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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
8章 魔王軍との激突

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光の剣

 今、こいつはライナスが光ってないって言ったよな。なんだよ、光るって。蛍光灯じゃないんだぞ。フールって奴は一体何を知ってるんだ?


 「ライナス!」


 後衛のローラがジャックとドリーの脇を通り抜けてライナスの元まで駆け寄ってくる。見ればその表情はかなり焦っていた。


 「ライナス、ねぇ!」

 (落ち着け。光の魔法でとりあえず治療はした。大きな外傷はないはずだけど、念のために診てくれ)


 俺の言葉でいくらか落ち着いたローラは、ライナスの体に異常がないか確認してゆく。


 『まぁいいや。今度は金棒で叩いてみよう。そしたら光るだろ』


 お前絶対ライナスを何かの道具と勘違いしてるだろ!

 俺は自分の体である霊体の一部をライナスと重ねながらダンを見上げる。くそっ、触って起こすこともできなけりゃ、魔法で守ってやることもできないなんて。俺は一体何のためにライナスの守護霊なんてやってるんだ? 肝心なときにライナスを守るということには何ら役に立っていない。これじゃ特殊な幽霊ゴーストっていうだけじゃないか。

 エディスン先生が言うには、俺の魔法の威力は他人より強いらしい。メリッサの見立てでは、俺の魔力量は理論上無尽蔵だそうだ。他者よりも優れていると言われて密かに喜んでいたが、今のままじゃ意味がない。


 「させるかぁ!」


 再びライナスを叩きつぶそうとするダンに対して、バリーが槍斧ハルバードを構えて突撃する。


 『邪魔だ』


 しかし、ダンは羽虫にたかられているような表情でバリーを見ると、何度か金棒を繰り出してバリーを下がらせる。ついでに視界に入ったジャックとドリーにも金棒の一撃を突き出す。


 「うわっ!」

 「ちょっ、何よ!」


 今の一連の攻撃でバリー、ジャック、ドリーはライナスのいる場所から更に遠ざかってしまう。

 そういやこいつ、なんでライナスを叩けば光るって思い込んでるんだ? いや、それはフールって奴にそう言われたからだろう。問題はそこじゃない。ライナスが光るっていうのはそもそもどういうことなんだ。ライナスはただの人間なんだぞ。発光体じゃないんだから光るわけがないだろう。馬鹿かこいつは。

 あ、そうだ、こいつは馬鹿なんだっけ。ということは、フールって奴に言われたことを正しく理解しているとは限らない。何か作業を頼まれたときに説明を聞いても理解できなかったら、とりあえず何をすればいいのかだけ聞いてそれを忠実に実行するってことがあるよな。きっとこいつもそうだ。そうなると、光るのはライナスそのものじゃない? だったら何が光るんだ?


 『よし、それじゃ叩いてみようかぁ!』


 ダンがこちらに振り向く。10アーテムくらい離れているとはいえ、6アーテムもの巨体は見上げるように大きい。武器も魔法も通じないなんて、魔王は一体どうやってこいつを従えたんだろう。

 遠方にいるメリッサやメイが魔法を打ち込んでくれたが効果はない。それがわかっているからダンも無視している。ジャックとドリーは顔を強ばらせたまま動けないでいた。怖いからというのもあるだろうが、きっと何をやっても通じないことがわかっているからだろう。バリーは雄叫びを上げて再度突撃し始めた。

 ローラは既に周りのことは意識していない。ただライナスを治療し、再び目覚めさせることだけを考えていた。こんな真剣な表情は初めて見たな。

 みんな自分のできることをやっている、やろうとしている。何もできない人間は立ち止まっているが、それは本当に何もできないからだ。なら俺は? 守護霊なのに守れないのか?


 (我が下に集いし魔力マナよ、炎をまとう渦巻く風となりて敵を蹴散らせ、炎竜巻ファイアトルネード!)

 『おお?!』


 ダンの足下から炎と竜巻が現れてその巨体を包み込む。おお、初めて実戦で複合魔法が成功した! でもどうせ効いていないんだろうな。せいぜい目くらまし程度か。


 (ローラ、今のうちにライナスを連れて一旦下がれ!)

 「え?……うん!」


 炎竜巻ファイアトルネードの発動時間は長くないが、その間にダンからライナスを引き離しておく必要がある。ローラはライナスの体を持ち上げようとして……


 『ふはははは! こんなもんは効かねぇって言ったろう!』


 当然相手はこっちの都合なんて考えてくれない。炎竜巻ファイアトルネードの中から出てきたダンはしっかりライナスを見据えている。

 くそっ、時間稼ぎもできないのか!


 『今度はちゃんと光れよぉ』


 大きな金棒をダンは振り上げる。

 なんで俺みたいなのが守護霊なんだろう。そう言えば、ばーさんは俺のことを不満に思っているはずなのに他の奴に変更しようとしない。どうしてだ? あのばーさんがこんな状態に追い込まれることを許すとは思えない。

 ということはだ、実は俺の魔法の威力が高いということはあまり重要なことじゃないのかもしれない。こうやって魔法が効かない奴もいるんだし、俺の存在価値の中では重要性は低いんだと思う。それよりも、理論上無尽蔵の魔力があるということの方が大切なんじゃないだろうか。

 そして、ダンはライナスが光ると言ってたが、叩くようなことをすればライナスが何かを光らせるということじゃないんだろうか。そんな危ないことをしないと光らないことって……ああそうか、危機に陥ったときに何か光るもので対処させたいってことか? こんな状況だと金棒を防ぐか、はじくかくらいしか思いつかない。ライナスがやるとしたら、光り輝く剣で金棒をはじき返すっていうのが想像しやすいな。


 (まさかこいつ、本気でそんなことを?)


 ダンの口ぶりだと、ライナスを光らせるのが目的で殺すことが目的だとは思えない。そうなると、やっぱり追い込んで光る何かで危地を脱することを望んでいるんだろう。どうしてそんなことを望んでいるのかわからないが、あいつの言動からはそうとしか読み取れない。

 しかし、問題なのはどうやってそれを実現するかだ。例えこの危地を脱するのに俺が必要だとしてもどうやっていいのかがわからない。何か見落としていないか? ライナスは特別な存在なんだろう? あれ、どうして特別な存在なんだ? 魔王を討てるだけの何を持っていたっけ? そうだ、英雄と呼ばれるような人間が持っている強い霊魂を持ってるんだったよな。その力はどうやったら発揮できるんだろう?


 『そぉれ!』


 振り上げられた金棒が、ライナスめがけて振り下ろされる。まずい、もう時間がない。

 そういえばライナスって冒険者としては優秀だけど、英雄っていうような感じじゃないよな。強い霊魂を持っているのに突出した能力を発揮できていないということは、何かが足りないということだ。何が足りない?

 俺は膨大な魔力を蓄えているのにそれを思うように使えないのに対して、ライナスは何かが足りなくて強い霊魂が持つ力を発揮できない。もしこの推測が正しいのなら、俺の魔力をライナスに与えることができれば光る何かで対処できるはず。


 「ライナスぅ、起きてよぉ」


 目に涙を浮かべながらローラが呟く。金棒の軌道はばっちりローラの頭も捉えてる。

 俺は霊体の一部をライナスの体に重ねているが反応はない。今までもそうだ。半分以上重ねても何ら変化は起きなかった。それなら、全身をぴったりと合わせたらどうなるのか。ライナスには今までやったことがない。何となく嫌な感じがしたからだ。

 時間もなかった俺は、地面に横たわっているライナスの体に自分の体を完全に重ね合わせた。身長や体格の違いなどで完全には一致しないが、それでも一体になるような感じで重なってみる。


 するとどうだろう、何かがカチリとはまる感覚が全身を覆い、そして、ごっそりと何かが持っていかれた。


 なんだこれ?! 喪失感っていうのか、全身の脱力感が半端ないぞ! 本当に持っていかれてるのって魔力だけなのか?!

 そうやって自分の状態に驚いている間にも、ダンの振り下ろした金棒は近づいてくる。まずはローラの頭が弾け飛ぶことになるはずなのだが、実際にはそんなことは起きなかった。

 金棒の先端が弾け飛んだからである。


 『あ?』


 ダンは驚いて自分の持っている金棒の先端を見つめた。約1アーテムくらいがきれいに切り取られてしまっている。その先端は、遥か前方──ライナスとローラのいる場所よりも奥──にまで吹き飛んでいた。

 驚いているのはバリー達も同じだ。金棒の一撃でライナスとローラは地面にめり込むと思っていたら、何ともないのだ。

 しかし、それ以上に目を引いたのが、ライナスの右手から現れた光の塊だ。長さ3アーテムくらいで幅が1アーテムくらいか。そのくせ厚さはほとんどない。これじゃまるっきり板だよな。それに不安定なのか、ゆらゆらと揺らいでいる。もしかして、剣になり損ねたのか?


 『ふ、ふはははっ! なぁんだ、やっぱり叩いたらちゃんと光るんじゃねぇかよ!』


 しばらく惚けていたダンは、これが目的だったのか、その光の塊を見て上機嫌に笑った。

 ライナス達はまだ動けない。


 『へへへぇ~、おい、おめぇらもちゃんと見たよな!』


 ダンは上に向かって吠える。

 真上を見ると、いつの間にか5人の魔族が大きく旋回していた。護衛か?


 『いよぉし、それじゃ帰るか!』


 満足そうに金棒を担ぎ上げたダンは踵を返し、そのまま軽い足取りで立ち去ってゆく。

 しばらくすると、王国軍と戦っていた巨人ジャイアント、魔族、巨鳥、そして獣もその後を追って引き上げ始めた。え、まさかこのためだけにやって来たのか?

 俺達は引き上げていく魔王軍を呆然と見ているしかなかった。




 どうしていいのかわからないこともあってしばらくそのままでいると、小さなうめき声が聞こえた。


 「う……ん、ぁ」


 俺達が呆然とする中、ライナスの意識が覚醒してくる。それに合わせて光の塊も急速に縮んでゆき、最後には消えてなくなった。


 「ライナス? 気がついた?!」

 「あれ、ローラ? ここは……あ、あいつは、いってぇ?!」


 意識が戻ってくると自分が戦闘中に気絶していたことにライナスは思い至る。そして慌てて起きようとするも、全身の痛みによって悶絶した。

 俺も一旦ライナスから離れる。しかし、いきなり体の中身が持っていかれた感じだったな。何か意識まで失いそうで怖かったぞ。


 「ライナス! おお、生きてたか。さすがだなぁ!」

 「うわ、あれモロに喰らって平気なの?」

 「ドリー、ローラが回復してただろ……」


 近くにいた前衛の3人が寄ってくる。どの顔も戦闘が終わって緊張の糸は切れていた。


 「はぁ、ライナスぅ、よかったぁ」


 心底安心したローラがライナスに抱きついて離れない。


 「おぅおぅおぅ、心配して見に来たら、何かええ感じになっとるやんけ」

 「チンピラみたいよ、メリッサ……」


 後からやって来たメリッサの発言はメイのいう通り安いチンピラだ。お前は良いところのお嬢様だろう。一体どんな育ち方をしたんだ。


 「いやぁ、ローラが突然走り出したときは驚きましたよ」


 最後にやって来たロビンは暢気に笑っている。そういえば、ロビンの発動させた光明ライトのおかげでライナスは金棒を避けられたんだけど、その後裏拳を食らったんだよな。うーん、なかなかうまくいかないもんだ。


 「それで、あれからどうなったんだ?」


 途中から意識をなくしていたライナスはその後のことを知りたがる。ダンを退けた功労者なんだけど、決定的瞬間は気絶していたんだよなぁ。


 「あんたが倒れた後、ローラが走り寄って治療しているところに、あのでかぶつが金棒を振り下ろしてきた。それでぶつかる瞬間、あんたから光の塊みたいなんが出てきて、その金棒の先っぽを切り落としたんや」

 「……さっぱり覚えてないや」


 メリッサが簡単に客観的な状況だけを伝えた。もちろんライナスは気を失っていたので、そんな説明を受けてもそうですかとしか言えない。


 「細かいことは後にしねぇか。今は帰って休もうぜ」

 「そうだな、それがいいだろ」


 バリーが提案するとジャックも頷く。疲れているのはみんな同じだ。

 今回あったことはよく考えておかないといけないことが多いが、今はまず体を休めることを優先したい。

 ライナスをバリーが背負ったのを確認すると、俺達は王国軍の陣地に足を向けた。

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