少年と黒き闇の竜
真夜中。
闇が全てを包み込むとき。
少年は一人、街を彷徨い歩いていた。
行く当てもなく、ただ気の向くままに。
昨日彼が殺した男は、魔女と呼ばれた彼女に刃を真っ先に放った男だった。
「次は、誰を殺そうかな……」
少年は小さくそう呟く。
彼女を刺した者たちの顔を思い浮かべる。彼らの顔は一人残らず、少年の頭の中にあった。
絶対に忘れない――忘れられない。
――ふと、少年は立ち止まる。
違和感を感じたのだ。
(ここは、何処だ……?)
そこは、ついさっきまで少年がいた場所とは明らかに違う。
空を見上げてみれば、そこには血の色に染まった月が光っていた。
そして次の瞬間、その月さえ姿を消す――。
一瞬にして辺りは闇一色となった。
浮遊感さえ覚え始め、自分がちゃんと立っているのかさえもはっきりしない今、当然上下左右がわかるはずもなく、ただ立ち竦むことしかできない。
少年は息を止める。
……気配を感じたのだ。
――――酷く恐ろしい“死”の気配を。
「誰」
少年は冷静を保ちつつ、そう言って周りを見渡す。
『ほう……俺の気配を察するか。面白いな、貴様』
直接頭に響き渡るようにして聞こえる、地響きのような声。
その声には威厳があり、こちらが息をするのさえ躊躇われるほどの威圧感があった。
やがて闇の中に浮かぶようにして相手が姿を露わにする。
声の主――
それは――
――――竜だった。
「なん、で……」
その竜は少年と同じ漆黒の翼と鱗を持っていた。
しかしその眼は金色に光り、真っ直ぐに少年を見据えている。
『意味がわからない、という顔をしているな』
「そりゃ、ね……。僕には相棒の竜もいなければ、もちろん魔法だって使ったことない。“闇”とか“悪魔”とか呼ばれているけど、僕は……ただの落ちこぼれだからね」
少年がそう言うと、竜は笑みを浮かべながら言った。
『貴様は馬鹿だな』
「……何が言いたいわけ?」
眉間に皺を寄せ少年は竜に問う。
『この世界に生まれたのにも関わらず、相棒がいないんだぞ』
「だから何」
『この世界には、生まれたと同時に竜と契約をすることになっている。それなのに貴様はいない。それが何を示すのか、わからないか?』
「…………」
『――契約をしてないんだよ、まだな』
少年の頭は思考を止めた。
目の前の竜が今何を言ったのか、理解できないのだ。
しかし同時に、期待に鼓動が早まっていくのを感じていた。
“まだ”契約をしていない――……
それはまるで――――。
「……まるで、契約する相手がいるみたいじゃないか」
少年の呟いた言葉に、竜は肯定するかのように笑う。
「じゃあ聞くけど、その相手ってのは誰なの」
すると竜は答えた。
少年にとって、予想だにしない答えだ。
『すぐ近くにいるだろう?』
「は……?」
『俺様、邪神こと【despair dragon】が、貴様の相棒だ』