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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
アシュレイの過去
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新しい居場所

アシュレイはアレシアとして、その家に住むことにした。


その家は、ディーリアス夫妻の家。

この家では父の立場にあるアドルフ。

母の立場にあるフィリス。

そして、この家はいわば孤児院の役目を担っていた。

DFエディタによって抹殺対象者となっている“闇属性”の生き残りが集まっているようだ。

子供が多いのは、各々の親や兄、姉がその命をかけて必死に守ったのだろう。

そうして“独り”となった子供たちを、子供のいなかったディーリアス夫妻が引き取り、守りながら育てているという感じだ。


そんな子供たちの中でも、リヒトと呼ばれたアシュレイをこの家まで連れてきた少年は、最年長のようだった。

リヒトの年齢はアシュレイより少し上の7歳。

その年齢も、確かなものではない。

この家にいる子供たちのほとんどは自分の年齢を知らず、大体の目安程度の年齢を自分のそれとしている。

生まれた日も定かではない。

そのために、家に来た日を生まれた日として毎年祝う。


アシュレイ――改め、アレシアはこの家の子供たちの中では、上の方である6歳。

リヒトの次、つまり二番目に位置する。

そのため、アレシアは“お姉ちゃん”と呼ばれた。

“アレシアお姉ちゃん”。

兄弟姉妹のいない彼女にとって、そう呼ばれることは、とても気持ちの良いものだった。


闇ではない普通の属性だから、ということで、アレシアが外に出て食べ物や飲み物といった生活に必要なものを集めることになった。

アレシアは自分が王女であることがバレて城に連れ戻されることがないように、騎士の存在には気を付けることにして、その役目を引き受けることにする。


新しい家族となる闇の者たちは、これで安心だと言って喜んでいた。


その様子を見ていたアレシアは、尚更自分が王女であることを明かすことができなくなっていった。

王女であることを知られたら、自分は捨てられる――やっと手に入れた、自分の居場所と呼べる……自分の家と呼べるこの温かい場所を失うことが、アレシアは怖かったのだ。


それと同時に、隠していることへの罪悪感が、彼女の心を徐々に占めていった。




そうしてアレシアとしてこの家に住むようになり、はや一週間ほど経ったある日のこと。


家周辺の道や大通りまでの道、そして大通りの街並みなどにやっと見慣れてきた頃。

その日もアレシアは、いつも通り食糧を求め外へと出ていた。

だが一つの違和感に気づく。


『ねぇ……最近、騎士の人達の数、増えてない……?』


アレシアは大通りに出る直前の角で立ち止まり、イグニートに問いかけた。


『アシュレイ……貴女もやっぱり、そう思うわよね……。危ない、かも――』


イグニートがそう言った、その時————。


「っ―—!!」


一人の騎士と、目があった————。


とっさに物影に隠れる。

少ししてもう一度そっと覗き見てみると、その騎士は辺りを少し見渡してその場を離れていった。

目が合った気がしたのは気のせいか……。

アレシアはホッと息をつく。


『アシュレイ。……今日は一度帰りましょう』


イグニートが言った。

アレシアは少し戸惑いを見せた後、首を横に振る。


『ダメだよ。だって、わたくしがやらなかったら食べるものなくなっちゃう……』


『今はまだ今まで集めたやつが残ってるから大丈夫よ。あと二日くらいなら平気だと思うわ。だから、ね? 今日は帰りましょう。対策を考えなくちゃいけないし……』


『でも、何も持って帰らなかったら絶対おかしく思われる……。バレちゃうよ……』


『そうね……。全員じゃなくても、せめてディーリアス夫妻には話すことになるかも。でもそれはこれからも過ごす上では必要なことだと思うわ。話した方が今後も過ごしやすくなると思うし』


イグニートがそう言うと、アレシアは渋々頷き、その日はもう引き返すことにした。





「あら、アレシア。もう帰って来たの? 今日は早いのね」


「何かあったのか?」


家に帰って来たアレシアを、ディーリアス夫妻が出迎える。


「アレシアお姉ちゃんおかえりー!」


「アレシアお姉しゃん、今日は早いねー」


子供たちも笑顔でアレシアに飛びついた。

アレシアも笑顔でそれに応える。

子供たちと少し話し頭を撫でたりしていると、リヒトが声をかけてきた。


「おぉ、もう帰って来たのか。いつもより早いな……どうした?」


歳が近く自分よりも一つ上の兄貴分であるリヒトに、アレシアは言うべきかどうか一瞬迷う。

だがその場で言えるはずもなく、曖昧な笑みを浮かべ「なんでもないよ」と言って誤魔化した。


「ごめんなさい。ちょっといろいろあって今日は食糧集められなかったの」


ディーリアス夫妻はその言葉を聞くなり心配そうにアレシアに問いかける。


「最近はアレシアが頑張ってくれてるおかげで、まだ食糧は残っている。だから大丈夫だ」


「それよりも、あなたのほうが心配だわ。大丈夫? 何があったの……?」


「あとで話すね。せっかくできた時間だし、今は子供たちと遊んでもいいかな」


アレシアのどこかいつもと違う様子に、リヒトはアレシアをいぶかしんだ。


「え、えぇ、大丈夫よ。今日はゆっくりしなさい」


「うん、ありがとう」


フィリスの言葉にアレシアはそう言って、子供たちと共に場所を移る。


「わーいっ、アレシアお姉ちゃんだー!」


「ねぇねぇ、何して遊ぶ? おままごとー?」


「違うよっ、ヒーローごっこだよー!」


アレシアと遊べることを喜び、我先にと彼女を取り合う子供たち。

そんな彼らを見るアレシアは、必要とされていることに喜びを感じながら、だましているという罪悪感に胸が痛む。

アレシアはその痛みに気づかないふりをし、その日一日を子供たちと過ごした————。




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