北風と豪雨と火山
<原典>
北風と太陽
一人多い……。
「私の炎が最も強いに決まっている!」
「いやいや、私の風も負けてはおりません!」
「否、水こそが最強です!」
火、風、水を司る四天王が魔王を決めるため、誰が一番強いかを言い争っていました。
しかし、いずれも自分が最も強いと言い張って譲らず、議論は平行線を辿ったまま結論が出る気配がありません。
そこで、水を司る血氷将ヴィクトの提案により、力試しをして最強を決めようということになりました。
「ふむ、いいだろう。
……で、具体的にどんな勝負をするのだ?」
「そうですね……」
ヴィクトが考え込んでいると、遠くの方に黒いローブを着た旅人と思しき少女の姿が見えました。その少女を見付けたヴィクトは勝負方法を思い付き、ポンッと一つ手を打ちました。
「丁度いい、あの少女のローブを脱がせたものの勝ちとしましょう」
「ヴィクト、貴様……」
少女の服を脱がせることを競い合うという変態的な勝負を提案したヴィクトに、火を司る魔炎姫レオノーラが蟲を見るような視線をヴィクトに送ります。
しかし、ヴィクトとレオノーラが睨み合ってる隙に、残るもう一人の人物が動いてしまいました。
「では、私が一番槍を頂きます」
「あ、こら!? 待て! まだそんな勝負方法を認めたわけでは……ああ、もう!」
最も敏捷性に長けた、風を司る烈風騎レナルヴェが、レオノーラが止める間もなく先走って駆けていきました。
レナルヴェは少女を射程内に収めると風魔法を使い、彼女に対して冷たい風を吹き付けました。
少女は寒さに震えあがって、ローブをギュッとしっかり押さえました。
「ぬう、ならばこれではどうだ」
それを見たレナルヴェは、更に魔力を籠めてより強い風を起こします。
「寒い、もうダメ」
すると少女は寒さに耐えかね、アイテムボックスから毛布を取り出してローブの上から巻き付けるようにして羽織りました。
「く……駄目か、無念」
幾らやっても少女のローブを脱がせることの出来なかったレナルヴェは、肩を落として落胆しました。
「それでは、次は私が」
次にヴィクトが二番手に名乗りを上げました。彼は少女に向けて手をかざすと、魔法の詠唱に入りました。
「何をするつもりだ?」
「なに、濡れ鼠になれば着替えざるを得ないでしょう」
「は?」
レオノーラが疑問の声を上げますが、ヴィクトはそれに答えることなく魔法を発動して水の塊を少女に向けて放ちました。
「ちょ、やめ……」
慌てて止めようとするレオノーラですが、時既に遅く水の塊は少女に向けて真っ直ぐに飛んでいきます。
「!?」
このまま全身びしょ濡れになってしまうのかと思った次の瞬間、少女が水の塊に気付き反射的に手をかざして闇魔法を放ちました。
直径数メートルの巨大な闇弾は、ヴィクトの放った水の塊をあっさり飲み込んで、そのままレオノーラやヴィクトの居る方向へと飛んできます。
「のわあああぁぁぁ!?」
「は? ……へぶっ!?」
レオノーラは咄嗟に避けることが出来ましたが、自らの作戦を過信していたヴィクトは反応が遅れ、闇弾に吹き飛ばされていきました。
「ええと、もうやらなくていいような気もするんだが……」
少し疑問に思ったレオノーラですが、根が真面目なせいか始めた以上は最後までやろうと決意しました。
しかし、少女のローブを脱がせる方法に悩みます。
「取り敢えず、強硬策は無しにしよう」
力尽くでいくことも考えましたが、先程の巨大な闇弾がトラウマとなって恐怖で身が竦みます。
炎で暑くして自主的に脱がせることも考えましたが、暑くなった原因を知られたらやっぱり「ちゅどん」でしょう。
「…………あ」
しばらく悩んでいたレオノーラですが、ふと良いことを思い付きました。
レオノーラはその思い付きに従って、近くにある泉に向かって炎を数発叩き込みます。
そして、立て札を作ると少女の進んでいる先に立てました。
『この先、温泉あり』
少女は立て札の導きに従ってレオノーラの作った即製温泉を見付けると、辺りをキョロキョロと見渡して人が居ないことを確認してから服を脱いで泉に入りました。
こうして、勝負に勝ったレオノーラは次期魔王として選ばれることとなりました。
「ところで、誰か忘れていないか?」
「はて? 他に誰かおりましたか?」
「気のせいではないですか?」
<配役>
北風1:レナルヴェ
北風2:ヴィクト
太陽:レオノーラ
旅人:アンリ
三人でも四天王