邪神との契約
「君が、僕の相棒……? 君が、僕の契約者ってこと……? いやその前に、邪神って言った? 君が? 闇の神?」
『そうだ』
これは夢なのではないかと、少年は疑った。
あまりにも突然すぎて頭も心もついていくことができない。
『今起きていることがそんなに信じられないなら、実際にやってみればいい。そうすれば否が応にも現実だと認めざるを得なくなる。それに──』
そこで一度言葉を止めると、竜は微笑を浮かべ言った。
『――欲しいんだろ?
……神を殺せるほどの、絶大なる力が』
少年は意図を探るようにじっと竜を見つめ、そして問う。
「……君は、何が目的なの」
『目的なんて大層なものはない。ただお前に興味があった……。
――神を殺そうとする、人間に』
暫くの間、沈黙が包んだ。
物音一つしない闇に包まれた空間の中、竜の金色の眼が少年を見据える。
やがて少年は俯いた。
その顔は髪に隠れ見ることはできない。
だが。
「……面白い」
呟きが聞こえた。
その言葉を発した少年の口は三日月に歪められている。
「神が人を殺し、そして……神を殺す――。
裏切りと憎悪が生まれ、この世界を包み破滅へと導く――――。
……こんな面白いことはないね」
そう言う少年は、正に悪魔のようだった。
『どうする。俺様と契約するか?』
竜は再度問う。
「……しよう、契約。神への復讐を誓う契約を。
そして、僕自身が――
――――神になる」
瞬間、竜が笑みを浮かべた。
『――決まりだ』
そう竜が呟くと同時に、鈍い音と共に少年の体が衝撃によろめく。
衝撃のあった胸を見下ろすと――
「――っ!!」
――そこには、深々と剣が刺さっていた。
剣に貫かれていることを認識した途端、心臓が脈打つ度に痛みを感じ始め、そしてその痛みは増していく。
やがて心臓が抉られるように痛み、少年は思わず膝をつき胸を鷲掴んだ。
徐々に意識が朦朧とし始め、視界に映る竜の姿が歪む。
『契約の契りを交わそう。貴様の命と引き換えに、俺様の力全てと永久の命をやる』
そんな声が遠くで聞こえた。
そして、少年の意識が途絶える。
『さぁ、地獄を作り上げろ。
――貴様がこの世界の、支配者になれ。
そして。
――――貴様がこの世界の、神になれ』
街全体が見渡せる高台に浮かぶ一つの黒い影。
銀色の月がその影を照らす。
全身を黒いローブで包み、帽子を目深に被る少年。
その口には笑みが浮かべられている。
少年は月を見上げた。
その目に映る月が紅く染まる。
まるで、血の色のように。
それはこれから始まる地獄を暗示していた。
「――――楽しい地獄の、幕開けだ」
――そう呟く少年の眼が一瞬、あの竜のように金色に光った。




