神々の集う場所
今回は長めになってしまいました……。
すみません。
炎神は騎士団の編成を決め終え、執務室から寝室へと部屋を移った。
部屋の窓から外を見てみれば、王都が街灯に照らされている。
空には星が瞬き月が輝いていた。
何の音もしない静かな部屋の中で火神は思わずため息を漏らす。
自らのため息がやけに大きく聞こえた。
炎神は窓辺から離れ、ベッドへと向かいそこに横になる。
そして目をそっと閉じた――。
「すまない、遅くなった」
炎神が訪れたのは、何もない、ただただ白に包まれた世界だった。
そこは神々が集う場所。――神々の“精神”が集い、そして話し合いを行う場所だ。
炎神、氷神、水神、風神、雷神が各々定位置の場所に立ち、その時の話題にそって話し合う。
本来、毎夜特定の時間に集まるのだが、炎神は数日間来ることができていなかった。
闇の襲撃があったからだ。
闇の襲撃があると知ったとき他の神々に念話では伝えていたが、それ以来余裕がなく連絡さえもできなかった。
「大丈夫か、炎神」
「ええ、なんとかね」
水神が炎神に問いかけ、炎神はそれにどこか疲れた様子でそう答える。
冷静な性格の水神は、知を司る神だ。
神々の中では“頭脳”の役割を務める。闘いや何かの問題が起きたときのその対処、そして作戦を考える。
そして神々の中でも姉のような立場にある炎神は、心を司る神だ。
神々の中では“右手”の役割を持つ。“右手”は攻撃の役目。主に戦闘時、敵に攻撃をするのは彼女だ。
普段は威厳の満ちた雰囲気だが、気心の知れた古くからの付き合いのこの神々の前では素でいられるようで、その口調もやわらかいものになる。
「そうか、それはよかった。……それで、闇はどうだった」
水神がそう言うと、その場の空気が強張った。
「……予想外だったわ」
「どういうことだ」
「……闇はまだ生き残ってる。むしろ、“増えてる”」
その言葉に場にざわめきが過る。
「“増えてる”? どういうことだよ。闇は全滅させただろーが」
雷神がそう言った。
どこか乱暴で何事にも自分を曲げない性格をもつ雷神は、身を司る神。
神々の中では“足”の役割を務める。その持前の素早さもあり、情報収集が主な役目だ。
「“生き残っている”ならわかりますが……」
風神はそう呟く。その声は不安を滲ませていた。
心優しい風神は、徳を司る神。
神々の中では“左手”の役割を務める。“左手”は治癒の役目。主にサポートする立場で、戦闘時は怪我の治癒をするのが役目だが、戦闘時に限らず神々の疲労なども回復させたりする。
炎神は一度目を伏せ、そして神々の疑問の理由を答える。
「火ノ国に闇が襲撃したことは言ったわよね。一人だと思ってはいたんだけど、その一人の強さを考慮して騎士団の半分を連れて行ったの。でも――」
説明をしながらその脳裏にあの光景が蘇った。
あの衝撃的な光景、そして残虐な光景――。
「――全滅した」
「何――?」
炎神の言葉に、神々は自らの耳を疑った。
場が蒼然となる。
「全滅した、だと――?」
炎神は頷いた。
「闇は一人じゃなかったの。数えられないほどいた」
「そんなはずは……」
水神はそう呟く。
「本当よ。……そして私についてきてくれた騎士たちは皆死んだ」
「炎神のところの騎士もそんな弱い訳じゃなかったよねー? むしろ強いほうだと思うんだけど……」
誰もが戸惑い黙り込む中、氷神が戸惑いつつも僅かに声を震えさせそう言った。
美しい風貌を持ちながらも、他の神々に比べどこか幼い雰囲気を持つ彼女は、氷神――美を司る神だ。
彼女は神々の中でも、“目”と“耳”、そして“声”の役目をもつ。幻覚を得意とする彼女はそれを活かし戦闘だけでなく情報収集のときなど様々な場合においてもそのサポートをする。
「確かに、一人一人は弱かったわ。でも、それをもまかなえるほどの数だった」
「そんなに、いるのかよ……」
少しの間、彼らを重い沈黙が包んだ。
誰もが戸惑い、そして不安を覚えた。それと同時に、疑問を持つ。
沈黙を破りその疑問に答えを与えたのは、火神だ。
「――闘ってて違和感を持ったの。……確かに闇の魔法なんだけど、何か違う」
その言葉に、神々はうつむきかけていた顔をあげた。
「何か、というと?」
「……そうね――炎や氷とかの闇ではない普通の魔法が、闇になったような感じ。私たちが闇と闘ったときの、あの闇魔法を使ったのを見なかったの」
水神が眉間に皺を寄せ、火神に言う。
「なんだと――? 普通の者たちが、闇に堕ちたということか?」
「ええ、そんな感じよ」
思わず神々は黙り込んだ。
信じられないことだったのだ。
今までそんな例を見たことがない。
「それと、闇の者達の中にリーダーのような、中心人物がいたわ。……まだ幼いように思えたけど」
「中心人物か。そいつが闇に誘い込むなりして仲間を集めてるんだろうな……」
「でも幼いんだぁ。男の子? 女の子?」
「顔を隠してたからわからないけど、声的には男だったわよ。でも幼いっていっても、きっとあの子が一番強い。……私たちと同じくらいかも知れないわ」
その言葉もまた、神たちにとって信じられないものだった。
「は? オレたちと同じ? ――んなことある訳ねぇだろーが」
雷神がまるで馬鹿にするように鼻で笑いながら、そう問いかける。
「いいえ、本当よ。……彼の考えがわからなかったの。心も読めなかった」
神の中でも心を司る彼女が、その心理を読めない。
それは通常ではありえないことなのだ。
「炎神が、か?」
「そんなっ……だって、炎神は心を司るのにー!?」
「ええ。……何も、わからなかった。あの子は攻撃もしてこなかったから。……ただ感じたのは、人が殺される光景を楽しんでいたわ。……それと、どこか悲しみを感じた」
神に対しては心を読むことは難しいが、察することはできる。
だがそれは“神”に対してだけ。
あまりにも異例だった。
それは神である彼らを混乱させるのに十分すぎるほどだ。
「結局、その男の子には何もできなかったわ。すぐにその場を去ってしまったから……」
「下手に闘うのもよくない。今回はそれでよかっただろう」
水神が炎神にそう返す。
その時、氷神と風神が火神に問いかけた。
「全滅しちゃったんだよね……? その場はどうなったのぉ?」
「闇が勝ってしまったのですか? それともやはり、炎神が闘って闇は倒されたのでしょうか?」
二人の問いに水神も雷神も、火神のほうに目を向ける。
「――それが、彼によく似たアルフォンスって名前の少年が助けてくれたの」
「アルフォンス?」
「そう。緋色の髪と朱色の瞳の少年」
「うーん、闇の子が姿偽ってるとかー?」
「いや、それはねぇだろ。俺たち神が見抜けないわけない」
「ぼくたち神には、本当の姿が見えますからね」
雷神や風神の言ったとおり、彼ら神に魔法による幻覚は通じない。
それも当然。魔法は彼ら神々によってつくられたのだから。
彼らに上回ることはできないだろう。
そのために幻覚は通じることはなく、幻覚で姿を偽っていたとしても彼らの目では真の姿を見ることができる。
「闇は黒が象徴だからな。もしソイツが闇の少年なら、髪も目も黒く見えるはずだろう」
「そう、だから私もあの少年ではないって思ったの。でもそのアルフォンスって子、魔法が使えないみたい」
「魔法が使えない? 竜と契約してないってことか?」
「そうみたいね。剣もただのそれだったわ」
「そんなことってあるのかよ」
それもまた、今までにない異例の事態だった。
「え? でも待って待って。魔法も使えない子が、炎神を助けたっていうのー?」
氷神の疑問も当然。
魔法の使えない者が使える者に敵うはずがない――それが普通の考えだろう。
「ええ。剣術の強さが尋常じゃないの。魔法が使えないからこそ強いのだろうけど。ただその子、闇の少年と同じで心が読めないのよ。時々察することさえできないことがあるの」
火神の言葉に、他の神々は呆然とした。
そして沈黙が流れる。
暫くして、水神が溜め息をつき言った。
「……とりあえず、そいつに関してはもうしばらく様子を見よう。また何かわかったら報告してくれ」
「わかったわ」
炎神は頷いてそれに応える。
「騎士団のほうは大丈夫なのですか?」
「ええ、今日で終わらせたわ」
「さすがです。ですが、疲れがたまってるみたいですよ。回復しておきますね」
風神がそう言って、炎神のほうに左手を向けた。
するとやわらかい優しい風が火神を包み込み、彼女の疲労が回復する。
「ありがとう」
炎神は微笑を浮かべそう言った。
「暫くはここに来なくていい。また何かあったときに来い。今は国とそのアルフォンスという名の少年に注意しろ。いつ闇が来るかもわからないからな」
「ええ、そうね。そうさせてもらうわ」
炎神がそう答えると、水神は神々全員に向け言う。
「俺たちも気をつけよう。闇はまだ生きている。いつ、どこに襲撃してくるかわからない」
「だな」
「はぁい」
「わかりました」
「じゃあ今回はこれで解散としよう」
そう言うなり、水神はその身を突如現れた水に隠しそのまま姿を消した。
すると次々と他の神々も姿を消していく。
氷神は氷に、風神は風に、雷神は雷によって身を隠しそして姿を消していった。
炎神もそれに習い、炎によって身を包み姿を消し、その精神を異空間から元の世界に戻した――。




