不思議の国の邪神様3 ~大きければ良いというものでも~
不思議の国の邪神様1:2015/09/25 20時投稿
不思議の国の邪神様2:2015/09/25 21時投稿
不思議の国の邪神様3:2015/09/25 22時投稿←いまここ
不思議の国の邪神様4:2015/09/25 23時投稿
金色の鍵で扉を開けた先には道が続いており、その道は小高い丘の上のお城まで伸びていました。
アンリが歩いていると、数人の男女が何かの作業をしているのが見えました。
よく見ると、それは花にペンキを塗っているようです。
白い薔薇の花に赤いペンキを塗って、真紅の薔薇へと変えているのでした。
「何で、白い薔薇をわざわざペンキで赤く塗ってるの?」
「女王様は真紅の薔薇が好きなんだ。
もしも白い薔薇なんて残しているところを見られたら、首を斬られてしまうよ」
爽やかな金髪の薔薇塗り職人は、不思議そうに問い掛けたアンリにそんな言葉を返しました。
アンリはいまいち理解出来ませんでしたが、そういうものかと無理矢理納得してそれ以上問うのをやめました。
そして何の気なしに、まだペンキが塗られていない白い薔薇に指を触れました。
その瞬間、全ての薔薇が漆黒へと変貌しました。
「ああ!? 何てことを!」
思わぬ事態に混乱するアンリに、薔薇塗り職人達が非難を浴びせます。
白い薔薇であれば赤いペンキを塗れば赤く染まりますが、漆黒の薔薇に赤いペンキを塗っても目立ちません。
これで、この辺一体の薔薇を真紅の薔薇にすることは不可能になってしまいました。
「な、何事ですか!? こ、これは……」
更に悪いことに、たまたま女王様が通り掛かってその様子を見てしまいました。
お気に入りの花の惨状に、女王は激怒してわなわなと震えています。
「一体、誰の仕業ですか……?」
地獄の底から聞こえるような低い声で問い掛ける女王様に、薔薇塗り職人達は一斉に忍び足でそこから逃げようとしていたアンリを指差しました。
「………………てへ」
「そこになおりなさい、成敗してくれます」
誤魔化そうとするアンリですが、女王様はいつの間にか全身甲冑を纏うと、大剣を構えていました。
その大剣はアンリの身の丈程もありそうな巨大な剣であり、長さもさることながら幅もぶっとく、最早剣と言うよりも鉄塊と呼んだ方が良いような代物です。
当然、相当な重量の筈ですが、女王様はその大剣を片腕で軽々と構えています。
彼女にこの大剣を叩き付けられたら、首を斬られるどころの話ではなく、塵一つ残さず消し飛んでしまいそうです。
「お、大きければ良いというものではないと思う」
「それが辞世の言葉ということで良いですね」
思わず阿呆なことを呟いたアンリに、女王様はジリジリと近付くと大剣を振り被りました。
絶体絶命のピンチに、アンリは思わず目を瞑りました。