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足枷

アルフォンスは朝食を食べ終わると、競技場へと向かい騎士団の鍛錬をこなす。


騎士団の練習内容はしばらくの間、“部隊内においての役割を見つけ決める”というものだ。

アルフォンスは常に退屈そうに過ごしていた。

騎士団全体が終わるその最後のときまで彼がいるはずもなく、アルフォンスは自分が飽きると勝手に競技場を後にする。


その行為を指摘する者はいなかった。

ほとんどの者が“言えない”からだ。

そして唯一言うことのできる火王も、言っても無駄だと諦めている。

アルフォンスはマイペースに自分の思うままに行動した。


城内を歩き回り、様々な部屋に入っては長時間いることはせずすぐに部屋を出て、ただ冒険するように見て回る。


廊下を歩いている中、ふと窓のほうに目を向けると、そこからは庭が見えた。

一見広々とした印象だが、そこは“隠れた場所”というのがいくつもありそうで、アルフォンスは興味を持つ。

それこそサボるには最適な場所がいくつもありそうである。

アルフォンスの足は自然と庭のほうに向かった。


様々な花が咲き誇り、庭は綺麗に整備されていた。

だが思いの外庭は広く、その中心であろう噴水がある場所まで行くには少し時間がかかった。

迷った、という言葉が適切か。

そんな庭の中心にある噴水の中には、火ノ国の象徴である紅い蓮の花が、まるで炎が小さく燃ゆるように咲いている。

噴水の周りを囲むようにして花が咲いており、噴水を覆い尽くしているような感じだ。その花の蔓がまた模様のように噴水を飾っていた。

そんな噴水の近くには二人がけのベンチがひっそりと置いてある。


アルフォンスはそこに歩み寄りベンチに座った。


「思ったより広いなここ。なんかうようよしてて迷うし」


そんな愚痴をこぼすとベンチに横になり、そっと目をつむる。


太陽がちょうど真上にある時間帯。

日光は強く、火ノ国の特徴的な暑さは最高潮である。

だが、丁度木陰になっているからか、はたまた噴水から湧き出る水のお陰か、いやその両方か、その暑さはあまり感じることはなくむしろ涼しく感じられた。

木漏れ日となって注ぐ温かい日の光と心地よく吹く風がアルフォンスを包み込み、彼は思わず少しの間まどろんだ――――。




――『私が間違ってた。ごめんね』――


ふと聞こえた声に目を覚ます。


その声は今朝闇の仲間になったばかりのメイド、アディのものだった。


――『彼は悪くなかった。むしろ、良い人だったよ』――


アルフォンスの頭の中に響くように聞こえるそれは、アディの中に吹き込んだ“気”によるもの。

アディは誰かと会話をしているようで、気を許しているのか敬語を使っていない。

次に出てきた名前とその声に、アルフォンスは思わず目を見開いた。



――『……ねぇ、また私と仲良くしてくれる? アレシア』――


――『あたり前でしょ。何年一緒にいると思ってんのよ』――


――『やった! ありがとうっ』――


――『親友、なんでしょ? 私たち』――


――『うんっ』――


アレシア――本名アシュレイ・レッドフォード。

火王の娘である彼女の名前とその声が、聞こえてきたのである。


「“親友”、ね……」


アルフォンスは小さく呟いた。


「……それは――僕たち闇には、邪魔なものだな」


少し強めの風が吹き、アルフォンスの灰色の髪をなびかせる。


「要らないもの……君の足枷になるものだよ、アシュレイ。……君はきっと、傷つくことになる。それはきっと決められた運命ものだ」


アディを通して見えるアシュレイの優しい微笑みを、アルフォンスはどこか寂しい想いで見つめた。

それはきっと、自分に彼女の未来の姿を重ねたからなのだろう。

感情が消えてるような、失っているかのように感じない彼だが、一人のときのそれは、あまりにも“普通”な“人間”だった――。


「僕にはとても良い情報だけどね」


彼はどこか儚げに笑った――……






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