待ち望んだ手紙 “貴方様”side
大変お待たせいたしました……!
視点は引き続き“貴方様”ですが、時は現在に戻ります。
お楽しみいただければ幸いです。
「ジュリア様、手紙が届いております」
「ありがとう」
森の中にある木材でできた小屋の中。この小屋を覆うように結界と幻覚が張られ、この小屋自体を視認することは常人にはできない。
この森はかつて忘れ去られた街――いや、一つの国が存在していた場所。
この世界からその国が消し去られたとき、その場所は森へと姿を変えた。
しかし、その国の生き残りが唯一一人だけいる。
それが彼女、——ジュリア・アディンセルである。かつては消えた国の騎士団長の娘、そして今では父の跡を継ぎ各国の精鋭が揃う世界最強の騎士団【陰陽の聖騎士団】の団長である。
ジュリアは手紙を受け取ると、一緒に届いた花束を横目に確認する。――赤い花が二本、火ノ国にいる者からの手紙だ。
封をあけると、目を見開き気が急いた様子で手紙の内容に目を通す。
「…………」
手紙の内容は待ち望んでいた物ではあったが、結果は期待通りとはいかなかった。
「どうしました?」
ジュリアの普段とは違う様子に気づいたらしい、秘書のエリアス・ディラックが声をかける。
「あぁ、いや、なんでもない。気にしないで」
そう言いながらも、ジュリアは再度手紙を読み返していた。
〈親愛なる貴方様へ。
アルフォンスという人物について報告致します。
当初の見た目は、火ノ国によく見られる濃く明るい赤の髪と、黄色味を帯びた赤い目の色でした。しかし、ある日突然、灰色の髪に紫の目になって朝の訓練に来ました。
火王様はそこに何も触れなかったため事情を知っているかと思われます。
本来の姿が灰色の髪に紫の目のほうなのでしょう。
アルフォンスは魔法が使えず、様々な種類の剣を使って戦います。
性格は正直読めない、というのが本音です。常に貼り付けたような笑みを浮かべ、その目からは何の感情も読めません。
年齢は成人していないと思われます、恐らく16歳ほどかと。
しかしそんな見た目に反して、彼の強さは尋常じゃありません。魔法が使えないというのに、紅蓮の聖騎士団トップ3を相手に完全勝利を収めています。
また、誰に対しても常にタメ口、まるで相手を見下しているかのように感じるほどに軽い口調です。
その口調もあるのか、雰囲気でさえも雲をつかむように読めません。
ただ、戦闘を行う際、“楽しむ”ことを重視しているようなことを言います。しかし、純粋なそれではなく、どこか狂気じみているような雰囲気を、戦闘している際に時折感じるときがあります。しかしそれもまた、確かなものではありません。彼は基本的に自由行動かつ単体行動です。毎朝の訓練には必ず遅れてきますが、これだけは欠かさずに来ています。恐らく、火王様にはさすがに逆らえないのでしょう。
以上が報告となります。
ここからは自分の第六感を信じて書きます。何の証拠もないものですが、確かに感じたものです。
アルフォンスを味方の体を使って追跡していたときのことです。
彼は術者である自分に、気づいているような様子でした。彼が口にしている言葉も、全て自分に向けられているように感じたのです。
恐怖を、抱きました。彼がまるで悪魔のように感じました。
追跡者との戦闘でも、確かに魔法は使っていません。
しかし、何かしらの能力があるのではないかと感じました。それが確かかどうかは自分でもわかりません、ただ今確かに恐怖を抱いている。死の恐怖を。
彼は、秘密に満ちたような存在です。
しかし、一つだけ言えることがあります。
――“彼”という存在が敵なのであれば、その危険性は絶大なものになるでしょう。
どうか、貴方様にとって良い結果となることを願っております。〉
まとまっていない書きなぐられたような文からは、この手紙を書くのに急を要していたことがわかる。
そう、それは恐らく、死が直面しようとしていたのだろう。
彼がどうなったか気になるところではあるが、それよりも手紙の内容のほうがジュリアにとっては重要であった。
なぜなら、この任務を与えた理由が、アルフォンスという男が彼――ノアであるという可能性があったからである。
火ノ国が闇の襲撃にあったことは、すぐにジュリアの耳にも入った。
闇の数が膨大であったこと、戦闘を行った紅蓮の聖騎士団が壊滅にまで追いやられたこと、そして――緋色の髪に朱色の瞳をした男が危機を救ったこと。
男の髪と目の色は、ジュリアの知るノアの姿と一緒であった。
そこに期待をした彼女であったが、手紙の内容はそれを確実にすることはおろか、期待を否定するかのような内容であった。
ノアが闇の者であったならば、本来の髪と目の色は黒のはず。そして、男とノアが同一人物なら、男の本来の髪と目の色は黒でなくてはならない。
しかし、男の本来の髪は灰色で、目は紫だという。
ノアも、男も、魔法は使えない。
同一人物である可能性は低いだろう。
(でも、この二人が本来の色をどう隠していたかがわかれば、まだ希望はあるかもしれない)
彼女は、探し続けている。
天使が処刑された日を境に、行方不明になった彼を。
探してどうなるのか。
見つけたとして、どうするのか。
それを考えないほど、彼女も愚かではない。
しかし、それを問題とさえしないほどに、彼女にとってまずは彼を“見つけること”が何よりも重要であった。
四月から本格的に学業のほうに力を入れたいため、更新頻度が極めて低くなります。(執筆停止も視野にいれております)
私事で申し訳ありませんが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。




