新しい街と久しぶりの幸福
子供たちも起きてきて、食卓に“家族全員”が集まる。
「はい、じゃあみんなー、手を合わせてー」
フィリスが子供たちを見回しながら言い、手を合わせた。
それに倣い、子供たちも手を合わせる。
全員が手を合わせたのを確認すると、アドルフが言った。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
全員でそう言う。
そして言い終わったと同時に皆の手が動き出した。
口いっぱいに頬張りながら食べる子もいれば、むしろ全然食べない子もいる。
そんな子供たち一人一人にフィリスとアドルフが声をかけた。
久しぶりに賑やかな食事に、アレシアの顔にも笑みが浮かぶ。
「ほら、アレシアも食べなさい。無くなっちゃうわよー」
「うん」
フィリスの言葉にアレシアも食べ始めた。
子供たちが眠そうに目をこすりながらも口に食べ物を運ぶ。
フィリスとアドルフが自分たちも食べながら、それを笑顔で見ていた。
そんな中アドルフがふと思いついたように口にする。
「あぁ、そうだ、この街について説明するんだったな」
「あ、そうだったわ! 忘れちゃってた」
つられるようにしてフィリスもそう言い、リヒトもそれに反応し、顔をあげた。
「この街は、どこの国にも属さない、でもどこの国にも属する街だと言われているんだが、それは知っているかな?」
アドルフの問いかけに、アレシアは首を横に振ることで答える。
「そうか。そうだな、じゃあ順番に説明しよう」
そう前置きをして、アドルフが街について説明し始めた。
時々、フィリスやリヒトが付け足すようにして説明し、食べている子供たちも拙い言葉でアレシアに街について教えてくれる。
この街は円形状に成る五大国の大陸の全てがぶつかり合う場所――つまり中心に位置するという。
そしてこの街は一つの国――“太陽と月”という意味の“ヘリオスセレーネ”という名の国で、ここには幾多の属性の者達が住んでいるらしく、複数の属性を持つ者も少なくないらしい。
そんな街にはやはり闇も隠れ住んでおり、その数は他国よりもずっと多いという。
通常の属性の者達がそのことを知る由もなく、今のところはこの街にいる闇の存在は誰にも気づかれていない。
この街は闇の者達にとって重要な場所。
他の闇の者達のためにも、絶対にバレてはいけない。
だが暮らしやすいのも事実。
前よりは自由に暮らせるはずだ、とアドルフが言った。
「――この街についての説明はこんなもんかな。早速で悪いが、アレシアには前と同じように食料調達をお願いしたい。今日はまだ服がないから明日からでいい。まだ土地勘もないだろうから……そうだな……リヒト」
「え」
「お前がついて行ってやりなさい」
リヒトは一瞬戸惑いを見せるものの渋々頷いて見せる。
その時、彼の顔に小さく柔らかな笑みが浮かんだことを、アレシアは知らない――。
「「「ごちそうさまでした」」」
手を合わせ、家族全員でそう言う。
その後は皆でコップやお皿を片付け、それが終わると各自バラバラと自分のやるべきことをやり始めた。
フィリスとリヒトは出掛け、後を任されたアレシアは記憶の中にある姿より少し大きくなった子供たちの相手をする。
久しぶりに感じた幸せに、アレシアの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
その夕方、帰ってきたフィリスとリヒトを出迎える。
フィリスは買ってきた服や靴を早速アレシアに着せ、嬉しそうに微笑みながら、着せ替える度に「かわいい」と言った。
そして可愛く着飾ったアレシアをアドルフや子供たちに自慢げに見せる。
皆笑顔を浮かべながら、アレシアの姿を褒めた。
子供たちの純粋な言葉には嬉しさも大きく、賞賛の言葉をもらう度に、アレシアは嬉しさと同時に恥ずかしさが募る。
最後にフィリスに連れられ、鍛錬をしていたリヒトに見せに行くと、彼は顔を僅かに赤く染めながら、小さく「似合ってる」と言った。
アレシアにとってその言葉が何よりも嬉しく、彼女もまた少し赤くなった顔で笑みを浮かべ、「ありがとう」と返す。
恥ずかしさに俯いたアレシアの視線の先には、自身が履く紅い靴があった。
思わず笑みが浮かぶ。
その日、夕日に染められたこの家には、笑顔が溢れていた――。




