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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
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唯一の存在

火王は騎士たちに指令を出しながら、自分も周囲に意識を張り巡らさせる。


火王が見つけたその場所は、大通りでの雰囲気とはまるで違った。


寂れたその場所はツタが家を覆い、人などいないかのように思える――が、人がいないにしては、どこか綺麗のような気もする。

何より、そこでは“普通”とは違う魔力を感じた。

“普通”よりも強い――つまり、“闇”だ。

大通りからここに繋がる曲がり角に、その道を隠すかのように魔法で作られた壁。

それは触ることができた(・・・・・・・・)

つまり、ただの幻覚ではなく、具現化された幻覚だということだ。

火王でさえ“見る”ことで気付くことは出来ず、感じ取り、そしてその手で触れることでやっと知ることができたのだ。

それほどの魔法が使えるのは“闇”だけだろう。

だが例え闇であっても“具現化された幻覚”を一人で作り出すことは不可能に近い。


――つまり、ここには複数の闇がいるということだ。


アシュレイとしても隠れるには最適な場所だろう。

……だが、彼女にとって闇の住処であるこの場所は、最悪命を失うかもしれない危険な場所。


もしいたとしても、果たして生きているか――。


アシュレイ捜索に加え、闇がいる可能性が高いため、騎士団を二手に分かれさせ行動させる。

アシュレイ捜索のほうにはアレックの分身たちが。

そして騎士団を中心とした闇捜索部隊。


次々と闇の者達が見つかる中、アシュレイはまだ見つからない。


ここにはいないのか――そう思ったとき、火王は闇の魔力とは違うそれを感じ取る。

その方向に目を向けると、そこには明らかに闇とは違う、鮮やかな色を持つ者の姿があった。

その色は、自分のものと瓜二つ。

そっくりそのままだ。


そんな人物などたった一人だけ。

火王はその者の名を口にした。


「アシュレイ――」


そう呼ばれた少女は、微笑みを浮かべ、そして言う。


「――ただいま帰りました、お母様」


その少女の表情は、火王が知っているはずのものとは全く違った。

六歳とは思えないほどの大人びた表情。


その瞳は凛々しく、火王の記憶にあったものとは大きく違い、“王女”としてのそれに成長している。


「騎士団の皆さんは、わたくしを探すためだけに頑張ってくださっているのですか?」


そう言った“王女”アシュレイの口調からは、火王を母親としてではなく、一人の王として見て言っていることがわかった。


まだ幼い子供の感情とは思えない。

その感情は、既に自立しているように感じられる。


「あぁ、そうだ。どれほどの者達に迷惑をかけたかわかってるのか」


火王も一人の母親として接することははばかられたため、一国の王として接した。


「申し訳ありません。以後気をつけます」


アシュレイがそう言ったのを聞くと、火王は未だにアシュレイ捜索をしているアレックの分身たちを呼ぶ。

アレックは一人だけ残して分身を解いた。


「見つかって何よりです。どうか今後はこのようなことはしないように」


アレックの言葉にアシュレイは素直に頷く。


火王は闇の捜索をしていた騎士団たちも呼び寄せ、騎士達が見つけ出した闇をさっと見回した。

自分の予想していた数と大体同じであることを見る。


能力の高い者なら感じ取った魔力の大きさや場所、そしてやはり人によって違う魔力の僅かなその違いを感じ取ることによって、大体の数を見積もることができるのだ。

そして能力が高ければ高い程その見積もった数と実際の数の差は少ない。


そのため火王ほどの能力者なら、その数の差を一、二にして見積もることなど容易いこと。


そして火王は再度、この周囲にまだ闇が残っていないかを意識を張り巡らせて確認すると、騎士たちに闇の者達を連れて城に戻ることを言い、城に戻るべく歩き出した。





……この時、見つかり捕まった闇の者達の中に、リヒト達の姿はない。


それは火王が唯一、ただの人間である者に負けた時だった。


後にも先にも、火王が人間に負けたのはこれきり。


アシュレイが最初で最後の、火王にまさったことのある人間である――。







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