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向上

その後、アルフォンスとアシュレイの戦闘は火王アーデントによって、訓練所にいる全ての騎士達にアルフォンスの勝利が告げられた。


火王を除く全ての者がアシュレイの勝利を信じて疑わなかった。

魔法の使えない者が、魔法の使える者――それも火王の娘という圧倒的な強さを誇る者に勝つなど、普通は思いもしないだろう。

この戦闘の結果は、誰もがアルフォンスの強さを認めざるを得なくなった瞬間である。


ざわつく騎士達をよそにアルフォンスは戦闘にて使った短剣を回収すると、「じゃ」と軽く手を振り訓練所の出口へ向かった。


「おい、どこへ行く。まだ訓練は終わっていないぞ」


そう言う火王に、アルフォンスは歩を止め面倒だというように溜息をついた。そして振り返り言う。


「これ以上の良質な訓練がこれから行えるとは思えないんだけど。だってこれから他の騎士さんたちがここに下りてきて、みんなでこの場所を使って練習するんでしょう? それも部隊で分かれての練習」


「そうだ。それに何の問題がある」


火王がそう問うとアルフォンスは呆れるような笑みを浮かべながら答えた。


「騎士全員と闘えるならまだしも、部隊別の練習なんて、邪魔なだけなんだよ。思わず斬っちゃうかもしれない」


「貴様っ……!!」


アルフォンスの言葉を聞いた騎士が怒りを露わにするものの、アルフォンスはそれに嘲笑を返した。


「だって本当のことでしょう? ま、さすがに斬っちゃうっていうのは冗談だけど」


そう騎士に言うと、「それに」と呟きアシュレイを見ながら言う。


「部隊別の練習ならボクとアシュレイさんでの練習ってなるけど、……彼女、少し時間が必要だと思うよ。ほら、反省ってやつだよ。振り返って、自主練でもしたら?」


その言葉に、火王はアシュレイに「お前はどうしたい」と問いかけた。


「はい、アルフォンス様の仰っていた通りにしたく思います。自分を見つめ直し、極める時間を頂戴したいです」


「……わかった。お前がそう言うなら、そうしなさい」


するとアルフォンスはさぁ終わったというように「じゃ、ボクは行くねー」と言って訓練所を後にした。


「あっ、おい! アルフォンス!! ……ったく」


火王はアルフォンスの背を呆れた目で見つめ、溜息をつくとアシュレイに言った。


「もし相手役が欲しかったら私に言いなさい。相手になろう」


「ありがとうございます」


そうしてアシュレイ含む騎士達は火王アーデントの指示の下訓練を開始した。







訓練所を後にしたアルフォンスは城から出て市場に来た。

それは今回のアシュレイとの戦闘で彼にも学ぶことがあったからである。

魔法が使えない設定であるため、戦闘能力の高い者と戦う際は多くの武器が必要になってくる。その武器の調達と、それらを入れて持ち歩くための物の入手が市場に来た目的だ。


『なぁ、アルフォンスよ。市場に来たのはいいが、お前金あんのかよ』


アルフォンスの相棒パートナーである邪神竜がそう言った。

それにアルフォンスが心話で答える。


『あるよー。金に心配はいらない』


『は? お前なんでそんな持ってんだ。騎士になって間もないし、貯金なんて今まで働いてないんだからあるはずねぇだろうが』


『働いてたよ? ちゃんと。貯金だってたくさんある』


『あ……? どういう意味だ』


アルフォンスは店で物を見定めながら答えた。


『今まで僕はちゃんと“復讐者”として働いてきた。死んだ奴に金なんて必要ないでしょ? だからそれは僕の給料になるってわけ。わかった?』


その言葉に邪神竜は一瞬呆気にとられ言葉を返せないでいたが、やがて笑みを浮かべながらこう返す。


『……なるほどな。魔法の使えない“闇”のお前がどう独りで生きてきたかが漸くわかったぜ。それもまた復讐のうち、か?』


『そんな感じ。――あ、これとかいいかも』


アルフォンスが手に取ったのは指輪だった。その指輪には収納することができる魔法がかかっている。

指輪を中指にはめて使うらしい。収納する際はこの指輪に収納したいものを触れさせ、収納したものを取り出すもしくは使用する際はただ頭に思う浮かべながら念じればいい。

入る上限もなく、指輪というだけあって使い勝手が良さそうだった。


アルフォンスはその指輪を二つ購入し、早速両手の中指にはめた。


(よし、良い感じ。……あとは武器と魔法道具かなぁ)


そうして店を移動する。――が、その時邪神竜が言った。


『おい、気づいてるか』


『もちろん』


跡をつけている者がいる――。しかしアルフォンスはそれをわかっていながら悠々と買い物を続ける。


『大丈夫。こんな人が多いところでは何もできないはずだよ。もし近づいてきて何かするようであれば返り討ちにしてやるだけ』


そうしていろんな店を転々としては大量の武器と魔法道具を買い揃えていき、それら全て指輪に収納していった。


そして漸く買い物が終わると、アルフォンスが邪神竜に『お待たせ』と声を掛けると邪神竜は言った。


『おっせぇよ。どんだけ買い物すんだ、……ったく』


『ごめんごめん。ほら、これから君が好きそうなことをしていくから。――アイツの対処に入るよ』


邪神竜はふっと笑うと、声を弾ませながらアルフォンスに聞く。


『アイツ、どうすんだよ。殺すか?』


『んー、どうしようね。まだ明るいし、この姿のまま殺すのはちょっと危ないかなぁ。……ま、話を聞いてみて、あとは――そうだな、僕の気分次第かな』


アルフォンスはそう答えながら、ふと嫌な予感がして眉間に皺を寄せた。


(まさか、な……)


その嫌な予感が当たらぬことを願いながら、アルフォンスは人のいない場所へと向かった。




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