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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
9章 廃都にある証

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旧イーストフォート攻略の相談

 イーストフォート周辺は乾燥地帯である。北に死の砂漠、南に悪魔の砂漠に挟まれているので、やってきたことのない者は何となく年中暑いのではと思うことが多い。しかし、そんなことはない。冬になれば気温は下がる。

 ライナス達が魔王軍との最前線からイーストフォートに戻ってきて2週間以上が過ぎた。暦は既に11月となっており、涼しい季節から肌寒い季節に変わりつつある。

 そんな季節の変わり目である現在、4人がいるところはイーストフォートの冒険者ギルドのロビーだ。

 実のところ、4人は最前線から戻ってきて生還祝い兼反省会の宴会を開いてから、あまり会っていなかった。旧イーストフォートについて個別に調べていたからだ。数日に1回は調査の成果を持ち寄って色々と検討しているのだが、今日はちょうどその日に当たる。


 「おはよう、バリー。やっぱりお前が一番最後だったな」

 「へへ、悪いなぁ。昨日も遅くってよ」


 苦笑いしながらやって来たバリーはそのまま椅子に腰をかける。1.8アーテムの槍斧ハルバードは抱え込むようにして持ったままだ。


 「バリー、ちゃんと体洗った?」

 「結構臭うで?」


 もちろん酒の臭いだ。連日酒場に通っているため、体だけでなく服や鎧にも染み込んでいるのだろう。そういえば、バリーはちゃんと服を洗ってるんだろうか。ここ2週間はライナスと寝起きする時間帯がずれているからわからない。


 「おお、今朝はちゃんと洗ったぜ」

 「「……今朝は?」」


 ローラとメリッサが半目で快活に答えたバリーを睨む。もちろん効果はない。


 「その話は本題が終わってからにしよう。それよりも、旧イーストフォートの調査結果について話をしないと」


 早々に話へ割って入ったライナスに、仕方なくといった様子で2人は従った。

 これで話をする準備が整ったのでライナスはそのまま続ける。


 「俺とメリッサは、前回の集まりから引き続いて冒険者ギルドの資料室で旧イーストフォートについて調べていたんだけど、これといって真新しい話は見つからなかったよ」

 「何しろ旧イーストフォートが消滅してから新たに作られた都市やさかいな。冒険者ギルドにもそれ以前の資料は何1つないんや」


 これは事前に覚悟していたことなのでみんなそれ程落胆はしていない。

 旧イーストフォートは、80年ほど前までは王国東部のかなめであった。その繁栄は王都と並ぶくらいのものであったらしい。しかし、当時の領主が悪魔を召喚しようとして失敗した結果、周囲が砂漠化したり山脈が発生したりして住民が全て死んでしまったという話が流布している。


 「その後に旧イーストフォートを調査したという資料はないの?」

 「俺達もそれを期待して資料を漁ってるんだけど、なぜか1つもないんだよな」

 「都市1つが丸々消滅したから当時の王国が調査隊を派遣したのはもちろんやけど、冒険者ギルドかて重要な支部がいきなりなくなったんやさかい、調査隊を派遣してるはずなんやけどなぁ」


 王国の調査隊が持って帰った資料が機密扱いでおおやけにされないというところは誰もが想像できるが、冒険者ギルドにその資料がないというのはどうにも納得できない。


 「王国や冒険者ギルドが調査隊を派遣したっていう記録はあったのか?」

 「それは以前、王都の大神殿の図書館で確認したさかい間違いないで」


 春頃にライナス達が王都へやって来たときに、メリッサはローラと共に大神殿へと行っていた。そのときに調べたらしい。


 「悪魔の砂漠の気候や状態についてはどう?」

 「砂漠そのものは普通の砂漠と変わらないらしいよ。そもそも悪魔の砂漠という名前がついたのは、召喚された悪魔に呪われているという噂からそう呼ばれるようになったからみたいだったし。瘴気が立ちこめているっていうのは嘘みたいだな」

 「ただ、夜になると幽霊ゴーストがよく出てくるっちゅー記録があったな」


 都市の住民か周辺の村民だったのかはわからないが、そういった幽霊ゴーストが出てくるとなると俺やローラの出番だな。


 「ローラ、イーストフォートの教会はどうだった?」

 「こっちも駄目ね。資料といえば今のイーストフォートのものばかりよ。話を聞いても誰も知らないみたいだし」


 ため息をついてからローラが結果を報告した。イーストフォート教会の資料は冒険者ギルドよりもずっと貧弱らしい。


 「これなら王都の大神殿の図書館でちゃんと調べておくんやったなぁ」

 「教会が派遣した調査隊の記録って、たぶん大神殿にあるでしょうしね」


 メリッサとローラが悔しそうに顔をしかめた。

 確かにそうなんだろうけど、まさかイーストフォートにここまで資料がないなんて思わなかったからなぁ。


 「バリー、酒場で何か新しい話を聞けたか?」

 「1年ほど前に旧イーストフォートへ行ったっていう奴に会ったぜ」


 お、意外と何か掴んだのか? 全員のバリーに向ける視線が真剣なものへと変化する。

 現在のイーストフォートへは、物好きな冒険者が探索に赴く以外は誰も近づかない。それだけに、現地へ行った冒険者の経験談は4人にとって非常に重要だ。


 「砂漠の気候自体は予想通りだったそうだが、砂虫サンドウォーム砂蠍サンドスコーピオンに気をつけろって言ってたな」


 この2つの魔物自体は資料室にも記録があった。

 砂虫サンドウォームは最大で20アーテム程度のものが確認されている。砂の中を往来しているらしいのだが、生態ははっきりとわかっていない。ただ、どうやってか砂漠の上を歩く生き物を感知して、それを丸飲みしようとするらしい。

 もう一方の砂蠍サンドスコーピオンは砂漠に住むさそりだ。普段は砂の中にじっと隠れていて、獲物が目の前を通りかかるとしっぽの先端にある毒針を刺しに来るらしい。この毒は麻痺性のもので、相手を動けなくしてから2つのはさみで分解して捕食するようだ。ちなみに、日本にいたとき、てっきりザリガニの仲間だと思っていたら実は蜘蛛の仲間だと聞いて驚いた記憶がある。


 「何に気をつけるのよ?」

 「砂虫サンドウォームはでかい上に動きが速いことに注意しろって言われたな。砂蠍サンドスコーピオンはすぐ近くに寄ってくるまで全く動かないから、いつ襲われてもいいように警戒しろってさ」


 どちらもなかなか厄介だな。ただでさえ砂漠を歩くだけでも大変なのに、常に魔物の襲撃を気にしないといけないわけか。


 「捜索サーチで見つけられたらええんやけどな……」

 「最初の1回目はどうしても魔法に頼れないからなぁ」


 メリッサとライナスは嘆息する。1度出会ってしまえば捜索サーチで引っ掛けられるんだが、その最初の1回がかなり危険なわけだ。


 「けど、やるしかないだろ」

 「まぁね。それで、旧イーストフォートの中については何か聞けたか?」

 「いいや、途中で砂虫サンドウォームにやられて戻ってきたそうだ」


 これは思っていたよりも大変なのかもしれない。


 (魔物に遭遇する頻度はどの程度なんだろう)

 「砂虫サンドウォームはほとんどないって言ってたな。砂蠍サンドスコーピオンの方が多いらしい」


 なるほどな。何も出ないって油断してたらいきなり襲われるのか。


 「砂漠の危険性について、具体的なことがわかったのは大きいな」

 「そうだろ!」

 「けど、今までの手応えからみると、もうこれ以上調べても何も出なさそうよね」

 「切り上げ時っちゅーことかぁ」


 うーん、と全員が唸る。


 (そうだ、ばーさんからもらった地図をもう1回見てみよう。今のうちに何か問題がないか確認しておいた方がいい)

 「せやな、砂漠のことはある程度わかったさかい、今度は街の中を見よか」


 メリッサは自分の背嚢から王都でもらった地図を取り出して広げる。縦50イトゥネック、横80イトゥネックの詳細な地図だ。


 「さすがに王都と並ぶ繁栄をしていたって伝えられてるだけあって、広いわね」

 「東西が4オリクで、南北が2.5オリクか。面積にしたら王都よりもでかいやん」

 「でも、東西南北に門があるのは一緒だな!」

 「そうなると、俺達は北門から入ることになるのか」


 広げられた地図を眺めながら4人がそれぞれ感想を漏らす。往時の繁栄に誰もが思いを馳せているが、こうやって探索するときは逆に広すぎて困る。


 「領主の館ってのはこの真ん中にあるやつだよな?」

 「そうね。北門から入って約1オリクといったところかしら」

 「大通りがまっすぐ延びているのは助かるなぁ」

 「ちょい待ち。これってこの街が健在やったころのやつなんやろ? 滅んだ後もかつての道はそのまま使えるんやろか?」


 俺も気にしていたことをメリッサはみんなに問いかけた。どんな滅び方をしたのかにもよるが、滅んだときに地形なんかが大きく変化しているということはないんだろうか。


 「道はそのまま使えなくても、北門と領主の館の位置さえわかっていれば何とかなると思ってるけど」

 「そうだな。目印さえあれば迷うこともねぇしな」

 「がれきの山をいくつも乗り越えなきゃいけないって想像すると、うんざりするわね」


 霊体の俺には関係のない話だが、生身のライナス達は障害物があれば1つずつ乗り越えないといけない。霊体になって結構な時間が過ぎた俺にとっては、忘れかけた大変さだ。


 「そういや、街の中の魔物って何がいるんだろうな」

 「幽霊ゴーストだけなら、昼間に入れば無視できるんだろうけど……」


 さすがにそんなに甘くはないだろう。少し考えてみても、腐乱死体ゾンビ白骨死体スケルトンなんてのがすぐに思い浮かぶ。他にも死霊系の魔物がたくさんいるはずだ。


 「それでも、夜よりも昼の方が絶対いいわよ。死霊系なら活動が鈍るから」

 「わざわざ苦労する必要なんてないしな」

 (確かにそうだな。となると、街への突入は朝一番にということになるんだ)


 街の外で一晩過ごすのも怖いとは思うんだが、どっちをより危険視するかなんだろう。


 「ところで、『古の証』ってぇのは領主の館にあるんだったよな。どの辺りだ?」

 「そこまではわかんないんだよなぁ」

 「うちは屋敷の地下にあると思うで」


 全員がメリッサに注目する。


 「だって、悪魔を召喚して街1つが消滅したんなら、地上にあるものって軒並み吹き飛んでるはずやろ? それでもあのアレブさんはラスボーン家に『古の証』があるかもしれんってゆーたんは、それが未だに残ってる可能性があるって考えたからや。そうなると、もう地下しかないやん」


 なるほどなぁ。確かにそれは言えてる。他のみんなも感心していた。


 「メリッサの推測が正しいとしたら、元領主のディック・ラスボーンがその地下で未だに守り続けているはずなのよね」

 「誰か来るのを待っているのか、それともひたすら守ろうとしているのかで、随分と対応が変わってくるよな……」


 その辺りはもうそのときにならないとわからないと思う。


 「更に、『古の証』は何らかの秘術によって秘匿されてるんやろ? たまらんなぁ」

 「その秘術ってなんだよ?」

 「それがさっぱりやねんなぁ」


 むしろ、どうしてそんなことをあのばーさんが知っているか不思議なんだよな。どうやって知ったんだ?


 「でも、どうしてアレブさんはそんなことを知ってるんだろう?」

 「もしかしたら王国の調査隊の記録を読んだのかもしれないわね」

 「そうか、この地図だって宝物庫にあったやつの写しだったもんな。その可能性は高いな」


 ライナスに自説を支持されてローラが少し嬉しそうだ。最近わかりやすくなったよな、ローラって。


 「うーん、こんなところかいな。後は行って確かめるしかないわなぁ」

 「それじゃ、出発の準備をしようぜ」

 「そうだな。集められる情報は集めたと思うから、旧イーストフォートに行く準備をしようか」


 ライナスの締めの言葉でこれからの方針についての話し合いは終わった。後は現地に行かないとわからないことばかりだ。

 4人はしばらく雑談を交わしたあと、探索のための準備を始めた。

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