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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
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アシュレイ失踪


少し時間を遡り、城からアシュレイが抜け出したばかりの頃。


城ではようやく母親である火王の耳にその知らせが届いた。


「今、なんと言った。……アシュレイがいなくなっただと?」


火王が宰相のアレック・ローウェルに聞き返す。


「はい」


「いつだ」


「アシュレイ様の教育係によりますと、勉強の休み時間の間に抜け出したようです」


「それは何時だ」


「大体午前の十一時くらいですかね」


「今何時だと思う?」


「午後の十一時ですね」


「…………」


アレックは火王の問いに淡々と答える。

そんな彼に火王はため息をつき、そして言った。


「お前、こうなることはわかっていたんだろう?」


その言葉にアレックは目をそらしながら答える。


「まぁ、そうですね。アシュレイ様も、そろそろやんちゃする時期だろうなとは思ってました」


そして視線を火王に再び向け、続けて言った。


「……ですが、女王様も予想していたことでは?」


火王は苦笑を浮かべながら「まぁな」と答える。


この頃、アシュレイ――つまり王女の存在は、まだ公開されていない。

王女の存在を知っているのは火王と宰相のアレック、そして教育係を務める者たちのみ。

国民たちに知られてはならないため、早急に対処すべきなのだが……。


「まぁ、少しの間だったら放っておいてもいいだろう」


「……は?」


次に聞き返すのはアレックの方だった。


「何を言ってるんですか」


「だから放っておいてもいいと言っている」


「…………」


唖然としているアレックを見て、火王は理由を説明する。


「アシュレイも、もう六歳だ。これをきっかけに世間や社会を知ってもいいだろう。一番騒ぎたい時期を我慢して過ごしたんだし、少しくらい自由にしてやろう」


「自由にって……どうするつもりなんですか」


火王は少し考えたあと、アレックに答えた。


「一ヶ月くらいは放っておいても大丈夫じゃないか?」


「い、一ヶ月、ですか……」


アレックはどこか余裕な素振りの火王に言う。


「女王様。失礼ながら申し上げます。……今がどんな時期がご存知ですよね」


アレックの言葉にその場が凍りついたように静まりかえり、緊張が走った。


「知っているに決まってるだろう。これでも火ノ国の王だ」


「それならいいんですが……。今はDFエディタを発令してからまだ二年しか経っていません。まだこの国にも闇が生き残っているでしょう。そんな中の王女行方不明です。アシュレイ様の身に何かあってからでは遅いんですよ」


淡々と言いつつも、言葉の端々からは心配の感情が感じられる。

火王はそういうのは敏感だ。

彼女は心を司る火神なのだから。


「そんなこと分かっている。見くびるな。……私の娘だ、きっと大丈夫だろう」


そう言って、“命令”として再度言い放つ。


「アシュレイは一ヶ月の間捜索しなくていい。ただ街の警備を強化しろ。何かあった時にすぐ対処できるようにだ。それとアレック、お前も警備に加われ。分身で構わない。アシュレイの容姿を知ってるやつが一人はいたほうがいいだろう」


「御意」




そんな命令が出されてから一週間。

アレックは一つ、不思議に思うことがあった。

街の警備に出ていて、一度もアシュレイらしい姿を見たことがないのである。

嫌な予感が頭を過ぎったが簡単にそれを判断することもできず、もう少し様子を見ることにした。


二週間目。

その頃になってもまだ、アシュレイの姿を見つけることが出来なかった。

アレックは火王に念のため言っておくことにする。



「女王様」


「どうした」


「毎日のように街に張り付いていますが、一向にアシュレイ様らしい姿を見ないのですが――」


そう言ったアレックに返ってきた言葉は思ってもみなかった言葉だった。


「そりゃそうだろうな。姿を変えてるんだろう」


「え? でもアシュレイ様はまだ魔法を使えないはずでは……?」


アレックの問いに当然だというように火王は答える。


「魔法を使えないまま一人で生活できると思うか? それも街の警備が厳しくなってる事にアシュレイも気付いているだろう。尚更魔法を使わずにはいられない」


「はぁ……なるほど。――それも、予想していたことですか?」


「まぁな。魔法を学ぶだけじゃ意味がない。魔法は使えるようになって、初めてそう呼べるからな」


アレックはため息をついた。


「それじゃあ私が警備に加わった意味は何なんですか」


「アシュレイは私の子供とはいえまだまだ子供の六歳だ。まだ自分自身の魔力を操りきれてないだろう。お前が常に本気になれば、アシュレイの魔法を見破ることなど容易いはずだが?」


「常に本気でいろと? 私はずっと本気でいられるほどの体力は持ち合わせていないと思いますが」


「いや、お前の能力の高さなら大丈夫だ」


「まぁ、信頼してくださっているのは嬉しいですけど、買いかぶりすぎでは?」


「そう言いつつ、やってくれるのだろう?」


「…………」


アレックは思わずため息をつき、「わかりました」と答える。



だが、火王は自分の娘を少し見くびっていた。

火王が思っているほど、アシュレイは子どもではない。


だがアシュレイの置かれている状況を知る由もない彼女たちに、それを気付けというほうが無理に等しいのである。


ただでさえアシュレイと一緒にいた時間が少ない火王たちに、アシュレイを知る事などできないだろう。



そしてその一つの予想の違いが、一年という大きな時間を生み出したのである。







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