アレシアの名を騙る王女
アシュレイsideです。
時間は、アレシア――本名アシュレイが闇の仲間入りする前を超え、闇の少年がアルフォンスとして火ノ国の城に現れた時まで遡る。
そう、アルフォンスとして少年が本格的に動き始めたその時である。
闇の襲撃に備えて街へと出陣した騎士団の者達が全滅した、という噂が流れ、それと共に城へと現れた火ノ国の女王アーデント・レッドフォードと一人の少年。
アシュレイはそれを、周りとはどこか違った目で見ていた。
アシュレイは表向きアレシア・ハルフォードと名乗り、その本当の身分を偽りメイドとしてこの城で働いている。
彼女の本性を知るのは、その母、火王アーデント・レッド―フォードのみ――そう、アシュレイは火ノ国の王女である。
そんな彼女は、その魔法威力、能力、技術において群を抜いており、彼女に並ぶものはその母を除きこの国には一人としていない。
読心能力もまた、火王ほどではないがずば抜けて高い。
自身の心を読まれないようすることも彼女は得意とする。
周りの者達は、城に戻ってきた者の数の少なさ、そして火王と共に現れた少年に驚きを隠せないでいる中、彼女はその能力の高さ故に、他のことに驚き目を見張っていた。
火王と共に城に現れた少年――アルフォンスと呼ばれる者。
彼の心は、彼女の能力の高さをもってしても読めなかったのである。
今までアシュレイが心を読めなかった者は、母である火王アーデント一人だけだった。
それほどまでに心を読まれないようにする能力が高くなければ、アシュレイが読心できないということはなかった。
だからこそ、アルフォンスの心が読めないことに驚いたのである。
そして興味を抱く。
彼が相棒となる竜と契約をしておらず、魔法が使えないということを知り、その興味はさらに強くなった。
彼は魔法が使えないというのにも関わらず、その強さは魔法が使える者を優に超え、さらには火王をも超えるという。
その強さで敵の闇を一掃し、国を救ったと聞く。
アシュレイのアルフォンスに対する興味は強くなるばかりだった。
アルフォンスの強さを目前にし、そして彼が騎士団に入団することが決まる。
そうしてその場が解散となった。
アシュレイもまたその場を去ろうとしたとき、一人のメイドに目がいく。
「アディ……」
アシュレイがアディと呼んだ彼女の目は僅かに見開かれ、その瞳に光はない。
彼女の名前はアディ・アクランド。
メイド仲間でもあるアディとは親友といえる仲である。
「…………」
アシュレイは何も言わずアディをそっと抱きしめた。
するとアディの目に涙が溢れ、そして次々と彼女の頬を伝う。
闇と闘った騎士団の者達は皆、一人残らず死んだと、火王の口から知らされた。
噂は本当だったのである。
命を落としてしまった出撃したその騎士たち。
その中には、アディの恋人がいた。
お互いに愛し合い、大切だと、失いたくないと、そう想いあっていた二人だ。
そんな自分の片割れとも呼べるべき存在を失った悲しみは、あまりにも大きすぎるのだろう。
アシュレイはただアディを抱きしめ、慰めることしかできなかった。
声をかけることさえはばかられ、何も言うことはできない。
アシュレイはアディの背中に手をやり、彼女の部屋まで連れて行った。
「アディ、好きなだけ泣きなね……。我慢しないで……」
「アレシア……。……うん、ありがと」
アディはそう言って、無理に笑みを作ろうとする。
アシュレイはそんな彼女の姿を見ているのも辛く、アディの「一人にしてほしい」と言われたこともあり、アディの部屋を後にした。
その時、アシュレイの頭に声が届き響くように聞こえる。
『アシュレイ。聞こえる? ちょっといいかしら』
その声の主はアシュレイのよく知る者――。
『はい、聞こえます。今どちらにいらっしゃいますか、母上』
アシュレイの母、火王アーデント・レッドフォードである。
『執務室にいるわ』
『すぐに向かいます』
アシュレイは今いる階より上にある、火王の執務室に向かった。
その顔はメイドではなく、“王女”のものだった。
今回よりアシュレイsideの物語がしばらく続きます。
楽しんでいただければ幸いです!
よろしくお願いします。




