第一世という存在
アレシアが部屋を出て、部屋に残るのはアルフォンス一人となった。
そして彼は相棒である邪神竜に問う。
アレシアという存在についてを。
『ほら、話してよ。彼女がどういう存在なのか』
そう言うアルフォンスの表情は“闇の少年”のもの。
楽しみでしょうがないというように、口元は歪められている。
『わかったよ。今話すから。飯でも食って聞いてろ』
『あーそうだね。そうするよ』
少年はアレシアによって運ばれてきた机の上に広がる昼食に手をつけた。
それを見るなり邪神竜は、“神によって生み出された人間”について説明をし始める――――。
“人間”は神によって生み出された。
この世界は神によって生み出され、神の力の基築かれている。
そして“人間”もまた、その身に神の力が注がれることによって生を受けた。
“人間”が生み出されたその時を同じくして“竜”が生み出され、同じ瞬間に生み出された“人間”と“竜”が相棒となり、その人生を共に歩んでいく。
そんな彼らの強さは、注がれた神の力の量によって違う。
多ければ多いほどその力は大きくなるのだ。
もちろんどこに重心をおくかにより彼らの得意とするものが決まり、決して“同じ存在”というものは生み出さない。
その性格も被ることなく十人十色になるように調節された。
神々で定められた規定により、五ヶ国それぞれの強さの平均は等しくなるように決められている。
それは国同士での争いが起きないようにするためだ。
神々は己の力を注ぐその加減をして、“同じ存在”を生み出さないよう、かつ自国の強さの平均を考えつつ“人間”と“竜”を生み出した。
だが、何事も初めから上手くできる者などいない。
たとえ神であっても、だ。
力の加減が上手くできるようになるまでは、その量は極端だった。
一番最初に生み出した存在はどの神も、史上最強の“人間”と“竜”となってしまう。
その魔力、質、技術はその全てにおいてずば抜けた存在となった。
その性格はどこか、生み出した神本人に似ている。
それ故に、その後に【第一世】と呼ばれるようになったその者たちを、神は自らの子供とした。
この世界において、神は自国の王の座につき自らの国を守っている。
だが王に跡継ぎとなるはずの子供がいないというのは民に不安を与え、そしていろいろ不都合が出てくるだろう。
そのため、その【第一世】を自らの子供としたのだ。
『その【第一世】と呼ばれる存在が、あのアレシアっていう女の可能性があるな』
ある程度の説明が終わると、邪神竜はそう言って説明を終えた。
『大体は僕の予想通りだったかな。まぁ王の子供という立場になったっていうのが予想外だったけど』
彼らがアレシアをその【第一世】と呼ばれる存在だと思うのには、ちゃんとした理由がある。
――「嘘はついてないでしょう? 見ればわかりますし、何より聞けばわかります」――
彼女はそう言っていた。
――“見ればわかるし、何より聞けばわかる”。
その言葉は、「嘘をついているとは思わないのか」というアルフォンスの質問に対する答えとしては少しおかしいはずなのだ。
そして彼女がアルフォンスに投げかけた問い――――。
その二つの違和感から、【第一世】だと思った理由が導ける。
それはなぜか。
『でも彼女、性格を偽っているのかは知らないけど、全然炎神に似てないよね。まぁ、確かに炎神に似ている瞬間がないわけでもないけど』
『まぁそうだな。あの性格が本当のような気もするがな』
少年も邪神竜も楽しそうにそう話した。
『――――にしてもさ』
そんな中、少年が笑みを深め言う。
『“貴方は誰ですか?”なんて聞かれるとは思わなかったよ。それからのあの答えでしょ? もうそこである程度の確信は得たよね。少し考えればその違和感の答えに行き着いたよ』
『じゃあ貴様の予想っていうのを聞かせろよ』
邪神竜は、楽しみだというように声をわずかに弾ませ、少年にそう言った。
少年は一度食べる手を止め、アレシアが部屋に来たときを思い出しながら自分のもった予想を話し出す。
彼女が唯一少年に聞いた質問、――“貴方は誰か”というもの。
そこがまず一つの違和感だ。
そして少年の“嘘をついているとは思わないのか”という質問の答えとして彼女が言った中にあった“見ればわかる”という言葉と“聞けばわかる”という言葉。
そこで少年は、彼女は“心を読む”という能力にたけていると気付き、“見抜く”という能力も高いんだと知った。
“見ればわかる”“聞けばわかる”という言葉をあんなにも自信をもってはっきりと言えるのは、その二つの能力が必要だからだ。
アルフォンスという存在にとって一番特徴的なのが、心を読むことができないところ。
また、“姿を偽っているのではないか”という疑念も特徴の一つであると言える。
少年の心を読むことができるのは誰ひとりとしていない。
僅かに感じることができるのも炎神だけ。
それもそのはず。
普通は心を読もうとはしない。だからこそ少年の特徴に気づく者自体が少ないのだ。
普段心を読もうとするときなんて少ないだろう。
普段の生活において会話でその意識は使われ、会話だけでも心を読むのには十分だからだ。
なかなか心を読むという“能力”を使うときは少なく、使おうとする機会すら少ない。
だがその心を読む能力にたけていれば、それはきっと常に使われている。
だから“アルフォンス”としての少年の心を読むことができないという特徴を見つけるのには簡単だ。
それで一つの確信を得ることができる。
もう一つの特徴である、姿を偽っているのではないかっていう疑念。
これに必要な“見抜く能力”は、その能力にたけていれば“心を読む能力”と同じように常に使われているようなもの。
アルフォンスがコンタクトに変えたとき、炎神のように見抜く能力が特別高ければ、裸眼の色は陽に照らされればうっすらとだが見えてしまう。
ただでさえ“闇の少年”としての彼がいるために“アルフォンス”が“闇の少年”ではないかという疑念があるが、目の色がうっすらと透けた瞬間を見てしまえばその疑念は一層深まるだろう。
だがアレシアは“闇の少年”としての彼を知らないためそこの考えは少年としては曖昧だったが、“闇の少年”と“アルフォンス”が同一人物だという噂は結構広まっているため、少しくらい耳にしていても不思議じゃないと考えた。
アレシアの場合、その疑念を完全に抱いた瞬間はアルフォンスがコンタクトをつけ、それが透けたのを見たときだ。
見たという確証はないが、“貴方は誰か”という言葉でその確証は得たも同然。
心も読めない、姿も知らない、そんな存在にその質問は普通だが、彼女はアルフォンスの顔は知っている。
アルフォンスがコンタクトをつけてそれが透けた瞬間を見ていれば、疑念を抱きその質問が自然とでてくるだろう。
アルフォンスという存在が“偽者”だと思うからだ。
アルフォンスの部屋で、戸惑いが消え落ち着いたとき、彼女はきっと、アルフォンスの目が透けないことと心が読めないことを“見て”“聞いた”。
彼女の答えにあった“聞けば”という言葉も、主語はなかったものの心が読めないことをさしていると思えば、辻褄があう。
そして、それほどに能力の高い存在が生まれることなどそうそうない。
“慣れていないときに生み出さない限り”。
神がまだ“生み出す”ということに慣れていない、つまり一番最初に“生み出された存在”。
“貴方は誰か”という質問も炎神と同じような力をもつからこそ。
“炎神は心を司る”。
だから彼女もその能力はずば抜けてると少年は思った。
そうして“炎神が一番最初に生み出した存在がアレシアという人間”という考えに至ったのだ。
『なるほどなー。貴様、意外と頭いいんだな』
『褒め言葉として受け取っておくよ』
そう言うなり、アルフォンスは食事を再開する。
そして一通り食事を済ませ、カップに注がれたコーヒーを口にした。
その時、ふと彼に疑問が浮かんだ。
『……一つ聞きたいことがあるんだけど』
『なんだ』
『子供ってことは彼女の姓、女王と同じ“レッドフォード”になってないとおかしくないか?』
『そうだな』
『じゃああれは偽名ってこと?』
『そうなるな』
『訳ありってことかな。……ま、僕のすることに変わりはないけど』
邪神竜はその言葉に反応する。
そして少年に問うた。
『その、貴様がしようとしてることってのは?』
その問いは明らかに、その答えをわかっていてのものだ。
『決まってるでしょ。
――――彼女を、闇の仲間にするんだよ。僕のお気に入りの駒になってもらう』
彼の表情はどこか残酷に、その口を歪めていた――――。
読んでいただき、ありがとうございました!
今回は説明が多く、話になかなか入り込むことができなかった方も多かったと思います。
また、説明自体も難しいものとなってしまっているので、わかりやすくできているか心配です。
話に入り込みやすい、なおかつわかりやすい文書や話の持っていき方について……
ご意見、ご感想、アドバイスを頂けると嬉しいです。
よろしくお願いしますっ
長文、失礼しました!




