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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
67/109

最後の晩餐

その日の夕食は、いつもより早めに準備がされた。


理由は簡単。

“最後の晩餐”をするためだ。


――――最後の、幸せを。



闇の存在が知られたのなら、騎士たちが捜索をしないはずがない。

そして、ここは一つの街しかない小さな国。

この場所を知られるのも時間の問題だ。


「わぁ……! 今日はすごいごちそうだね!」


子ども達が食卓に並んだ料理を見て目を輝かせた。

そして次々に定位置に座り始める。


「どうしてこんなに豪華なの?」


「今日って誰かの誕生日だったっけ?」


子ども達はその純粋な目でアレシアたちに問いかけた。

どう言うのが正解かわからず、アレシアとリヒトは黙り込んでしまう。

フィリスとアドルフは目を合わせると、優しい声音で言った。


「今日は、みんなにとって、大事な日だからよ」


「みんなにとって、特別な日だ」


「「…………?」」


フィリスたちの顔は言葉とは裏腹にどこか寂しげで暗く、子ども達は違和感を持つ。

五年という月日はあまりにも長い。

彼らも、もう忘れてしまっただろう、……【死】に追われるあの感覚を。


「なぁ」


リヒトがソフィアたちに声をかける。


「チビたちにも、ちゃんと言って、聞いたほうがいいんじゃねぇ? 俺たちが決めていいことじゃねぇだろ」


その言葉に一瞬の沈黙のあと、アドルフがふっと息をついて「それもそうだな……」と小さく答えた。


そして、子ども達に現状を話す。

子ども達にとってあまりにも残酷な現実をつきつけるのは、親という立場であるアドルフたちにとっても苦しいものだった。


ほとんどの子どもは思い出した自分達の立場に、みな何も言えずにいた。

静かに涙を浮かべる者、唇を噛み締める者、ただ茫然と虚空を見つめる者――。


「……しょうがないよ」


一人の子どもが呟くように言った。


「ぼくたちは、闇だから」


「わたし、幸せ、たくさん感じたもん」


「願い、叶ったから」


「普通にくらして、普通な“幸せ”を手に入れるって願い」


「だからね、――もう、いいよ」


そう言って、子ども達は寂しげに微笑んだ。

彼らの言葉は“子ども”とは思えないほど、落ち着いたものだった。

そして、その年齢に相応しくない大人びた表情――。


それは、どこか諦めたような、けれど幸せそうな、儚いものだ。


アドルフたちも初めて見るその表情に驚くものの、やがて彼らの顔も同じ表情に変わる。


一人、アレシアだけが、悔しげに顔を歪めていた……。



彼らの笑みを……なぜ、失わなければ、ならない――――?



その怒りに似た悲しみは、どこにも、ぶつけることはできない。


ただ彼女の中で渦をまくように大きくなっていくそれ。

アレシアは、目を瞑り、こらえるように、俯いた――――。




「さて、と。じゃあ、最後の晩餐といきますか」


アドルフがそう言って、食事の始まりを仕切る。

始まった晩餐は、幸せに溢れた思い出話で積もり、それは星が夜空を埋めるその時まで続いた――。







“幸せ”の時間は、あっけなく、終わりを告げる。


「――我ら五カ国に認められし者」



――――泡沫の、幸せ。



「――悪の象徴“闇”の者達を捕らえに来た」



叫びは……



「――――この中の誰が、犯罪をしたっていうのよ!!!」





――――届かない。




【次回】罪無き罪人




「……罪の無い民を殺す――それこそ、犯罪よ」




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