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下された任務


――『もう、お前を独りにはしない』――


それはかつて、最初で最後の恋をした少年の後悔。


――『ずっと傍にいる』――


それはかつて、家族を失った少年の決意。



――『たとえお前が、忘れたとしても』――




命尽きる、その時まで。






「特別部隊に命ずる」


火の国で起きた闇の襲撃から二週間ほど経った頃。

アルフォンスとアシュレイのたった二人しか所属していない部隊が呼び出された。

火王兼騎士団長でもあるアーデントから、直々に命令が下される。


「闇の実態及び動向を調査しろ。行動範囲は国内外問わないものとする。伝達及び報告は、アシュレイを通じて私に直接伝えろ。私からの指示や命令等もアシュレイを通じて行う」


それは闇の現状において、アルフォンスが一番詳しいと判断されたからこその命令だった。

強さに関しても申し分ない。ただ一つ不安点をあげるとするならば、たった二人という圧倒的な数の少なさだろう。


「しかしくれぐれも無理はするな。必要であれば、私に言ってくれれば応援も送るし、各国からの協力も仰ごう」


そんな火王の心配をよそに、アルフォンスは軽々しく了解の意を伝える。


「食費とか宿泊費とかはもらえるんでしょ?」


「あぁ、もちろんだ。ただ首都アーデンティリアで起きた闇襲撃の復旧に資金を回さなければいけない関係で、多く渡すことはできない。こちらで手配できそうな範囲であれば、事前に言ってくれればやっておこう」


「えー、贅沢はできないってことー?」


「勘違いするな。これは旅行なんかじゃない。任務だ。そのことを忘れるなよ」


アルフォンスは「はいはい」と雑な返事を返し、そんな彼に火王は呆れて溜息をついた。

頼みの綱はアシュレイにかかっている。火王はアシュレイに「頼んだぞ」と一言声がけた。




出立は三日後と指定され、その間に、どこに向かい何をするか、何が必要かといった目的と共に、荷造りや身支度を整えなければならない。

アルフォンスはまだしも、女性であるアシュレイにとっては時間が足りないように思えた。


「最初の目的は決まってる。向かう先も、宿泊先も問題ない。――ということで、キミはこの三日間好きに過ごすといいよー」


そう言って、アルフォンスは自室に戻りながらアシュレイに手を振る。


アシュレイはというと、目的や行先の詳細を聞かされることなく、何なら返事もろくに聞かずに歩いて行ってしまったアルフォンスに呆然としていた。

これは、彼なりの気遣いなのか、はたまたただ面倒くさいだけなのかはわからない。

だがアシュレイは言われた通り、長らく一緒に働いてきたメイド達や関わりの深かった街の人々への挨拶回りをしつつ、心の整理を含めた断捨離を行うことにした。



一方アルフォンスは、“貴女様”宛の手紙の逆探知をするべく、自室でベッドに寝転び目を閉じる。

手紙の内容を読んだ後、彼は同じ形式で新しく綺麗に封を閉じ直すと共に、自身の“気”を僅かながらに手紙込めていた。そして、シリルと同様の台詞で本来の店主に手紙を渡すことで、ルートを辿っていたのだ。

その手紙は、わざわざ各国を練り歩いていた。

この世界における郵便という物は、本来魔法道具によって転送される。国外であったとしても、国から国、国から各家へというように二段階に分けられるだけで、どんなに遠くても二日程度で送り先に届く。

しかしながら、花束と共に送られた手紙は、わざわざ人為的な働きによって運ばれていた。

(ドラゴン)に乗って運ぶとしても、各国を回るとなると流石に時間がかかりすぎることは、この世界の住人はわかりきっていることだ。

そんなことをわざわざ行うというのは、その手紙がいかに重要で秘匿すべきものなのかを物語っていた。

僅かながらの“気”で捉えていたそれは、各国を巡る中、まるで途中がくり抜かれたように途切れることがあった。

そう時間がかかることなく、また捉えられるようになるのだが、アルフォンスにとって何度も途切れること自体が引っかかっていた。


『ねぇ、君の“気”でもそんな途切れることあるの?』


『いや有り得ねぇな。ほんの少しの“気”といっても、その基準は魔力の純度だ。量より質を問われるもので、俺様に叶うやつはいない』


アルフォンスの問いに、彼の相棒(パートナー)である邪神竜ははっきりと答えた。

火の国、水の国、氷の国、そして風の国と順繰りに巡った手紙は、今現在雷の国の上空を飛んでいるようだった。

しかし、その向かう先は火の国に帰っているわけではない。


中央の森――かつて、【太陽と月(ヘリオスセレーネ)】と呼ばれた国が存在していた場所に向かっていた。


そして――


「――消えた」


アルフォンスは呟くと同時に目を開いた。

そう、途切れたのではなく、()()()のだ。

それは、手紙が宛先――つまりは“貴女様”の手に渡ったことを示していた。


「よりにもよって、そこか……」


少年は、低く唸るように呟いた。

そこは彼にとっての想い出の地……今は亡き彼女と過ごした家にあたる場所だった。



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