罪と罰
『これからどうするつもりだ』
相棒にそう問われた少年は、眼下に広がる街を見下ろしながら答える。
「そうだな……まずは、簡単なことから始めようか……」
夜が明けると、街は混乱に陥った。
消えたのだ。
――街から幾人もの人々が。
「誰か……誰か私の夫を知りませんか?!」
「お前のところもか……!?」
「昨日まではいたのですが、夜中物音がして……気付いたら夫がいなかったんです……。肌身離さず持っていた剣を置いて……いなくなってしまって……」
「…………」
全く同じ状況だった。
いなくなった者たちは皆、相棒である剣を置いて消えた。
何の前触れもなく、突如として。
すると突然。
「やだ!! 何あれ?!」
一人の女が指をさし悲鳴をあげた。
その方向には処刑場があり、そこには――――
――――十字架に繋がれた者たちの姿。
処刑場の周りに人が集まる。
十字架に繋がれた者たちは騎士であったり、農民であったりと、見たところの繋がりはなかった。
彼らの意識はあるが、虚ろな目でどこかを見ているのかはっきりしていない。
「誰があんなことを……」
「誰か……誰か助けてあげて……!!」
その時。
それらの声に反して、彼らの足元に炎が現れる。
――黒い、炎が。
民衆が悲鳴をあげた。
そんな人々の前に黒いローブに包まれた16か17くらいの少年が現れた。
彼は宙に浮き、騒ぐ民衆を見下ろしている。
「どうも、皆さん。――――ボクが【孤独な悪魔】と呼ばれる者です」
感情の読めない笑顔でそう言って、「以後、お見知りおきを」と芝居がかったように頭をさげた。
人々は困惑し、そして少年に恐怖を抱く。
「あなたがこんなことをしたのっ?!」
一人の女が少年に言った。
しかし少年は。
「――そうだと言ったらどうする?」
笑みを浮かべながらそう言って誤魔化すだけだ。
「……あの人達を早く解放しなさい」
「それは無理なお願いだね」
「どうしてっ――――何が目的なのよ?!」
――少年から笑みが消えた。
そして、その目に蔑みと憎悪が滲む。
「忘れたの? キミたちの犯した罪を」
少年の姿が消え、代わりに何十本もの黒い剣が現れた。
『罪なる者にはそれ相応の罰を――――』
そんな声が響き渡り、瞬間――
――――剣が一斉に動き出す。
それらは十字架に繋がれた者たちを貫いた。
――――彼女のように、滅多刺しにした。
そして炎の勢いがあがり、彼らを包み込む。
絶望に満ちた悲鳴と、悲痛に名を呼ぶ声が響き渡る。
何人かの者たちが駆け寄ろうとするが、皆十字架を目の前にして他の者に止められた。
「いやぁぁああああああ――――!!」
「放して!! 私も……私も彼と――――」
「頼む行かせてくれ!! 俺には彼女しかっーー」
ある者は泣き叫び、ある者は泣き崩れた。
炎が消え、残されたのは骨のみ。
「あ……あ……」
一人の女が骸骨と化した恋人の頬に、震える手で触れた。
瞬間――
――その骨は灰と化し、手から滑り落ちていってしまう。
残された骨を繋ぎ止めるように抱きしめるが、それも虚しく灰と化した。
女は狂ったように泣き叫んだ。
そこから離れた場所で、一切の感情がないどこか虚ろな表情で、少年は静かにその光景を眺めていた。
「…………」
『どうした、黙り込んで』
「いや、別に。ただ――――
――――何が正義で、何が悪なんだろうって思ってね」
そう呟く少年の目は、酷く淀んでいて、酷く――
――――悲しそうだった。