孤独な悪魔の復讐
寝静まった真夜中のこの世界に、銀色に輝く月が闇の中に妖しく浮かぶ。
そんな中、闇に溶け込むように佇み、月明かりに照らされる一人の少年の姿があった。
この少年は、この世界では異例の存在。
その理由は二つある。
一つは相棒がいない、ということ。
この世界では必ず自分の属性にあった竜と契約し共存していく。
その竜が少年にはいない。
すなわち、魔法が使えないということ。
そしてもう一つの理由。
それは――
――“闇”と呼ばれる唯一の存在であるということ。
その髪も眼も、黒一色。
まさに漆黒の色、闇の色だった。
“孤独な悪魔”
それが彼の通り名だ――……
1つ、2つ、……3つ。一軒の家にノック音が3回響いた。
「誰だよ。こんな夜更けに……」
寝ぼけ眼でその家主の男は玄関に向かう。
ドアを開けた瞬間、男は目を見開いた。
――黒いローブに身を包んだ一人の少年がいたのだ。
――――その口元に笑みを浮かべて。
その光景は不気味そのもので、男の寝ぼけた頭は、少年が実態のないもののように思えた。
「お前……何の用だ……」
一向に消える気配もなく、口を開くこともない少年に、訝しみながらもそう問いかける。
すると少年は、右手を振り上げた。
その手に握られているのは、月明かりに鋭く光る短剣。
それが、自身の命を奪うものであると認知した瞬間、男の体は恐怖で力が抜ける。
床に手をついたときには、その喉に短剣があてられていた。
「いやだ……いや……」
迫る死に涙が自然と零れた。
しかしそれを見つめるのは、暗闇だった。
「うわぁぁああああああ―――っ!!!」
恐怖に耐えきれなくなった男の断末魔が、真夜中の街に響き渡った。
虚ろな目に映る闇夜に浮かぶ月が、紅く染まる――――。
「――どうした……っ?!」
断末魔を聞きつけ街の者たちがやってきた時には、もう少年の姿はなかった。
そして。
既に、主人は――
――――死んでいた。
月明かりも届かない場所に、少年はいた。
短剣を持つ手は僅かに震えている。
「――これが……
……人を殺す、ということか」
血で赤く染まった自らの手を見つめ、少年は呟いた。
頬についた鮮血を拭い、ローブについた帽子を目深に被る。
短剣の血をローブで拭い鞘に収め、少年は闇の中に姿を消した。
――次の日。
一つの噂がたった。
――――『魔女の呪いが……魔女の復讐が始まった』――――
男が殺された日。
それは、魔女と呼ばれた者が十字架に繋がれ処刑された日だった――――。