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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
72/109

死の鈴音

誰もが寝静まった真夜中。

三日月がどこか不気味な雰囲気を纏いながら街を見下ろしている。

静かな街に唯一響くのは、何かに別れを告げるように切なげな虫の歌。


風が吹く――。

木々がざわめき、木の葉が散った。



――シャラン。



どこからか聞こえた鈴の音。



それは、――【死】の音。






閉まっていたはずの窓から少し冷えた風が吹き込み、寝ているカルヴィンの頬を撫でた。


「…………」


ふと目が覚めたカルヴィンは、真っ先に目に入ってきた自身の手を茫然と見つめる。

月明かりに照らされたその手は、一瞬血塗れているように見えた。


「っ……」


すぐにそれは錯覚だと気付く。

大分精神的に追いやられていることが自分でもわかった。

だが彼には、“彼女”がいる。

カルヴィンは一つ息を吐き、自身を落ち着かせた。


しかし、――次の瞬間。


「――!!」


手が一瞬(かげ)ると同時に背後――いや、頭上に殺気を感じた。

咄嗟にベッドから転げ落ちるようにして迫る殺気をかわす。


「さすが、ですね」


聞こえた声は、良く知る“彼女”のものだった。


「お、まえ、は……」


カルヴィンがいたところには短剣が刺さっている。

やがてそれは紅い蓮の花びらへと姿を変え、そして小さな炎をあげながら消えた。


「あなたの命令を遂行しにきました」


まだ僅かにあどけなさの残る声音。


まるで舞い降りたかのようにベッドの上に姿を現した影。

こちらを向いて片膝をつき、頭を垂れるその姿には見覚えがある。

“彼女”の名を、彼は知っている――。


「――アレシア」


窓から差し込んできた月光によって顕になるその姿。

それは普段の彼女とはまるで違うもの。


白の着物に黒がかった紅の袴を身に纏い、真紅の美しい髪を風に靡かせている彼女の目元は、狐の仮面によって隠されていた。


カルヴィンの呼びかけに彼女は応える。


「はい、カルヴィン様」


いつもと変わらない受け答え。

しかしその声はどこか、嬉しげだった。


「なぜ、その姿のお前が、ここにいる……」


浮かんだ疑問をそのまま口にするカルヴィンに、アレシアは初めての笑みを向けた。

どこか妖艶なそれは、一瞬恐怖を忘れさせる。

彼女の年齢とは見合わない妖艶さ。

しかしそこに秘められた狂気に気付けば、恐怖は一際大きなものになった。


「だから、あなたの命令を遂行しにきたのです」


そう言うと、顔を俯かせ立ち上がる。

そして、顔を上げた瞬間――。


「殺しに来ました、カルヴィン様」


そう言った彼女の顔からは笑顔が消え去っていた。

アレシアのカルヴィンを見る目は侮蔑と憎悪を湛えている。


「どういう、ことだ……。なぜ俺を、殺す……?」


理解が追いつかない彼は、目の前の殺気に圧倒されるように後ずさった。


しかし彼を追い詰めるように、アレシアは一歩ずつ、距離をつめる。

彼女が近づくたび、カルヴィンは後ろへ下がった。


アレシアが近づく度、カルヴィンは思い知らされることになる。



――それは、自身が行ってきた行為なのだと。



「あなたは言いました」


一歩。


「“自分の名に」


また一歩。


「傷がつかなければいい”と」


近づくと同時に、アレシアの殺気が強くなる。



そして彼女は告げた。


「“その座に上り詰めた」


冷酷で残忍な――


「自身の名声が続くなら――」



――彼自身の言葉を。



「――何でもいい、誰でもいい……殺せ”、と」



その言葉を聞いた瞬間、カルヴィンは漸く自身に迫った死に気付いた。

その死は今まで自身が与えてきたもの。

しかしだからと言って、己に返ってきたそれを易々と受け入れるカルヴィンではなかった――――。








始まったのは、英雄の顔をもつ悪魔との殺し合い。


「っ……、子ども相手に、随分と大人げないですね」


勝つのは、悪魔(英雄)か、妖狐(殺人鬼)か――。




【次回】最終任務




「最後まで面白いやつだったよ、お前は」



木の葉は静かに、血の海に沈んでいった――……






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