スノーホワイト・ブラックアイズ
<原典>
白雪姫
昔々、ある国にとても美しいけれど心の醜いお后様がいました。
お后様は魔法の鏡を持っていました。
その鏡は尋ねたことに対して真実を教えてくれるのです。
お后様は数日に一度はその鏡にある質問をすることを習慣としていました。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰ですか?」
「それはお后様、貴女です」
お后様はそれを聞くと満足そうに微笑むのでした。
ところがある日、鏡が違う答えを返したため、全ては狂いました。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰ですか?」
「それはお后様、貴女の娘のアンリです……」
「!? 憤っ!」
お后様はどこからか取り出した大剣を鏡の前に突き立てて凄まじい眼光で睨みます。いつの間にか格好もドレスから甲冑に変わっています。
「鏡よ鏡、もう一度聞きます、心して答えなさい。
この世で最も美しいのは誰ですか?」
お后様の質問に鏡は表面に水滴を浮かべながらも、それでも自らの職務を全うすべく正直に答えました。気のせいか、がくがくと揺れています。
「それはお后様、貴女の娘のアンリです……」
幾ら問い掛けても望んだ答えを得られないと知ったお后様は、猟師に命じてアンリを殺させようとしました。
しかし、心の優しくない胡散臭い猟師はアンリを殺すよりも逃がした方が面白そうだと考え、彼女を森に逃がした上でお后様には嘘の報告をしました。
「森の中でも動き易い服装と動物を狩るための弓矢、あと短刀も頂戴」
「……たくましいね、君」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お城に帰れなくなってしまったアンリは、森に住む七人の小人達と暮らす事になりました。
小人達の名はアーク、ジオ、ライオネル、オーレイン、レナルヴェ、ヴィクト、イジドと言います。
「……小人?」
「小人族だろう、何処から見ても」
ほぼ全員がアンリよりも背が高く、しかもがっしりとした体格ですが、小人族と言い張っています。紅一点のオーレインだけが癒しでした。
「ちょ、抱き付かないで下さい」
「ケチ」
小人(?)達が山に芝刈りに行っている間に、アンリは川で洗濯……にはいかずに家で掃除や洗濯をしたり、食事を作ったりして過ごしました。引き籠もりです。
小人(?)達はアンリに、自分達が居ない間に知らない人を家に入れてはいけないと固く言って聞かせました。
ところがある日、恐れていたことが起こってしまいます。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰ですか?」
お后様がいつも通り鏡に尋ねると、鏡はこう答えました。
「山向こうの七人の小人(?)達の家にいるアンリです……」
猟師に騙されたことを知ったお后様は猟師を捕えようとしますが、既にもぬけの殻でした。猟師を捕えることを諦めたお后様は自分で白雪姫を殺そうと考え、老婆に変装すると毒林檎を手に小人(?)達の家へと向かいました。
小人(?)達の家に着くと、老婆に変装したお后様は窓を叩いて言いました。
「美しい娘さん、林檎はどうだい?」
「美味しそう、ありがとう」
猜疑心の強いアンリですが、実は甘いものには目がなく、林檎につられてふらふらと老婆を家に入れてしまいました。しかし、その林檎を一口齧った直後、アンリはバタリと倒れてしまいます。
「ククク、ハハハハ、アーハッハッハッ!」
お后様は魔王のような高笑いを浮かべると、意気揚々とお城へと帰っていきました。
小人(?)達が山から帰って来ると、そこには既に冷たくなったアンリが横たわっていました。アンリの死を悲しんだ小人達は、せめて美しいアンリの姿がいつでも見られるようにと、水晶の棺の中にアンリを寝かせて森の中に置きました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日、一人の国王が森でアンリの棺を見付けました。
「何て美しい姫なのだ。まるで眠っているようだ」
国王は思わず棺の蓋を魔剣で一刀両断し、中に横たわるアンリに口付けました。
すると、その弾みでアンリが飲み込んでいた毒林檎の欠片が喉から飛び出しました。
アンリは、不思議そうに辺りを見回すと、驚いて硬直している国王に気付きました。そして、同時に自身の唇に残る感触から何があったかを悟り顔を赤らめました。
「責任取って」
アンリはそう言うと、国王と目を合わせました。
国王は即座に土下座しました。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰ですか?」
「それはお后様、貴女の娘のアンリです……但し、彼女と目を合わせられる者が居るかは別の話です」
<配役>
白雪姫:アンリ
お后様:ソフィア
猟師:邪神?
7人の小人:アーク、ジオ、ライオネル、オーレイン、レナルヴェ、ヴィクト、イジド
国王:魔王エリゴール