生まれ変わる復讐心
大変お待たせしました!!
第三章第二部、始まります。
“誰もが寝静まる時間帯”。
行きとは異なり雲が月を隠し、些細な物音であればかき消すほどの雨が降っている。
そんな中“孤独な場所”から自室へと帰ってきたアレシアは、濡れた衣服を脱ぎ体を温めるべく浴室へと入った。
キュッという音を響かせながらハンドルを捻りシャワーを浴びる。
「…………」
目を閉じるとシャワーの音が外の雨音のようにも聞こえ、“彼”の言葉が、その情景が、脳裏を過ぎった。
――――“「ようこそ、闇の世界へ。――僕を含め、闇は君を歓迎するよ」”。
そうして差し出された手をとることに、何の躊躇いもなかった。
母・火王アーデントからの“アルフォンスの監視と彼に関する情報収集”という命令に背く行為だと知りながら、闇の少年の手をとった。
そもそも、アレシアに火王の命令に従う気など元からない。
彼女は幼少期からすでに闇側の人間であるからだ。
しかし、火王の命令への対応は考えなければならないだろう。
アレシアは顔を俯かせ、目を開ける。
そして徐ろに掌を見つめた。
彼女は自身の記憶が一部ないことに気づいている。
その欠けた記憶が、自分自身にとってとても重要なことであることもわかっていた。
それと同時に、それが悲しみと虚しさを自分にもたらすのだということも。
その計り知れない痛みを考えると、記憶を取り戻すのが恐ろしく感じる。
しかし、取り戻さなければいけない。
記憶を失っても尚残ったこの復讐心が、今叶おうと動き出したのだから。
「……この復讐は、私の使命。果たさなければならない」
そう呟き、アレシアは空白を握った。
向き合わなければならない。失った記憶と、非情な現実に――――。
……――シャワーを浴び終わり、服を身に纏っていくアレシア。
いつものように最後にあの思い出の耳飾りをつけようと、ドレッサーに置いていたそれに触れた、その瞬間。
「っ……!!!」
―――電気が走るかのように、映像が頭の中に流れ込んできた。
「な、に……これっ……」
時間にして、たった一秒程の長さ。
しかしそのあまりに短い時間に反して、アレシアの脳内に流れた映像と情報、それによって生まれた彼女の感情の数は、凄まじく多かった。
一秒で得た情報の多さに、アレシアは思わず倒れ込みそうになる。
洗面台に手をつくことでそれを耐えた彼女だったが、しばらくの間その姿勢のまま立ち尽くした。
脳内に流れた映像、そのほとんどが、――誰かの死だった。
その中には、見知った姿もある。
「こ、れは……、私の、記憶……?」
そう呟き、脳内に流れたものが自分の記憶――過去だと認めた瞬間、涙が溢れ出し頬を伝った。
「っ……はぁっ……ぁ……」
心臓がドクドクと嫌な音をたてている。
思い出した記憶の中に、リヒトの姿はなかった。
しかし、彼がどうなったかを予想するのは容易かった。
不規則な呼吸により頭がうまく回らない。それが余計に彼女の感情をはっきりさせ、かつそれを彼女自身に突きつけた。
想像を絶する悲しみ、虚しさ。
そして、怒りを通り越し生まれた、憎しみ、怨み。
そうして、彼女の復讐心は変化する。
(死んだあの子達のためにも……本当の“闇”を、世界に知らしめなきゃ。そして――――)
復讐する理由が、今、鮮明になったからだ。
(――同じ苦しみを、味あわせてやる)
顔を上げ、鏡に映った彼女の表情は、今までのそれとはまるで違った。
「お母様、あなたは火ノ国の王。――私の敵」
復讐のためなら何でもする。そう、母親を殺すことさえ、考えるほどに。
闇の少年と同じ――復讐者、そのものである。




