不思議の国の邪神様1 ~今は無理だけどそのうち~
<原典>
不思議の国のアリス
不思議の国の邪神様1:2015/09/25 20時投稿←いまここ
不思議の国の邪神様2:2015/09/25 21時投稿
不思議の国の邪神様3:2015/09/25 22時投稿
不思議の国の邪神様4:2015/09/25 23時投稿
ある日、アンリが川辺の木の下で、読書をしているレオノーラの傍に退屈を感じながらも座っていると、少し離れたところから奇妙な声がしました。
「遅刻遅刻〜」
それは兎耳を付けチョッキを着た胡散臭い黒髪の少年でした。何故か食パンを口に咥えて、アンリ達の前を通って向こうへと走っていきます。
「………………」
アンリは見なかったことにしました。
関わるとロクなことにならないことが容易に想像出来たためです。
「遅刻遅刻〜」
しかし、ウサ耳少年は何故かUターンして戻ってきて、アンリの前をこれ見よがしに先程とは逆方向に通り過ぎます。
「………………」
アンリは少しイラッとしながらも、目を閉じて見なかった振りを続けます。
「遅刻遅刻〜……って、何でこんな可愛らしい兎に興味を示さないのさ!?」
三度前を通り過ぎようとしたウサ耳少年は、アンリが反応を示さないことに怒って、振り返ると喰って掛かってきました。
「聞こえない聞こえない」
詰め寄られたアンリは、負けじと両手で耳を塞いで籠城の構えを取ります。
「仕方ないなぁ、もう。
強制的にでもこっちに来てもらうからね」
「──────ッ!?」
そう言うと、ウサ耳少年はアンリの右脚をガシッと掴むと、恐ろしい力で無造作に引き摺り始めました。
アンリは突然の暴挙に慌てて閉じていた目を開き、自由になっている左脚でウサ耳少年を蹴り飛ばそうとします。
しかし、その左脚も絡め取るように掴まれてしまいました。
「レオノーラ!」
アンリはすぐそばで本を読んでいる筈のレオノーラに助けを求めようとしますが、レオノーラは意に介さず読書を続けています。
目の前で行われているアンリとウサ耳少年の行動にも気付かないその姿は、何らかの力で意識を操作されているのが明らかでした。
アンリはレオノーラに助けてもらうのを諦めて、何とか身を捩ってウサ耳少年の手から逃れようとしました。
しかし、両脚を抱えられている状態では満足な抵抗も出来ず、為す術もなく引き摺られてしまいます。
ウサ耳少年はアンリを引き摺ったまましばらく歩くと、やがて立ち止まりました。
アンリが前方を見ると、地面に不自然な穴が空いているのが目に入ってきました。
「……まさか」
「それじゃ、いってらっしゃい〜。ポイッ」
嫌な予感を感じるアンリ。
その予想は正しく、ウサ耳少年は容赦なくアンリの身を穴の方へと放り投げました。
「──────ッ!?」
アンリは宙に投げ出された浮遊感と恐怖に、悲鳴を上げました……但し、内心で。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
長い長い落下の後、アンリはドスンッと音を立てて着地しました。
「ポンッ」
訂正、ポンッという軽い音を立てて着地しました。
落ちた先は広間になっており、中央にはテーブルがありました。
テーブルの上には大きな金色の鍵が置かれています。
「?」
アンリがその鍵を見て周囲に使えるところが無いか探すと広間の一角に扉があるのを見付けました。
しかし、その扉はどうにも大き過ぎて、鍵穴に鍵を入れることがまず出来そうにありません。
どうしたものかと改めて周囲を見渡したアンリの視界に、奇妙な物が映りました。
それは中に何らかの液体が入った小瓶で、表面には「私を飲みなさい」の文字が書かれています。
「………………」
アンリは非常に胡散臭い物を見る目で、その小瓶を見詰めます。
勿論、そんな怪しい物を口にするわけがありません。
「今はまだ無理だけど、そのうち……」
通れないところは後回しにするのが、ダンジョン攻略の基本です。
アンリは扉を開けるのを断念し、その広間を後にして別の場所へと向かいました。