつーか、意外と過ごしやすいよな」

 「バリー、本気で言ってるのか?」

 「あーいや、そうじゃなくてよ、汗がべとつかないからまだましだよなって言いたいんだ」


 一息ついたライナスが水袋の口を締めながら、バリーの言いたいことを理解した。

 それは湿度が全くないから汗が出るとすぐに乾燥するからだろう。熱気に包まれているので不快なのには違いないが、王都の梅雨のように絡みつくような湿気はない。バリーはそう言いたいようだ。


 「あ~、なんかもういきなりくじけそうやわぁ」

 「……まだ半日も経ってないわよ」

 「最短距離でも130オリク以上あるんやろ。うちらの脚やと1週間以上か。うう、長いなぁ」


 まだ始まったばかりで、メリッサはいきなり先のことを考えてがっくりとしていた。


 (そんなに辛いなら、これで少しましになるか?)

 「え、なんやユージ?……うわ?! はぁぁぁええわぁぁぁ」


 以前テントの中でやった霧と風の複合魔法で冷風を吹き付けてやる。すると、メリッサは思いっきり顔を緩ませながら情けない声を出して蕩けた。


 「あぁでも、本当にいい気持ちねぇ」

 (水分のない砂漠だから燃費が悪いけどな。休みのときくらいなら今度からやろうか? あ、でもメリッサもできるだろう)

 「せや、忘れてたわぁ。けど、うちの魔力はユージほどないしぃ」

 (メリッサも練習しないといけないだろう)


 こいつ、気持ちよすぎて何もかも放り出したな。結局、基本的には俺がすることになり、メリッサは昼前と夕方の休憩のときに担当することになった。


 「でもよ、これで夜は冬のように寒いんだろ? 嘘みてぇだよなぁ」

 「まったくだ。砂漠自体が悪魔みたいだよ」


 ローラとメリッサに比べてまだ余裕のあるバリーとライナスは夜のことを考えている。砂漠は昼夜の温度差が激しいため、昼間の暑さだけで装備を調えると失敗すると講習で習った。そのため、一見すると不要なのではと思えるような防寒対策の装備も持ってきている。敵は魔物だけではないのだ。

 その日の夜、ライナス達は初めて砂漠で一夜を過ごすことになった。

 あれ程強烈だった日差しは4人を苦しめていたが、日が沈むと今度は日差しがないことで苦しむことになる。砂漠では日中に降り注いだ熱を保持することができないため、夜になると急に気温が下がってしまうのだ。


 「うお、本当に冷えて来やがったな」


 バリーは両手で腕をこすりながら外套マントの中で体を縮こまらせた。さすがにこの急激な温度変化は辛いらしい。


 「うわ、吐く息が白いで?! こんなに冷えるんか!」


 いつの間にか吐き出す息が白いことに気づいたメリッサが驚いて感想を漏らす。俺も砂漠は初めてなのでそれを見て驚いた。


 「これで幽霊ゴーストが出るかもしれないのよね。勘弁してほしいわ」


 かつては一面が畑で村々が点在していたらしいこの一帯にその面影は全くなかった。しかし、伝え聞く限りでは人々の営みが行われていたはずなので、幽霊ゴーストが出ても不思議ではない。


 「最初は俺が不寝番をするから、みんな寝てくれ」


 さすがに砂漠のど真ん中では火をたくための薪を調達することができない。かといって一晩中魔法を発動させることもできないので今はかなり暗い。わずかに三日月が照らしてくれるばかりだ。

 そんな中、まずライナスが不寝番を始め、他の3人は早々と眠りについた。




 翌日、再び砂漠の中を進み始めた一行は、相変わらず砂に足を取られるという苦労はあったものの、何事もなく進んでいた。

 しかし、問題は距離だ。悪魔の砂漠の中は砂の山ばかりなので目印にできるようなものがない。太陽については嫌と言うほど顔を出しているのでおおよその方角はわかるものの、今まで歩いた正確な距離はわからない。このままでは旧イーストフォートを見つける前に迷って力尽きてしまうので、自分達で距離を測ることにした。


 「ユージ、大体こんなところでええんか?」

 (うん、そんなところ)


 俺の返事を聞いたメリッサは、小さい鉄の塊を足下に落とした。

 一体何をしているのかというと、俺の捜索サーチは2オリク程度まで探索範囲があるので、今落とした鉄の玉を俺が捜索サーチで確認しながら1オリク毎に目印を作っているのだ。こうすることで自分達がどのくらい進んだのか大体わかるし、帰りはこれを辿ればいいというわけである。

 そのため、1つ30グラム……じゃなかった、30マーグの鉄の玉を200個用意している。そのせいで1人1.5マーゴリクの鉄の玉を背負わないといけなかったが、迷子になるよりかはましということでみんな我慢していた。


 「それでいくつ目なの?」

 「えーっと、25か6くらいかなぁ?」


 こういうことならいつも正確な返答をするはずのメリッサも、熱さと疲労のために朦朧としているらしい。


 「そうなると、明日には全部使い切ることになるのか」

 「ライナス、次は私の持ってるやつを使わせて。少しでも軽くしたいの」


 普段ならそんなことを言わないローラだったが、さすがにこの状態では遠慮する余裕がないようだ。だが、そもそもパーティの中ではメリッサに次いで体力がないので、その主張は当然ともいえるが。


 「確かに軽くなってるんやろうけど、そんな実感ないなぁ」

 「少しずつ減らしてるんだからしょーがねぇよ」


 体力面を考慮して優遇してもらっているメリッサであったが、それを実感できないとぼやいていた。これについては諦めてもらうしかないだろう。


 「私達って一旦真南へ進んで旧イーストフォートの真東に着いてから、東に向かうのよね」

 「確か、南に約125オリク、東に約50オリクやったな? 全部で175オリクかいな……直線なら135オリクくらいなんやけどなぁ」


 確かに単純に距離だけを考えたら、悪魔の砂漠の入り口から1直線に旧イーストフォートへ向かう方がいい。しかしだ。初めて入る砂漠の中で、延々と連なる砂山を左右に避けながら正確に南南東へ向かって進むなんていう器用なことを、俺達の中でやってのけられる奴はいなかった。だからこそ、遠回りであっても確実な方法を選んだのだ。


 「40オリクも遠回りするだけの価値があってほしいよな」

 「2日分だもんな。たまんねぇぜ」


 落とした目印が捜索サーチで検索できることを俺は確認するとみんなに声をかけた。


 (よし、捜索サーチでも引っかかった。そのまえのやつともう1つ前は……お、こっちだとひっかかったな。よし、ちゃんとほぼ直線になってるよ)

 「そっか。よし、それじゃ行こうか」


 目印をきちんと設定できたことを確認すると、ライナス達は再び旧イーストフォートに向かって歩き始めた。

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