怠惰と鈍足
<原典>
ウサギとカメ
原型を留めてないですが……。
昔々、あるところに光神と闇神が居ました。
「お前、本当にとれぇよな」
闇神アンバールは常々光神ソフィアの足が遅いことを莫迦にしており、今もいつもと同じように揶揄して笑いました。
笑われたソフィアはこれまでの鬱憤もあってムッとなり、言い放ちました。
「余計なお世話です。それに、貴方の方が足が早くても勝負なら私の方が勝ちます」
するとアンバールは爆笑しながら、それに応じます。
「面白ぇ、なんなら勝負してやったっていいんだぜ?」
「望むところです」
あれよあれよという間に、ソフィアとアンバールの勝負が決まってしまいました。どちらも好戦的なことこの上ありません。
「勝負するのであれば、審判が要りますね」
「アイツでいいだろ」
「そうですね」
アンバールが「アイツ」と言った人物、それは邪神アンリでした。
「私、忙しいんだけど」
「嘘吐け、口元にクリーム付いてんぞ」
「また食っちゃ寝ですか……そもそも貴女は生活態度が」
「それで、勝負の審判をすればいいの?」
ソフィアのお説教が始まりそうだったので、アンリは慌てて話を変えました。ソフィアのお説教は長いしクドイので苦手なのです。
「ああ、俺とそこののろまな生真面目女の勝負だ」
「ええ、そこの怠け者に天誅を下すのです」
ソフィアとアンバールはお互いに睨み合い、その中間で火花が散りました。物理的に。
「分かった、それじゃ勝負方法は私のダンジョンをどちらが先に攻略出来るかで」
「は、いいだろう」
「叩きのめしてあげましょう」
三人はダンジョンの入口に移動しました。
「じゃ、始めるとするか……ぐぇ!?」
「ええ、始めましょう……ぐぇ!?」
早速ダンジョンの中に入ろうとするソフィアとアンバールですが、服を後ろから引っ張られて潰れたカエルのような声をあげました。
「何しやがんだ、手前!?」
「何するんですか、貴女は!?」
引っ張ったのは勿論この場に居るもう一人であるアンリです。抗議する二人に、アンリは横にある箱を指差して言いました。
「入場料、払って」
「………………」
「………………」
よく見ると、その箱の横には立て札があり「ダンジョン入場、一回銀貨一枚」と記されています。
「ふざけんな、何でそんな金払わなきゃならねぇんだよ!」
「じゃあ不戦敗でいい?」
「ぐ!?」
抗議するアンバールでしたが、そう返されると言葉も出ませんでした。二人は渋々と銀貨を取り出し、箱に入れました。
「まいどあり……あ、もう出発していいよ」
やる気のない合図に従って、ソフィアとアンバールはダンジョン攻略競争を開始しました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「は、追い付けやしねぇだろ!」
先行したのはアンバールでした。彼はたちまちソフィアを引き離しました。
……が、次の瞬間落とし穴に墜ちました。
「うぉあ!?」
ソフィアはアンバールが落ちた穴を避けて先に進みます。
「罠を教えてくれて助かりましたよ」
「手前ェ!?」
アンバールは怒って顔を真っ赤にすると、穴を這い出てソフィアの後を追い掛けました。
そうして二人は抜きつ抜かれつしながら、ダンジョンを攻略していきます。
「チッ、そろそろ諦めたらどうだよ?」
「貴方こそ、これ以上罠に掛かる前にギブアップしたらどうですか?」
早さで勝る代わりに罠に何度も掛かっているアンバールと、早さでは劣るもののアンバールが掛かった罠を避けて進めるソフィアで勝負はほぼ互角でした。
『そう言えば……』
「?」
「?」
唐突に聞こえてきたアンリの声に、早歩きでダンジョン内を進んでいた二人は思わず足を止めて首を傾げました。
『このダンジョン、協力プレイ推奨だから』
「あん?」
「はぁ?」
アンリの言葉に意味が分からず、二人は不思議そうな声を上げました。
が、次の瞬間鉄砲水に押し流されました。
「のわあああぁぁぁーーーっ!?」
「きゃあああぁぁぁーーーっ!?」
突然ダンジョンの奥から大量の水が流れてきて、二人を飲み込んだのです。
「チッ、掴まれ!」
「は、はい!」
壁際に居たアンバールは何とか壁の出っ張り部分を掴むと、もう片方の手をソフィアに伸ばします。
ソフィアはその手を掴み、激流が過ぎ去るのを二人で一緒に耐えました。
しばらく経って水の勢いが弱まると、二人はようやく落ち着くことが出来ました。
「すみません、助かりました」
「あ? まぁ、咄嗟だったからな」
助けられたことに礼を述べるソフィアに、アンバールは照れくさそうに手を振って返しました。
「にしてもアイツ、とんでもねぇ仕掛けしやがって」
「協力プレイ推奨とか言ってましたね、他にも同じような仕掛けが出てくるということでしょうか」
ソフィアの懸念は当たっており、その後もどう考えても一人では対処が困難な仕掛けが容赦なく二人に襲い掛かってきました。
二人は何とか協力して仕掛けを乗り越えていき、何とかゴールまで辿り着きました。
ゴールには先回りしたアンリが待ち構えており、二人を拍手で出迎えました。
「ゴールおめでとう、勝負は同着だけど」
「あ、そう言えば……」
「勝負してたんだったな……」
いつの間にか仕掛けをクリアすることに集中して、勝負のことをすっかり忘れていた二人でした。
そのことに気付いて呆然となる二人でしたが、既に勝負の原因となった言い争いのことなどどうでもよくなってしまっていました。
「まぁ、その何だ……とれぇとか言って悪かった」
「いえ、私の方もムキになってしまい済みません」
お互いに謝罪し合い、仲直りをするアンバールとソフィア。
その様子を見て、アンリもホッとした様子を見せました。
「めでたしめでたし」
「……なわけねぇだろ、手前のオシオキがまだ残ってるんだからな」
「そうですね、勝負のことは最早どうでもいいですが、あの性格の悪い仕掛けの数々には言いたいことが山程あります」
「!? 戦略的撤退」
「チッ、待ちやがれ!」
「逃がしません!」
<配役>
ウサギ:アンバール
カメ:ソフィア
キツネ:アンリ
光神と闇神の童話パロディでの扱い易さは異常……