─幕間─ 新たな段階へと進む計画
いや、本当に危なかったよね。僕は報告を聞いて冷や汗をかいていた。
「まさかライナスを金棒で叩こうとするとは思わなかったな……」
状況を確認するために戦場へ赴いてもらった魔族が去って行く背中を見ながら、僕は何度もダンに説明したときのことを思い返していた。
確かに僕は、ライナスの仲間を何人か殺して彼を覚醒させてほしいって言ってたよね、うん。それがどうやったらライナスを叩くってことになるんだろう。頭が悪いって思ってたけどまさかここまでだったとは。ベラに知られたら大変だなぁ。
ただ、全部が全部ダンのせいってわけでもない。何しろ、ライナス達が王国軍に入るようには一応細工したけど、最低限のことをやっただけでそのまま放っていたからね。結果論になるけど、これだったらダンの方は最低限にして放って……いや、だめか。更に悪くなる未来しか見えないや。
「それにしても、本当に光るんだ」
先程の魔族の話をもう1度思い出す。あわや金棒が当たろうかというときに、突如光る何かがライナスの右手から伸びた、か。
王都を去り際にアレブから聞いたけど、よく都合良く出てくれたものだね。そう簡単にいくとは思えなかったから仲間をエサにしようとしたんだけどな。ライナスの強運に感謝しないと。
「ただ、さすがに出せただけで制御はできていなかったみたいなんだよねぇ」
まぁ、いきなり使いこなせたらそれはそれですごいんだけど、報告を聞いた限りでは単に光り輝く板状のものが出てきただけらしい。当時のライナスは気絶していたそうだからそれは考慮に入れないといけないけど、それでも板か。面白いな。最終的にはどんな形になるんだろう。剣かな? 槍かな?
それともう1つ気になることがある。ライナスの守護霊についてだ。残念ながらこれについては全くわからない。相変わらず見事な隠れっぷりで報告には何もなかったんだ。これ厄介だよねぇ。
「ライナスの追い込まれっぷりから想像すると役に立っていないように思うんだけど、光り輝くものが出てきたってことは何かしら役に立ってるはずなんだよね」
ベラの話だと、ライナスの霊魂は魔方陣で守護霊は魔力というような関係らしい。だから、魔方陣に魔力を注ぎ込むと光の武器が出てくるという話だった。これは大抵のものは簡単に切ったり貫いたりできるそうだ。
ただし、そのためには膨大な魔力が必要らしい。それを守護霊が供給するそうなんだけど、それだったら別に……別に、あれ、そういえば何が守護霊をしてるんだろう。僕、それすら知らなかったのか。うわ、間抜けだなぁ。絶対ベラに笑われているよ。
「まぁいいや。目的は果たせたんだし。それよりも、これからだよね」
ライナスが特別な存在だということはこれでわかったんだけど、今後はどうやって導くかだよね。
今回は寄り道させたけど、ライナス達の目的は元々旧イーストフォートだ。ダンとの戦いが済んだから今度こそ挑むだろう。
「そうなると、もうライナスには直接関われないよなぁ」
うーん、王国での立場を利用してもっと裏方として支援するつもりだったんだけど、これじゃ無理そうだ。
「あ~、こんなことなら、王都で会わなきゃよかったか」
まいったね、好奇心が裏目に出ちゃったよ。いつものことだけど。
こうなるとしばらく王国で聖騎士としては動けなくなるだろう。まぁ、その辺りはどうにかするとして当面はどうしようか。
「仕方ない、アレブに相談しますか」
どのみち今回のことも報告しないといけないしね。
僕は緊急連絡用の水晶をポケットから取り出すと、アレブと話をするために起動させた。
アレブを呼び出してから僕は魔族から受けた報告をそのまま伝えた。しかしどういうわけか、しゃべり終わっても黙ったままだ。
「それで、計画はうまくいったから次のことを相談したいんだけど」
「肝心なところをダンに任せっきりというのは感心せんの」
僕の言葉を無視してアレブが口を開いた。あー、やっぱり怒ってるのかなぁ。
「僕もダンがあんなことをするとは思わなかったんだよ。何度も説明した後にわかったって言ってたから……」
「お主はその言葉をそのまま信じておったのか?」
「えーっと、不安には思ってたよ?」
駄目だ、こっちが悪いからどうしても押されてしまう。元はといえば、ライナスが特別だということを僕が知りたいって言ったのが発端だもんなぁ。そんなことで自分の大切な計画の核を台無しにされたら誰だって怒るよね。
「……ごめん、悪かったよ。僕が甘すぎた。最近は暢気に仕事をしすぎていて緊張感がなくなっていたんだ」
「じゃろうな。以前のお主ならもっとしっかりと手綱を操っておったじゃろうしな」
その通りです。少なくとも計画の核となるところは自分で制御してたね。また悪い癖が出ちゃった。
「それで、今度からはどうすればいいんだい? 少なくとも、ライナスが旧イーストフォートに行ったら、僕はライナスに直接関われないどころか、当分は王国での活動にも制限を受けることになるよ」
「それについてはこちらでやってもらいたいことがある」
「そりゃいいけど、魔王様の仕事はどうするのさ?」
一応、僕の身分は魔王様直下の四天王だから、こっちの仕事もちゃんとやっておかないといけない。でも、王国での活動を制限されるとそれが難しくなるんだよなぁ。
「必要な情報はこちらでもある程度探っておる。それを譲ろう」
「助かるよ」
つまり、それだけ面倒なことをやらされるわけか。好奇心は身を滅ぼすっていうけれど、確実に身動きが取れなくなっちゃうのは確かだよね。それでも自重する気はないけど。
「それで、僕にやってほしいことって何だい?」
「ライナスを鍛える簡単な作業じゃよ。わしとしても早く持てる力を制御してほしいからの」
本当に簡単かどうか怪しいし、簡単だったとしたら絶対裏があるよね。自分が人を踊らせる側だったら楽しいんだけどなぁ。
「具体的には?」
「かつて中央山脈でやっておったように、魔物をけしかけてほしいんじゃよ」
なるほど、何度かやったことのある作業だから難しくないね。面倒だけど。
「確かに、それなら僕にでもできそうだ。それで、魔物はそっちで用意してくれるのかい?」
「ああ。これからはライナスを鍛えるために少数精鋭で臨むぞ」
ベラお手製の魔物でも出てくるのかな。それはそれで興味あるけど……ああそうだ、肝心なことを聞き忘れてたな。
「魔物はどこでどう引き受けたらいいんだい? 毎回違うってことくらいはわかるんだけどさ」
「こちらで用意でき次第、緊急連絡用の水晶でお主を呼び出す。引き受け場所は、その都度できるだけ目的地に近い場所で行うつもりじゃ」
「そこまでやれるんだったら、僕はいらないんじゃ?」
「そうもいくまい。現場に管理者は必要じゃろう」
「四天王のやるような仕事じゃないよねぇ」
僕は苦笑しながら言い返した。けど、本当にやってほしいことは、けしかける魔物の管理なんかじゃない。
「確かにの。本当にやってもらいたいことはライナスの監視じゃ」
「どれだけ成長しているのか、のだね」
光の武器を出せるようになった以上、計画は次の段階に移ったと見るべきだ。そしてこれからは、より一層ライナスの動向をしっかりと把握しておかないといけない。特に成長の具合はね。
「ふむ、さすがにわかっておるか。ならば、これ以上言うことはないの」
「ああそうだ。今回のことでライナスの名前が表に出ちゃったけど、いいのかな?」
僕達の計画を遂行するだけなら別に有名になる必要なんてない。それだけに、今回有名になったことが逆に新たな問題を抱え込まないかちょっと気になった。
「いいも何も既に名が出た以上、どうにもなるまい。それに、この程度なら問題なかろう。あまり名声が高まりすぎるのは困るが」
「厄介事を押しつけようとする輩なんていくらでもいるからねぇ」
「面倒なことになりそうなら、お主に任せるとしようかの」
「……今後、僕が王国で活動しにくくなるってさっき言ったじゃないか」
できるんならもちろんやるけど、わざわざ捕まるようなことはしたくないよ。面倒なんだから。
「何か問題があるならわしに相談するとよい」
「せいぜい利用させてもらいますよ」
こき使われる分くらいはね。
「それで、お主はこれからどうするつもりじゃ?」
「イーストフォートに戻るよ。そこでライナスの様子をしばらく見てる」
「そうか。ならば、旧イーストフォートでの成果次第じゃな」
「わかったよ。それじゃぁね」
アレブが返事をすると、僕はすぐに水晶の魔法を停止させた。
結局は下っ端のようにこき使われる形になったけど、まぁ、予定通りに事が進んでいるからいいか。さて、これからライナスがどこまで成長してくれるのか楽しみだなぁ。




