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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
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取り戻した“家族”


久しぶりの“家”は、アレシアを温かく迎える。


「やっと帰ってきたー!」


「ずっと待ってたんだよー?」


子ども達が口々にそう言ってアレシアの周りに集まった。

アレシアも「ごめんごめん」と謝りながら、彼らの頭を撫でたり抱きしめたりする。

そうしているとアレシアの名を呼ぶ声が聞こえた。


「あら、私たちには何もないのかしら?」


「久しぶりに会うっていうのに……寂しいなぁ」


どこかふざけた調子でそう言うのは、ディーリアス夫妻。

アレシアにとって本当の両親とも言える二人だ。


そんな二人にアレシアは駆け寄り抱きつく。


アドルフもフィリスも、その優しい温もりでアレシアを包んだ。


そして再度「おかえり」と言う。

アレシアもそれに「ただいま」と返した。


そうして、アレシアは“家”に帰ってきたのだと実感する。

夢ではないことに喜びを感じながら、その脆さにすがりつくように温もりをその腕に抱きしめた。



暫くして、もう夜も遅いためにディーリアス夫妻が子ども達を部屋へと連れて行き、寝るよううながす。


アレシアも一緒に部屋へと入り、布団を敷いた。


「ここに来るのは初めてでしょうからわからないことも多いと思うわ。毎日の過ごし方にあまり変わりはないけど、この街について少しは知っておいたほうがいいでしょう。それについては明日教えるわ。……今日はもうおやすみ」


フィリスのその言葉にアレシアは頷き、「おやすみなさい」というと布団の中に入る。

それを見るなり、フィリスとアドルフは子ども達を寝かしつけるべく布団をポンポンと叩き始めた。


子ども達もこの時間まで起きていることはさすがにきつかったのか、すぐに眠りに落ちる。


アレシアもこの“家”の居心地の良さに、自然と瞼が落ちてきていつの間にか夢の中に落ちていった――。




――次の日、アレシアは窓から差す日の光に目を覚ました。


久々に心から休めたことを感じながら、ふわぁ……と欠伸をする。

体を横にしたまま、眠気眼で時計を見やった。


「…………?」


時計の針が指す時間に、一瞬理解が遅れる。

時計の針はもうすぐで八時を指そうとしていた。

見間違えではないかと、目をこすってからもう一度見てみる。

だが見えるものに変化があるはずもなく、さっきと同じ八時近くを指す針がアレシアの目に映った。


やっと脳がそれを理解し、アレシアは飛び起きる。

今まで王女としての生活をしていたため、毎朝六時に起き、七時に朝食を食べることが習慣となっていた。

だが今日はどうだろう。

六時などとっくに過ぎ、さらにはいつもだったら朝食を食べている時間さえも過ぎている。


焦りながら周りを見渡すと子供たちがまだ寝ていた。

そのことにホッと安心する。

だがリヒトがいたはずの場所は既に布団が片付けられていた。


アレシアも自分の布団を片付け、リビングへと向かう。




「あら、起きたのね」


ドアを開けリビングへと入ってきたアレシアを、そう言ってフィリスが迎えた。

リビングのソファにはアドルフが新聞を広げている。

リビングとダイニング、そしてキッチンは繋がっており、キッチンではフィリスが朝食の準備をしていた。


「おはよう、お母さん、お父さん」


「おはよう」


「あぁ、おはよう」


挨拶を交わし、アレシアはフィリスに問いかける。


「……リヒトは?」


「リヒトは庭で剣と魔法の特訓中よ」


「特訓?」


「そうよ」


アレシアはリビングのソファへと向かい、アドルフの隣に座って、さらに質問を投げかけた。


「どうして特訓を? リヒトは十分強いし、私が前にいた頃だって私の練習に付き合うくらいで、特訓はしてなかったよね?」


その質問にはアドルフが答える。


「アレシアと離れてからだ」


「え?」


「リヒトなりに責任を感じてるんだろう。お前が身代わりになったようなものだからな」


朝食をダイニングテーブルに並べながらフィリスが言った。


「“もっと自分が強かったら”、……ってあの子言ってたわよ」


「でもリヒト、わたくしのこと嫌ってたんじゃないの……?」


アレシアの言葉にフィリスとアドルフは目を見開く。


「リヒトがそう言ったのか?」


「そうじゃないけど……」


アレシアがそう答えると、フィリスが笑いながら言った。


「あの子がアレシアを嫌ってるとはとても思えないわ。だって、リヒトが言い出したのよ? アレシアを連れ戻そうって」


「え――」


「アレシアが昨日この家に戻ってきたとき、あいつ、笑ってたな」


「久しぶりじゃないかしら、リヒトの笑ったところ」


アレシアは驚きに思わず固まる。

とてもじゃないが信じられなかったのだ。


「私たちが無事に逃げられたのも、アレシアのおかげなのよ?」


「魔法、かけてくれたんだろ? 幻覚魔法。あの火王に敵うことができるのはその子供のお前くらいしか考えられない」


アドルフとフィリスが「ありがとう」とアレシアに言った。

アレシアは嬉しさに自然と笑みが浮かぶ。



「何話してんの」


そうしていると、そんな言葉と共にドアが開かれ、リヒトが入ってきた。


「あらリヒト、特訓はもういいの?」


「もう朝食の時間だし」


「まぁ、そうだな」


リヒトはダイニングテーブルの椅子に座る。


「そうだわ。アレシアの服、どうしましょう」


アレシアの服は、城を抜け出したときのまま。

つまりパジャマのままだ。


以前は城を抜け出したときの服と、その後に買ってきた服があったが、今いる家に彼女のその服があるはずもない。


「今日私がリヒトと一緒に買ってくる。アレシアがいるし、お父さんもいるから、家は二人に任せるわ」


「え、俺も?」


「そうよ。だってリヒトには食料もお願いしたいもの」


「……どうせ荷物もちだろ」


呆れ気味にため息をつきながらリヒトはそう言う。


「わかってるじゃない。ほら、皆を起こしてきて。朝食の準備ができたわ」


「食べながらこの街について説明しよう」


アレシアは頷くと、リヒトと一緒に弟、妹たちを呼びに行った。






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